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8 冬の国の舞踏会(1)


 というわけで、やってきました舞踏会。

 王子にエスコートされ、私は緊張気味に大広間へと足を踏み入れた。


「《奇跡の国》王太子アレクシス殿下、並びにアデリーナ妃殿下のご入場です」


 優雅に微笑みながら、さりげなく会場へと視線を走らせる。


 ……よし! 思ったより浮いてない!


 侍女のリサーチの元、今日の私はシルク生地の上品な光沢が美しい、ゴールドベージュの落ち着いたドレスを身に纏っている。

 胸元から腰にかけて、刺繍やビーズで美しい花の模様が描かれていて可愛いんですよね。

 もちろん、体を冷やしすぎないように肩から手首までを薄手の生地で覆ってくれるデザインを選んだ。

 目立ちすぎず、かといって地味すぎないこのドレスはいい塩梅あんばいだ。

 周囲から向けられる視線もおおむね好意的で、安堵に胸をなでおろす。


「アレクシス王太子殿下、アデリーナ妃殿下、今宵は存分に楽しんでいってください」

「お二人のための舞踏会ですもの」


 国王夫妻に挨拶をすると、暖かい言葉を返してくださる。

 あとはダンスで失敗さえしなければ……と私が考えた、その時だった。

 再び大広間の扉が開き、人々が驚いたように息をのむ音が聞こえてくる。


「セオドラ王女殿下のご入場です」


 反射的に振り返り、私は少し驚いてしまった。

 皆の注目を一身に集め現れたセオドラ王女は、大胆に肩を露出したなまめかしいデザインのドレスを身に着けていたのだから!

 とてもお美しくていらっしゃるけど……まず第一に、「寒くないのかな……?」と気になってしまうのが人のさがですよね。


「この国のお生まれなので、寒さにはお強いのでしょうか」

「……かもしれないな。なんていうか、彼女は案外……君の姉と似たタイプなのかもしれない」

「えっ?」


 よくわからない感想を漏らした王子の方を見上げると、なんていうか苦虫を噛みつぶしたような表情をしていた。

 そうこうしているうちに、セオドラ王女が私たちの元へとやって来る。


「ごきげんよう、アレクシス殿下、アデリーナ妃殿下」

「お招きいただき感謝いたします、セオドラ王女」


 間近で見たセオドラ王女は、確かに匂い立つような色気を放っていた。

 ……なるほど。確かにヒルダ姉さんと似たタイプなのかもしれない。

 知らず知らずのうちに、心がざわついてしまう。


「アレクシス王子殿下と妃殿下のダンス、楽しみにしておりますわ」

「そんな、お恥ずかしいです」

「とても似合いのお二人だと評判だとか。……アレクシス王子殿下、どうかその後、わたくしにダンスを教えてはいただけませんか? こんな田舎の小国では、なかなか外の方にお相手をしていただく機会がなくて……」


 セオドラ王女は少し恥ずかしそうにそう告げた。

 なるほど、それは由々しき問題ですね……。


「アレクシス王子ならぴったりですね、とてもお上手でいらっしゃいますから」


 私は励ますつもりでそう口にしたけど、その途端王子は少しだけ困ったように眉根を寄せた。


「だが……」


 おや、いつも堂々としている王子でも、自信がなくなることがあるのかな?


「大丈夫ですよ、王子! 王子のダンスの腕前は私が保証しますから!」


 勇気づけるようにそう言うと、王子はため息をついた。


「……わかった。君がそう言うなら受けよう。セオドラ王女の、練習の相手として」


 なぜか「練習」の部分をことさら強調して、アレクシス王子は渋々と言った様子で頷いた。


「まぁ嬉しい! 楽しみですわ!」


 セオドラ王女が嬉しそうにそう口にし、蠱惑的な笑みを浮かべた。

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[一言] わざとやらかしますかな?(笑)
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