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7 お妃様、懸念する

「……というわけで、どうも年々冬が長くなるという現象が起こっていて、住民は悩まされているようです」

「なるほどな……」

 

その夜、私は昼間聞いた話を皆に伝えた。

 だんだんと長くなる終わらない冬と、この地に伝わる雪原の魔女の伝承。

 気になりますよね……。


「それで、城下町があんなに閑散としていたのかもしれないな」


 王子は真剣な顔で考え込んでいる。

 その横では、コンラートさんがぱらぱらと帳簿をめくっていた。


「確かに……特段気にするほどではないと思っていましたが、我が国との交易量も年々減少傾向にありますね。魔女の仕業かどうかはわかりませんが、長引く冬のせいで経済活動が停滞しているのでしょう」

「なんとか、できないでしょうか……」


 そう呟くと、王子は言い聞かせるように口を開いた。


「……アデリーナ。君の優しさは君の大きな美徳でもあるが、これは《深雪の国》の問題だ。もちろんグスタフ王より支援要請があれば我が国としても応える心積もりはあるが、今の時点では早計だろう」

「そう、ですよね……。出過ぎた真似を申し訳ございません」


 そう言うと、しゅんとした私を慰めるように、王子は優しく笑う。


「いいや、君のその思いやりのおかげで新たなことに気づけたんだ。君は、いつまでもそのままでいてくれ」

「王子……ありがとうございます」


 まだまだ王太子妃としては半人前もいいところの私だけど、少しでも王子のお役に立てているのなら嬉しい。

 もっと、二人で足りないものを埋め合えるような関係になれたら……素敵ですよね。


「でも、なんでそんな異常気象みたいな現象が起こってるんですかね? なぁチビ、お前の仲間の仕業じゃないのか?」


 ゴードン卿が珍しく真面目に話を聞いていたロビンを突っつくと、ロビンは憤慨するように飛び上がった。


「むっ、妖精はそんなことしませんよ! 僕たち妖精は、人間が幸せに暮らせるようにいろいろお手伝いしてるんです。季節を巡らせるお手伝いだって、人間を困らせるような真似はしませんよ!」

「でも、前の猛吹雪はお前の仲間が原因だったんだろ?」

「そ、それはそうですけど……スニクだって悪気があったわけじゃないし、わざとこんな異常気象を起こしたら冬の妖精王に怒られるに決まってます」


 ロビンが言うには、彼ら妖精は妖精王の指導の元、各地で人間が暮らしやすいよう季節を巡らせるお手伝いをしているのだとか。

 前に私たちが出会った冬の妖精――スニクもあえて猛吹雪を起こしたわけじゃなくて、ただ南の地に冬を届ける途中に、トラブルに見舞われただけだった。

 となると、この国の長い冬の原因は妖精のいたずら……ではないんだろう。

 だったら、やっぱり「雪原の魔女」なる存在がいるのだろうか。


「魔女、か……」


 あまり自覚はないけど、おそらく私も魔女の一人。

 でも、私は皆を困らすような悪い魔女じゃなくて、皆を幸せに出来るような善い魔女を目指している。

 だからこそ……同胞(という言い方が正しいのかはわからないけど)の悪い評判は、気になってしまうんですよね。

 もちろん内政干渉をする気はないけど、私に何かできることはないかな……と、ついつい考えてしまう。


 ……おとぎ話に出てくる魔女は、だいたいいつも悪役で。

 私はそんなイメージを払拭ふっしょくできたらいいな……と思っているのだけど、道のりは遠そうだ。

 ため息をついた私に気づかわし気な視線をやり、王子は空気を変えるように明るい声を出した。


「それはそうと、アデリーナ。明日の夜は城で舞踏会を開いてくれるそうだ。準備の方は大丈夫か?」

「わわっ、そうでした……」


 忘れていたことを思い出し、私の頭は一気に明日の舞踏会のことでいっぱいになった。

《奇跡の国》とは気候が違うから、あまり薄着でも厚着でも困っちゃいそうなんですよね。

 この国の流行も抑えてあまり浮かないような格好にしたいし……考えることはたくさんある。


「妃殿下、現在のこの国の流行についてはばっちりリサーチいたしました!」

「本当? 助かるわ、ありがとう……」


 私についてきてくれた侍女がそう言ってくれて、ほっと安堵に胸をなでおろす。

 はぁ、王太子妃って思ったより大変ですね……。

 魔女や終わらない冬のことは少しだけ置いておいて、私は侍女とみっちり作戦会議に入ったのだった。

 

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― 新着の感想 ―
[一言] ロビンの言う事は当てにならんからなぁ…(笑)
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