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5 お妃様は気づかない

 翌日は、セオドラ王女がお城を案内してくださった。

 煌びやかな外観に重点を置いた《奇跡の国》の王宮とは違い、ここ《深雪の国》のお城はどちらかというと「要塞」のような造りになっている。


「冬の寒さが厳しいこの国では、時期によっては雪に閉ざされ街の外へ出ることも叶いません。そのため、ある程度は自給自足で賄えるようにと城内にも畑をこしらえているのです」


 おぉ、なんとも素敵なお話ですね。

 同じく畑に情熱を燃やす身としては、是非とも拝見したい……!


「そちらもご案内いたしますね。あっ、ですが……」


 にっこりと笑ったセオドラ王女だったけど、何かに気づいたように手を口で覆った。


「あの辺りは土がぬかるんでいて、とてもアデリーナ妃を歩かせられるような場所ではございません。アデリーナ妃には絵画の間をご案内いたしますので、そちらをお楽しみくださいませ」


 あぁ、お気遣いはありがたいのですが私はどちらかというと畑の方が見たいんですよね……。

 でも、せっかくのセオドラ王女の提案を無下にするわけにもいかない。

 私は失意を押し隠し、微笑んで頷こうとした。

 その途端――。


「いや、その必要はない」


 王子が堂々とそう宣言したかと思うと、私の体は宙に浮いた。


「ひゃっ!?」


 なんと、王子がいきなり私の体を横抱きに抱えあげたのです!


「お、王子!? いったい何を――」

「土がぬかるんでいるのが問題なんだろう? こうすれば何も問題はない」


 慌てる私に、王子はしてやったり、というような顔で笑っている。

 セオドラ王女は一瞬ぽかんとした表情を浮かべたが、すぐに毅然と口を開いた。


「……お言葉ですが、その状態だとアレクシス王子のご負担になるのでは」

「このくらいなんともないさ。なにしろ俺の妻は羽のように軽いからな。本当に地上に舞い降りた天使なのかもしれない」

「ううぅぅぅ……」


 私は恥ずかしさのあまり王子の胸にぎゅっと顔を押し付けた。

 王子の大嘘つき!

 確かに、王太子妃としてドレスに身を包んで公の場に出ることも多いので、太りすぎないようには気を付けていますが……とてもとても、「羽のように軽い」なんてことはないんですからね!?


「案内を続けてくれ、王女」

「……承知いたしました」


 セオドラ王女の声も心なしか硬い。

 やっぱり、私たちの奇行にドン引きしていらっしゃるのでは?


「王子っ……私は大丈夫ですから降ろしてください!」


 小声でそう頼んだけど、王子はいっこうに私を降ろそうとはしなかった。


「君だって畑が気になるだろう?」

「それはそうですけど……」

「それに……俺が君と離れたくないんだ。俺のわがままだと思って大人しくしていてくれ」

「うぅぅ……」


 そんな風に言われたら、これ以上反論なんてできないじゃないですか……。

 結局私は、おとなしく王子に運ばれることになってしまった。




 たどり着いた畑は、心配したほど地面の状態が悪いわけではなかった。

 これなら、気を付けていれば私の靴で歩いても大丈夫そうだ。

 王子もそれを悟ったのか、優しく私の体を地面に降ろしてくれる。


「ほら、畑については俺よりも君の方がよほど詳しいだろう。行っておいで」


 王子に背中を押され、私は一歩足を踏み出した。

 私の畑でも見られるような野菜や、見たこともない野菜まで様々な種類の野菜が育てられている。

 勇気を出して近くで農作業に従事していた方に声をかけると、色々なことを教えてくれた。


「これはルタバガといって、スープに入れたりオーブンでじっくりローストしても美味しいのですよ」


 一見カブのようにも見えるその野菜には、様々な調理法があるという。

 勉強になりますね……。


「我々は幾度もの長い冬を、こうして乗り越えてきました。ですが、それもいつまで持つか……」

「……何か、あったのですか?」

「近年、どんどんと冬が長くなっているのです。私が子どものころはもっと暖かな大地を拝むことができていましたが、最近ではどんどんと春が来るのが遅くなり、一年のほとんどが冬のような状態です。若者たちの中にはこんな土地に見切りをつけて、南へ向かうものも多く……寂しい限りです」


 初めて聞く話に、私は思わず絶句してしまった。


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[一言] また、イチャついてるし……(´・ω・`)
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