3 王子様、警戒する
アデリーナが逃げ込んだ部屋の扉を見てニヤニヤしていると、何やら話し合っていたコンラートとゴードンが揃って白い目を向けてきた。
「王子、私たちが同じ空間にいるのわかってますか? そういうのは二人っきりの時にしてください」
「至近距離でいちゃいちゃトーク聞かされるこっちの身にもなってくださいよ」
「仕方ないだろう、アデリーナが不安そうな顔をしていたんだ」
そう言うと、二人は何やら悟ったように言葉を詰まらせた。
「あー……」
「あれは災難でしたね」
「まったくだ。幸先悪いな」
思わず大きくため息が漏れてしまう。
「セオドラ王女、厄介だな……」
何を隠そう、先ほどから俺を悩ませているのは……この《深雪の国》のセオドラ王女だ。
「王子、めちゃめちゃロックオンされてましたね」
「あの場で王女の腕を振り払うんじゃないかと思ってハラハラしましたよ」
「まったく、どういう教育をしてるんだグスタフ王は……!」
セオドラ王女はあろうことか、アデリーナの前で俺の腕に腕を絡めてきた。
アデリーナが王太子妃だと名乗った、その直後にだ。
はっきり言って常識を疑う。
《深雪の国》はそこまで我が国と文化が異なっているとは聞いていない。
妻が目の前にいる既婚者への態度として、どう考えてもやりすぎだ。
「しかも、グスタフ王は止めようともしませんでしたね」
「家族ぐるみで嫁入りを画策されてるんじゃないですか~?」
「勘弁してくれ……」
俺が側妃を募りにやって来たとでも思っているのだろうか。
そうだとしたら、勘違いも甚しい。
俺はアデリーナ以外の妻を迎えるつもりは全くないというのに。
「とにかく、注意が必要そうだな……」
「王子だけでなく、妃殿下の方にもですね。でも王子、我を忘れて向こうの方々に詰め寄るような真似は控えてくださいね。曲がりなりにも国の代表としての訪問ですので」
「そのくらいはわかっている」
本当はすぐにでもセオドラ王女の腕を振りほどきたかった。
だが、俺の立場でその行動は許されない。
まったく、面倒なものだ。
「……お前たちも、できる限りアデリーナに気を配ってくれ。先ほど実感したが、アデリーナの笑顔が曇るのが一番心に来る」
あの愛らしい笑顔を見られなくなるのが、俺にとっては何よりも恐ろしい。
彼女が笑うだけで心が満たされる。
そんな大切な存在を、やっと見つけられたのだから。
……何があっても、俺がアデリーナを守らなければ。