14 お妃様、アルパカに癒しを求める
「はぁ…………」
ため息をつきつつモコモコの毛をブラッシングしていると、アルパカちゃんが「フェ~?」と気の抜けるような声を発した。
ごめんね、今はとにかくあなたのモフモフに癒されたいの……。
「お疲れのようですね、妃殿下」
「ダンフォース卿……。私、うまくできるかしら……」
私の専属騎士であるダンフォース卿が、気遣うように声を掛けてくれる。
何を隠そう、私の心に重くのしかかっているのは、数日後に控えた南の国の使節団の歓迎の宴だ。
「妃殿下なら問題ありませんよ」
「でも私、本当に社交って苦手なの。向こうの国の方も私みたいなのが王子の妃だったら、この国ごと舐めてかかるかもしれないわ……!」
私だけ馬鹿にされて終わりならそれでいいけど、この国や王子のことを馬鹿にされるかもしれないと思うと気が気じゃない。
はぁ、今からでも誰か私の代わりにお妃様をやってくれないかしら……。
ぎゅうぅ……と気を紛らわせるように抱き着くと、アルパカは「フーン」といつものように、気の抜ける鳴き声を発した。
うーん、このゆるゆる感がたまらない……。
「そう心配なさらずとも大丈夫ですよ。王子はああ見えて優秀な方ですから、きっとうまく妃殿下のサポートもしてくださるかと」
現実逃避する私を、ダンフォース卿は優しく励ましてくれた。
彼をはじめとして、私と王子の本当に近しい側近たちには、私たちの事情についても正直に話していた。
いずれ離縁される妃の専属騎士なんて、彼にとってはある意味汚名にしかならないかもしれない。
それなのにダンフォース卿は、いつも文句ひとつ言わず私の警護を担当してくれるだけでなく、こうやって励ましてもくださるのだ。
「今日は練習はやめにして、一日ゆっくりリフレッシュしましょう」
「リフレッシュ……」
「妃殿下のお好きなことをなさるのです。こうやって動物たちの世話をしてもいいし、畑仕事をしてもいいし、厨房に立つのもいいでしょう」
そう言って、ダンフォース卿はにっこりと笑う。
はぁ、容姿、地位、実力が揃っていて、更に性格もいいなんて無敵だわ。
「……全部やるわ。まず動物たちの世話をして、それから畑を見に行って、収穫した野菜を調理して食べてやるんだから……!」
そう考えると、途端にワクワクして来てしまう。
やる気満々にアルパカのブラッシングを再開させた私を見て、ダンフォース卿はくすりと笑った。
「……妃殿下、確かに貴女は宮廷の多くのレディと比べると少し風変わりだともいえますが……自然体を忘れない貴方は、他の誰にも負けないくらい魅力的ですよ」
「え…………?」
「貴方の笑顔は、どんな華美な宝石よりも美しい。それを、忘れないでくださいね」
そう言ってウィンクしたダンフォース卿に、私は照れるべきか呆れるべきかわからなくなってしまった。
……はぁ、近衛騎士ってお世辞スキルも必須なのかしら。