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14 お妃様、祈る

「なっ……!?」


 王子は驚いたように目を見開き、すぐに後退した。


「なんだあれは……」


 攻撃が阻まれたことで、王子が苦々しく表情を歪める。

 突然現れた謎のベール。一瞬でわかりにくかったけど、確かに魔法の気配を感じた。


「まさか……姉さん!?」


 もしやと思い顔を上げると、バルコニーにいる姉さんと目が合う。

 その途端、姉さんはしてやったり、という顔で笑った。


「あら、私は援護が禁止だなんて一言も言ってないわよ?」

「そんなのルール違反じゃない!」

「何言ってるの、ルールを決めるのは私よ。悔しければあんたもやってみればいいわ。ほら、早くしないと愛しの王子が負けちゃうわよ?」


 姉さんが何事か呟くと、明らかにジャバウォックの動きが速く、鋭くなった。

 先ほどまで優勢だった王子も、だんだんと押されていくのが見て取れる。


「くっ……」

「王子!」


 このままじゃ王子が危ない……!

 早く、なんとかしなきゃ。私が……。

 視線の先で、ジャバウォックの鋭い爪が王子に向かって振り下ろされるのが見えた。


「危ない!」


 お願い、王子を傷つけないで……! 

 私は必死にそう祈った。すると、その祈りに応えるかのように……王子を守る白いベールが現れ、ジャバウォックの攻撃を跳ね返す。


「アデリーナ、今のは君がやったのか!?」

「わ、わかりません……!」


 私がやったの!? どうやってやったの!? 残念ながら自分でもよくわかりません!

 あたふたする私を見て、バルコニーの姉さんは不敵に笑った。


「ふん、できるならもっと早くやればいいのよ。まぁ、あんたごときが多少頑張ったところで私とジャバウォックに敵うわけがないわ!」


 姉さんの言葉に応えるように、ジャバウォックが勇ましく翼を広げてみせる。

 まだまだ、戦意は失っていないようだ。

 だったら、私たちも負けていられない。

 姉は魔法でジャバウォックの援護をしている。なら、きっと私にもできるはず……!


「王子、頑張ってください!」


 祈りながらそう声をあげると、王子はしっかりと応えてくれる。


「……あぁ。不思議の君の声を聞くと力が湧いてくるようだ」


 王子は態勢を立て直し、ジャバウォックへと斬りかかる。

 一人と一匹は、一進一退の攻防を続けている。

 だが、もうほとんど日は沈みかけてきた。


「もうすぐ時間切れね、アデリーナ。やっぱり、あんたには無理だったのよ」


 姉さんが挑発するようにそう口にした。


「身の丈に合わない『お妃様』なんてもうやめなさい。周りにも迷惑がかかるだけよ。あんたがいなくなっても、他にもっとふさわしい人はいくらでもいるわ」


 姉の言葉が、鋭い薔薇の棘のように私の心を抉っていく。

 ……わかってる。私みたいな人間が、お妃様に向いていないなんて。


 エラや姉さんのように、皆の視線を引き付けるような圧倒的な魅力があるわけじゃない。

 でも、それでも……私はお妃様でいたい。これからも、王子や皆の傍にいたい。


 だから、私はしっかりと顔を上げて、姉を見つめ返した。


 今までだったら、こんなことはできなかった。姉の暴言に、ただ俯いていただけだった。

 でも、私は変わった。もう、誰かの言いなりのアデリーナじゃないんだから!


「……何を言われても、私はやめないわ。王子が傍にいるのを許してくださる限り、王子の隣が私の居場所よ!」


 力強くそう言い返すと、姉は驚いたように目を丸くした。

 まさか、私がこんなふうに反撃してくるなんて思っていなかったのだろう。


「あぁ、その通りだ」


 私の言葉に呼応するように、王子は力強く剣を構えなおした。


「たとえ他の誰が何を言おうとも、俺の隣に立つのは……妃はアデリーナ以外はあり得ない」

「王子……!」


 そうですよね、これが私たちの見つけた私たちの形。

 たとえ姉さん相手でも、好き勝手なんてさせないんだから!

 私の想いに呼応するように、体の奥から魔力が溢れ出すのを感じる。

 大丈夫、今なら何だってできるはず。


「どうか、王子に力を……!」


 一心に、私は願った。

 そんな私の願いに呼応し、王子が握る剣が淡く光を放ち始める。


「君の想い、しっかりと受け取ったからな」


 そのまま、王子は軽やかな動きでジャバウォックに斬りかかった。


「ギャウ!」


 ジャバウォックの体が宙を舞い、地面に叩きつけられる。

 姉さんはその姿を見つめて小さくため息をついた後……聞いたこともないような、優しい声で語り掛けた。


「……お疲れ様、ジャバウォック。私の元へ戻っていらっしゃい」

「キュウ……」


 姉さんの声を聞いて、よろよろと起き上がったジャバウォックはぱたぱたと力なく羽ばたき、バルコニーへと飛んでいった。

 姉さんは優しくジャバウォックを撫でると、再び私たちに視線を移す。


「……残念ながら、私の負けのようね。入っていらっしゃいな」


 姉さんがそう告げると、離宮の入り口の扉がひとりでに開いた。

 私と王子は顔を見合わせ、頷く。


「……行きましょう」

「あぁ」

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