表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

136/271

11 お妃様、反撃に出る

 

 大きく深呼吸して、今一度状況を整理する。


 姉さんは無茶苦茶なゲームを私にけしかけて、離宮に籠城している。

 日が沈むまでに私が姉さんの元までたどり着けば私の勝ち。時間切れになったら姉さんの勝ち。

 離宮の周辺……特に生け垣の迷路の中には、姉さんに操られた使用人たちがいる。

 離宮の入り口と庭園の周囲は魔法の茨に取り囲まれ、出入りは難しい……か。

 絶望的な状況にも思えるけど……。


「でも、これだけの魔法を仕掛けたとなると……何か媒介になる物が存在するんじゃないかと思うんです」


 例えば魔法陣とか。何か媒介になる物を用いることで、通常よりも大規模な魔術を行使することができると魔導書に書いてあった。

 ただ媒介――力の源を壊されれば、魔術も壊れてしまう。

 そのため魔術師たちは、そうとはわからないように媒介を隠そうとするのだという。

 よくよく観察して、普段と異なる点があれば注意するように……だっけ。


「姉さんは、どこかに媒介を隠してる……?」


 でも、いったいどこに?

 おそらくは離宮か庭園の中にありそうだけど、そんな広範囲の中でいったいどうやって見つければ……。


 そう考えた時、私の耳に聞き覚えのある声が飛び込んで来た。


「わーん! みんなここにいたぁ~!!」


 見れば、半泣きのロビンが一直線にこちらへ突っ込んでくるではないですか!

 王子が慌てて私を庇い、ダンフォース卿が身を挺してロビンの突進を受け止めてくれた。


「ロビン、よかった! 無事だったのね……」

「あれ、アデリーナさま? なんでそんなに小さくなっちゃったんですか?」

「姉さんに魔法をかけられたのよ! 他にも姉さんに操られた人たちがたくさん徘徊していて危な――」

「そうなんですよ! 僕なんて迷路の先で赤い薔薇の花を見てたら、五人くらいに追いかけられて! ずっと迷路の中をぐるぐる逃げ回ってたんですから! もうだめかと思いました~」

「……君はその羽で飛べるのだから、上空へ逃げればよかったんじゃないか?」

「あ」


 王子の至極まともなツッコミに、ロビンはあんぐりと口を開けている。

 ……どうやら、「上空に逃げる」という手段は思いつかず、馬鹿正直に生け垣の迷路で追いかけっこに翻弄されていたようだ。

 あぁ、可哀そうに……。

 そう心の中でロビンを労わった時、私はふと違和感を覚えた。


 ……ちょっと待って。今のロビンの言葉、どこかがおかしくはなかったかしら?

 生け垣の迷路の中で追いかけっこ? いえ、その前だ。確かロビンは……。


 ――「僕なんて迷路の先で赤い薔薇の花を見てたら、五人くらいに追いかけられて!」 


 ……赤い薔薇? 違う!

 だって少し前にロビンにお守りの花を摘んできてもらった時は、白い薔薇しか咲いていないって言ってたじゃない!


「わかりました! 生け垣の迷路の先にある、赤い薔薇が姉さんの魔法の源です!」


 あの気取った姉さんの考えそうなことだ。

 生け垣の迷路の中にたくさんの人を配置しているのも、赤い薔薇を守るためなのだろう。


「ならその赤い薔薇を何とかすれば……」

「はい! きっとみんな元に戻って、離宮の入り口を阻む茨も消えると思うんです」

「とは言っても、あれだけの人数が徘徊しているとなると赤い薔薇のところまでたどり着くのも難しそうですね」


 ダンフォース卿の言葉に、私は小さく頷いた。

 確かに、解決法がわかったと言っても実際にできるかどうかは別の話だ。

 私たちは人間三人と妖精一人。しかも小さくなった私は間違いなく戦力外。

 これだけの人数で、姉さんに操られた人たちの妨害を乗り越えて目的地にたどり着けるかどうかは……正直、勝算が薄そうだ。


「……向こうの高台からは、生け垣の迷路が見下ろせるんです。とりあえずどのくらいの人数がいるのか確認しませんか?」


 まずは状況把握が大事ですからね。

 私たちは操られた人に見つからないように、こそこそと高台へと向かった。

 そっと覗いてみると……うわぁ、迷路の中には何人もの人がうろうろしている。

 これだけの人数に見つからないように赤い薔薇のところまでたどり着く……そんな方法、存在するの?


「くっ、コンラートとゴードンも連れて来るべきだったな……」


 王子が悔しげにそう零す。

 よっぽど急いでおられたのか、王子はお一人で来られましたもんね。

 あの二人がいれば、きっと心強かったでしょうに……。

 今のこの離宮の近くにいる人間は、私たち以外は皆姉さんに操られてしまっている。

 こんな圧倒的戦力差、いったいどうすれば……。


「あ!」


 その時、私は閃いてしまった!

 そうだ。この離宮の「人間」はほとんど姉さんに操られてしまっているけど、人間以外はそうじゃない!

 いるじゃない。私には心強い味方が!


「王子、牧場へ向かってください!」

「牧場? そこへ行ってどうするんだ?」


 不思議そうにそう口にした王子に、私は力強く頷いてみせた。


「強力な助っ人がいるんです。きっと、うまくいくはずです!」


 それに、牧場の近くには私がトールペインティングをするときの道具が置いてあるはず。

 あれを使えば……きっと、姉さんの魔法を打ち破れる!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 助っ人「ふぇ~」 助っ人「ヒヒーン」
[一言] ロビン···バカわいい···(*´∀`) トランプの兵隊さん達が脳内で歌い出しました!
2022/08/20 16:52 退会済み
管理
[一言] まさかの姉出現でしたか〜。 殿下やダンフォースが無事なのはお守りのおかげですね〜 もっとみんなに配れば良かったですね(笑)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ