8 お妃様、吹雪の原因を突き止める
「わぁ~! すごい! 直ってる!!」
翌朝、スニクの興奮気味の声で私は目を覚ました。
視線をやれば、スニクが私が補修した袋を見て目を輝かせていた。
「どうかしら。とりあえずの応急処置にはなったかと思うけど……」
「すごいです! ありがとうございます!!」
何度も何度もお礼を言うスニクに、微笑ましい気分になる。
よかった、スニクが喜んでくれて。これで少しは元気も出たかな?
「でも、魔法の封じ込めまではできるかはわからないわ」
「いや、おそらくうまくいったと見ていいだろう。外を確認したが、かなり吹雪が弱まっていた」
山小屋の戸が開いたかと思うと、外から王子が姿を見せた。
どうやら外の様子を見てきてくださったようだけど……吹雪が弱まってるって、本当ですか!?
慌てて外へ出ると、確かに王子の言う通り吹雪の勢いが昨日に比べて弱まっている。
「これは、袋を直してスニクが集めた羽の力を抑えることができたから……?」
「そうだろうな。だが、まだすべての羽を回収しきれたわけじゃない。勢いが弱まったとはいえ、この吹雪は脅威だ。さっさと羽を回収するべきだろう」
「そうですね……」
よし、先が見えてきた! 残りの羽を回収して、それから……。
「スニク、あなたのお友達を探しましょう」
「は、はいっ……!」
スニクが探している、ビェリィというお友達。
私の勘だけど……スニクを置いて逃げたわけじゃないと思うんだよね。
きっとどこかで会えるはず。そう信じて、私は山小屋へ戻って出発の準備を進めた。
山小屋を出て、いよいよ魔法の羽の回収だ。幸いにも吹雪はかなり弱まっており、更にロビンが私たちを守るベールのようなものを魔法で作り出してくれる。
うん、これなら動けるね!
「あそこにそれっぽい魔力を感じるよ」
「ここにも一枚ありました!」
ロビンとスニクは驚くほどサクサク羽を見つけ出してくれる。
なんでも、妖精王の魔力の宿った羽だからだいたいどこにあるのか感じ取ることができるんだとか。私も(一応)魔法使いだけど、正直その辺りはよくわからないんだよね。
なんとなく変わった気配を感じるかな? ……みたいな感覚はあるんだけど、細かい場所まではお手上げです。はぁ、私もまだまだですね……。
「あ、ここにもあった!」
銀雪に解けるように落ちている羽を、ロビンが拾い上げる。
純白の羽は私の手のひらに乗るほどに小さく、少し風が吹いたらすぐに飛んで行ってしまいそうなほど軽くてふわふわだ。
せっかく集めてくれた羽をまた失くさないように袋に入れ、きゅっと袋の口をとじる。
確実に、羽を集めるほどに吹雪が弱まっているのを感じる。
あと少し、頑張らないと!
「向こうの方角に、大きな魔力を感じます。まるで、羽がたくさん集まっているみたいな……」
不意に、スニクが遠くを見てそう呟いた。
羽がたくさん集まってるってことは、私たちじゃない誰かが羽を集めてるってこと……?
よくわからないけど……。
「行ってみましょう」
「はいっ!」
私たちは頷き合って、大きな魔力を感じる方へと足を進めた。ロビンとスニクについて進むと、やがて野鳥同士が争うような、ただならぬ鳴き声が聞こえてくる。
その途端、スニクは悲痛な声をあげた。
「ビェリィ! ビェリィの声だ!!」
「スニク!!」
スピードを速めるスニクを追いかけていくと、そこには――。
「ピャーー!!」
ばさりと翼を広げ、獰猛な目つきで相手を睨みつけ威嚇する大きな鷹と、
「チィ! チィチィ!!」
必死に鷹に立ち向かう、純白の鳥の姿が。
「ビェリィ!」
「え、どっちが!?」
「白い方です!!」
なるほど、鷹ではなく白い鳥さんのほうでしたか。
純白のふっくらした体がなんとも愛らしい、雪の妖精のような小鳥さんだ。
撫でたらさぞかしふわふわなんでしょうね……なんて悠長に感心してる場合じゃない!
鷹に比べると幾分か小さな体の白い鳥――ビェリィは、果敢に鷹へと立ち向かっていく。
だが鷹に体当たりを受け、よろよろと雪原に落下してしまった。
「ビェリィ! こんなに傷だらけになって……!」
「チィ……」
慌てて駆け寄ると、ビェリィはスニクのほうを見て弱弱しく鳴いた。
遠目には真っ白に見えた体の毛並みは乱れ、ところどころに血が滲んでいる。
きっと、私たちが来る前から何度も何度もあの鷹に立ち向かっていたのだろう。
「でも、どうして鷹に立ち向かったりなんか……」
「アデリーナさま、あの木の上を見てください!」
ロビンが何かに気づいたように鷹の背後の気を指さす。
そちらに視線をやれば……あっ、あそこにあるのは鷹の巣かな?
「あの巣の中、魔法の羽がいっぱい仕舞ってあります!」
「なんですって!?」
……そういうことか。もともと鷹がなんらかの理由で羽を集めたか、ビェリィが集めた羽を鷹が横取りしたのかはわからない。
でもきっと、ビェリィはスニクのために羽を取り戻そうと、必死に鷹に挑んでいたんだろう。
……たった一羽で、傷だらけになって、どれだけ心細かったことだろう。
私はいたわりを込めて、ビェリィの傷だらけの体を撫でた。
「……あの鷹を突破しなければ、吹雪を止めることができないというわけか」
王子が苦々しくそう呟く。
鷹は相変わらず獰猛な目つきで、警戒するように上空を旋回しながら私たちを見降ろしていた。