表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

116/271

1 お妃様、冬の訪れを感じる

「ほら、ロビン。もう起きなきゃ」

「うぅ、寒い……あと五分だけ……」

「あらあら。今度オベロン王にお会いしたら、ロビンが仕事をサボって二度寝してましたって報告しなきゃ」

「わあぁぁぁ! 起きます!! 起きますから言わないでー!!」


 体に毛布を巻きつけたままぴょーん、と飛び上がったロビンに、私は苦笑した。

 だんだんと秋の終わりを感じさせ、冬の気配が近づいてきた。

 早朝なんかは特に凍えるような寒さが襲い掛かって来て、毛布から足先を出した途端に冷え切ってしまうほどだ

 いつまでも毛布にくるまっていたい気持ちは痛いほどわかるけど……そうもいかないのよね。

 特に年中暖かな妖精の郷で育ったロビンは、とにかく寒さに弱いらしい。

 もう少し寝かせてあげたいのもやまやまだけど、一応ロビンは修行のためにここにいるんだしね? 私も修行の補佐を命じられた以上、ただ甘やかすだけじゃいけないのだ。


「今日の朝ごはんには暖かいオニオンスープが出るって聞いたから、早く行きましょ」

「ほんとですか!? わぁい!」


 途端に元気になったロビンに、思わずくすりと笑ってしまう。

 まぁ、元気なのはいいことですよね。




「う~寒い。僕冬の間はペコリーナの背中に住もうかなぁ」

「フェ~?」

「ペコリーナが困るでしょ。ほら、お水替えてきて」

「は~い」


 寒い寒いと連呼しながらペコリーナのもこもこにうずまっていたロビンに声をかけると、不服そうな声を出しながらも水を替えに厩舎の外に出ていく。ロビンの姿が完全に見えなくなったことを確認して……私は思いっきりペコリーナに抱き着いた。


「はぁ、あったかい……♡」

「フーン」


 ペコリーナの体温と極上のもふもふで、冷えた体がじんわりと温まっていく。

 私だって、暮らせるものならペコリーナのもふもふにくるまって暮らしたいですよ!

 畑仕事や動物たちの世話など、外での作業がつらくなる季節だけど……泣き言は言えませんね。


「雪でも降りそうなくらいの寒さだけど……まだ早いか」

「フェ~?」


 ここ《奇跡の国》の王都では、だいたい雪が降るのは年が明けて一番寒さが厳しくなる頃だし、年によってはまったく降らないことも珍しくない。

 雪を見たことがないらしいロビンは、「早く降らないかな~」なんて毎日言ってるけど、実際に雪景色が見られるか見られないかは運次第なんだよね。


「今年は寒いから降りそうだけど……どうなんだろうね」

「フーン」


 丁寧にブラッシングをしながらそう話しかけると、ペコリーナは同意するように鼻を鳴らした。



 ……それにしても寒い年だ。

 王国北部の山間部では、もう雪が積もっていると離宮にやって来た王子が教えてくれる。


「それも例年では考えられないほどの積雪で、近隣の民の生活にも影響が出ているようだ。王宮から調査隊を派遣し、情報収集と救援にあたらせているが……自然が相手だと中々思うようには進まないかもしれないな」

「それは心配ですね……」


 温かい紅茶を口にしながら、私は窓の外の灰色の空を見上げた。

 この空の下で、困っている人が、助けを求めている人がいる。


「……私に、何かできることはないでしょうか」

「今はまだ状況が不確かなことが多い。王太子妃である君の身に何かあってはいけないからな。……心苦しいだろうが、今は民の無事を祈っていてくれ」

「…………はい」


 ここで私がしゃしゃり出ても、できることは少ない。

 いざという時にすぐ動けるように、準備だけは怠らないでおこう。

 というわけで、張り切って手袋やマフラーを編み始めたのですが……なんと、ほどなくして事態は動いたのである。




 その日、私は用があって王子たちがお住まいの本宮殿を訪れていた。

 用も済んだので離宮に帰って編み物を再開しよう……と廊下を歩いていると、不意に言い争うような声が耳に入る。


「だからといって……俺は反対だ! そんな危険な場所にアデリーナを向かわせるなど――」


 あれ、私の話? しかもこの声の主は、アレクシス王子殿下ですね……。

 なんとなく張りつめた空気の中に、いきなりのこのこ出ていくのもはばかられたので……私はそっと曲がり角に身を隠し、様子を窺った。

 王子に、コンラートさん。それに一緒にいるのは……前に私が塔で会った魔術師さん?

 意外な組み合わせに驚いていると、魔術師さんが落ち着き払った様子で口を開く。


「しかしながら王太子殿下、我々の力では太刀打ちできない事態です。今も孤立する民のためにも、『魔法使い』であらせられる王太子妃殿下にお力添えいただくべきかと」

「……あなたたち魔術師の塔の人員では、例の異常気象の原因の究明及び対策は難しいということですか」

「えぇ、あの吹雪の中心と思わしき方向に、我々のものとは違う異質な魔力を観測いたしました。しかし我々では近づくことも、魔力源を取り払うことも叶いません。お恥ずかしながら、王太子妃殿下のお力をお借りすべきかと存じます」

「……王子、私も彼と同意見です。妃殿下に北の山へ向かっていただき、原因を探り対策を練るべきかと」

「正気かコンラート! アデリーナをそんな危険な目に遭わせるなんて――」

「……王子。これが自然現象ならともかく、何らかの魔術が絡んでいるとなると、放っておけば収まるなんて希望的観測は捨ててください。それどころか。王国全体に波及し国の存亡にかかわる可能性もあります。この現象が一部の地域で済んでいるうちに、どんな手でも打っておくべきかと」


 ――国の存亡にかかわる可能性もある。


 重い響きを持つその言葉に、私は息を飲んでしまった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] おっと?シリアススタートだな。
[一言] >いざという時にすぐ動けるように、準備だけは怠らないでおこう。 というわけで、張り切って手袋やマフラーを編み始めたのですが……なんと、ほどなくして事態は動いたのである。 で、ホントにその手…
[良い点] ロビンとペコリーナが出てきてほっこりスタートと思ったら、いきなり深刻そうな事態になっちゃいましたね…! アデリーナはきっと北の山に向かうことになるんでしょうけど、王子も付き添ったりするのか…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ