21 お妃様、お芝居をする
さてさてこれで一件落着……とはなりません!
《栄光の国》の王太子の結婚式の場で、他国の王太子妃が海賊に誘拐されるなんて前代未聞!
警備の不備は?
責任はどちらの国にある?
二国の友好関係はどうなる?
……なんて、頭が痛くなりそうな問題が山積みなのです!
だから、私は王子の提案で一芝居打つことにしたのだ。
「王子殿下、妃殿下!!」
私たちがペガサスに乗って会場に降り立つと、わっと人が集まってくる。
その中には慌てた様子のコンラートさんやダンフォース卿の姿もあって、私は申し訳なくなってしまった。
ここからは、私(と王子)の演技力にかかっている。
《栄光の国》との友好のためにも、一肌でも二肌でも脱いじゃいますよ!
「……皆さま、余興はいかがでしたでしょうか」
にっこり笑ってそう口にすると、一瞬静まり返った後……方々から歓声が上がった。
やっぱり、王子の言うとおりだった……!
結婚式の場で、他国の王太子妃が海賊にさらわれるなんて……あまりに現実離れしすぎていて、会場の人たちは余興の一部だと思っていたらしい。
だから、その誤解を最大限に利用させていただいたのだ。
「僭越ながら、式が始まるまで皆様に楽しんでいただこうと一芝居打ちましたの。海賊に誘拐される姫君と――」
「そして華麗に姫君を救い出す白馬の王子……。見事だっただろう?」
私が誘拐された一連の出来事はサプライズの余興だったのです!
どうです皆さま、お楽しみいただけましたか?
……という設定で、押し切ることにしたのだ。
弱冠無理がある気はするけど……でも、このお祝いムードの中でなんとかうやむやにするしかない……!
「必要以上にお騒がせしましたことはお詫び申し上げます。では、結婚式の続きを……あら?」
空から何か、キラキラと光る粒が降ってきている。
釣られるように顔をあげて、私は驚いてしまった。
「見て、空を飛ぶ海賊船よ!」
「この光る粒は……そうか! ディミトリアス王子の結婚を祝福しているのだな」
悠々と空を舞う海賊船は、キラキラと光の粉を降らせながら飛んでいく。
まるで、ディミトリアス王子とヘレナ様の門出を祝福するかのようだ。
……ありがとう、ハイメ。
「素晴らしい演出ですわね、アデリーナ妃!」
幸いにもハイメのファインプレーは、私たちの仕組んだ演出として受け入れられたようだ。
皆嬉しそうに歓声を上げ、私の誘拐騒動も余興の一環だと信じられたようだ。
「さあ皆さま、共にディミトリアス王子とヘレナ妃の船出を祝いましょう!」
少し遅れてしまったけど、結婚式の始まりです!
「そうですか、そんなことが……」
「お騒がせしてしまいほんっっっとうに申し訳ございません!」
紆余曲折あったけど、無事にディミトリアス王子とヘレナ様の結婚式は終わった。
それはそれは、思わずうっとりしてしまうような素敵な式でしたとも。
そんな、いつまでも余韻に浸りたくなるような素晴らしい式の後……私は全力でお二人に事情説明と謝罪をいたしました。
「ご無事で何よりですわ、アデリーナ妃」
「海賊の侵入を許してしまったのはこちらの落ち度です。アデリーナ妃が責任を感じる必要はありませんよ」
うぅ、二人ともなんとお優しいのでしょう……。
涙ぐんでいると、隣にいたアレクシス王子が口を開いた。
「一連の出来事は『式の余興』ということで落ち着かせることができた。二国の今後の友好関係のためにも、互いの不手際は不問にしてもらえるとありがたいのだが」
「あぁ、それがいいだろう」
こうして、《奇跡の国》と《栄光の国》の友好関係にひびが入ることもなく、なんとか平和は守られたのである。
はぁ、よかったよかった……。
「ふぅ、どうなることかと思いましたが……なんとか丸く収まって安心しました」
ディミトリアス王子とヘレナ様のもとを辞し、部屋に戻る道すがら。
私は安堵の息をつきながらそう王子に話しかけました。
だが王子から返事が返ってくることはなく、不思議に思い振り向くと……。
「王子!?」
ぐらり、と王子が私の方へともたれかかってくる。
慌てて支えようとして、私は戦慄してしまった。
触れた体は、燃えるように熱かった。これは明らかに普通じゃない……!
「ダンフォース卿、ゴードン卿! 手を貸して! 王子の様子がおかしいの!!」
慌てて二人の騎士に声をかけ、私は必死に王子に呼びかけた。
「王子! 王子…!」
「アデ、リーナ……」
苦しそうに表情を歪めた王子が、力なくこちらへ手を伸ばす。
私は泣きそうになりながらも、その手をしっかりと握り締めた。