表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
107/271

19 お妃様、気づけば修羅場の中心に

「アレクシス王子……!?」


 現れたのは、まさに「氷の王子」の異名にふさわしく、冷たい瞳でこちらを見据えるアレクシス王子だった。


「アデリーナさま、僕もいます!」


 王子の肩の上に、ひょっこりとロビンが顔を出してアピールする。

 突然現れた二人を見てハイメは驚いたようだが、すぐにくつくつと笑う。


「これはこれは……まさかこんなところまで追ってくるとは、ご苦労なことだな」

「たとえ空の上だろうが地の果てだろうが、アデリーナを取り戻すためなら俺はどこへ行くのも厭わない」


 その言葉に、胸がじわりと熱くなる。

 王子……こんなところにまで、私のために来てくださったんですね……!


「最後通告だ、賊。今すぐアデリーナを返せ。さもなくばその首と胴体を切り離すぞ」

「嫌だと言ったら? 海賊が盗んだお宝を『はいそうですか』と返せるかよ。それに……」


 ハイメの金色の瞳がきらりと光る。

 彼は憎しみすら感じられる視線で、アレクシス王子の方を睨んでいた。


「お前のもとにいても、アデリーナは飼い殺しにされるだけだ。こいつは籠の鳥に収まるような女じゃない。……俺はアデリーナを、不幸な魔女にしたくはないんでな」


 その言葉に、私は息を飲んでしまった。


「ハイメ、私が魔女だってこと――」

「あ? 知ってるに決まってんだろ」


 何で知ってるの!? でも、今は詳しく問いただしている時間はなさそうだ。


「わざわざ厄介な魔女を選ばなくても、妃にふさわしい女なんて他にいくらでもいるだろ。こいつは諦めろ、王子」


 ハイメの言葉に、アレクシス王子はすっと目を細めた。


「魔女だとか、そんなのは関係ない。たとえ周りが何を言おうとも、アデリーナは俺の唯一の妃だ。貴様こそ、いきなり湧いてきた癖に俺とアデリーナの間に割って入れるとでも思ったのか?」


 挑発的な王子の言葉に、ハイメはあからさまに不快そうに表情を歪めた。

 二人の間には、一触即発の緊迫した空気が漂っている。これは、よくないですね……!


「わぁ~。アデリーナさま、これってあれですよね。『私のために争わないで~』ってやつ?」

「ロビン……! たぶんそんな生やさしい感じじゃないわ!!」


 こんな時でも、ロビンはどこか嬉しそうにぱたぱたと私のもとへ飛んできた。

 慌ててロビンを手のひらで抱きかかえながらも、私ははらはらと二人から目が離せなかった。


「……口を慎めよ。王子だろうが何だろうが、海賊にとっちゃただの敵だ。デイヴィ・ジョーンズの監獄に送られたくなきゃさっさと消えな」

「貴様こそ、ただのならず者が偉そうな口を叩くものだな。アデリーナは既に俺の妃だ。惨めな横恋慕は身を滅ぼすぞ」

「言っとくけどな、いきなり湧いて出てきたのはてめぇの方なんだよ。俺はなぁ、もうずっと前からアデリーナのことを見てきたんだ。てめぇよりもずっと前からな」


 ハイメの言葉に、王子は驚いたように目を丸くする。

 その隙を見逃さずに、ハイメは畳みかけた。


「お前の独占欲はアデリーナを不幸にするだけだ。妃なんて狭苦しい立場に好きな女を押しやるのが、お前の愛情なのか!?」


 ……違う。

確かに、お妃様って立場はちょっと窮屈だと思わないこともないけれど……でも、私は決して不幸なんかじゃない……!


「待って」


 何とか足に力を入れ、立ち上がる。

 驚いたようにこちらを向いた二人の視線を受け止め、私は口を開いた。


「私は決して不幸なんかじゃないわ。だって――」


 大好きな人の傍にいられるから……と続けようとした時、急にがくんと船が揺れた。


「ひゃっ!」

「「アデリーナ!」」


 バランスを崩して顔面から床にダイブしそうになったけど、両側から王子とハイメが支えてくれた。

 もう、かっこよく決めようとしてたのに……! じゃなくて!!


「なに、この揺れ……!」

「ちっ……とにかく出るぞ!」


 ハイメは珍しく焦ったような表情で、王子の蹴破った船室の扉を越えて外へと飛び出した。

 どうやらこの船の船長である彼にも、今の事態は想定外のようだ。

 これはまずい……!


「行きましょう、王子!」


 あたふたと飛び回るロビンの胴体を掴み、私も外へ飛び出した。

 その途端目に入るのは、甲板に転がった死屍累々の海賊たち。


「えっ、生きてますよね……?」

「あぁ、俺の邪魔をしようとするから少し寝かせてやっただけだ」


 王子はさらりとそう言ったけど……お一人でどうやって!?

 すごく気になるけど、今はそれどころじゃない。

 何とか状況を把握しようとあちこちに視線をやり、またもや私は驚愕してしまった。

 上空でパタパタと翼をはためかせ、こちらを見下ろしているのは……まさか、ペガサス!?


「なんでペガサスが……」

「俺が乗って来たんだ。それよりも、この揺れはまずそうだな……!」


 船はまるで荒波に揺られるかのように、激しく揺れ動いている。

 ハイメはすぐさま舵に飛びついたが、すぐに舌打ちして悪態をついた。


「ちっ、制御を失ってやがる……!」

「このままだとどうなるの!?」

「最悪、墜落するな」


 ハイメが乾いた笑いを浮かべてそう口にする。

 そんな、墜落するって……。

 ハイメは真っ青になった私を見つめ、次に私を支えるように立つ王子の方へ視線をやった。

 そして……どこか切なげにため息をつくと、意を決したように口を開いた。


「お前らはあの羽が生えた馬に乗って逃げろ」

「……あなたは、どうするの」

「俺はこの船の船長だ。最後は船と運命を共にするのも悪くねぇだろ」

「そんな……」


 そう話している間にも、がくんと船が大きく揺れた。

 どんどんと船首が下へ傾き、高度が下がっているのがわかる。このままでは、そう遠くないうちに船は墜落し、海面に叩きつけられ……海の底へと沈んでしまうだろう。

 そうわかっていても、彼はこの船を離れようとはしないのだ。

 ……きっと、仲間の海賊も、この船も見捨てられないから。


「ぼさぼさしてんな、早く行け!」

「ハイメ、でも……!」

「……惚れた女を巻き込みたくねぇんだよ、そのくらいわかれ」


 そんなハイメの言葉に、私は何も言えなくなってしまった。


「……行くぞ、アデリーナ」

「王子! でも――」

「あいつの気持ちもわかってやれ」


 王子はそう言って、私の肩を抱くようにして踵を返そうとする。

 ……確かに、私がここに残っても何かできるわけじゃない。

 でも、だからって……ここでハイメや彼の仲間を見捨てるのが、正しい道なの?


 アレクシス王子が指笛を吹くと、すぐさまペガサスが甲板に降り立つ。

 王子は私を抱き上げ、真っ先にペガサスの背に乗せてくれた。

 もうかなり海面が近づいてきている。私たちも早めに逃げないと危ないだろう。


 そうわかっていたけど、私は――。


「……ごめんなさい、王子!」

「アデリーナ!?」


 するりとペガサスの背から飛び降り、再び甲板へと降り立つ。


書籍2巻の表紙が公開されました!

挿絵(By みてみん)

1巻に引き続き茲助先生に素敵なイラストを描いていただけました!

ペコリーナが可愛い!

他のイラストもとっても素敵なので、ぜひぜひチェックしてみてください!

書籍2巻は4月15日頃発売予定です!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] >するりとペガサスの背から飛び降り、再び甲板へと降り立つ。 これ、王子から勘違いされませんかね~? そして、いたのかロビン(笑)
[一言] 王子早い!ハイメかっこいい! ロビンはやっぱりあまり役には立ってない(笑) 2巻の表紙もとても素敵ですね~!ペコリーナのモフ可愛さが増している···!ペガサスさんキラキラ。そしてハイメかっこ…
2022/03/20 00:48 退会済み
管理
[一言] 王子が拗ねるぞぉ~
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ