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15 王子様、知人の横暴に焦る

 その後、王子は会場に集まっていた各国の要人たちに私のことを紹介してくれた。

 歓迎の宴でも顔を合わせた方も多いけど、初めましての方もたくさんだ。

 相手の顔と名前を頭に叩き込み、即座に相手国の情報を記憶から引きずり出し、さりげなく会話に乗せていく。

 見た目で舐められやすい分、中身では侮られないように気を付けなければ。


「さすがだな、アデリーナ。《奇跡の国》の王太子妃はまるで生ける図書館のように博識だと評判になっているぞ」

「よかった……」


 王子にお褒めの言葉を頂き、私はそっと詰めていた息を吐き出した。


 ここに集まるのはキラキラと輝いた各国の要人ばかり。

 後れを取らないように、私は私の得意分野で頑張らなくては!

 笑顔を作り続けて頬は引きつりそうだし、ひっきりなしに会話をしていたから喉はカラカラ、記憶の本棚から知識を引っ張り出してはまた仕舞って……を繰り返して、精神的にもへとへとだ。


 でも、泣き言は言えませんね。

 再び社交用の笑みを浮かべた私を、王子はじっと見つめている。

 かと思うと、彼は私の手を引くようにしてさりげなくひとけの少ないところへ連れ出した。


「大丈夫か、アデリーナ」

「だ、大丈夫です……」


 疲れを見せないように気を付け、そう答えると……。


「嘘だな」

「えっ……?」


 驚いて視線を上げると、なんとすぐ近くに王子のお顔が!

 ひゃあぁぁぁ!

 ……と驚く間もなく、こつんと額と額が軽くぶつかる。


「……あまり無理はしないでくれ。君がうっかり倒れたりしたら、俺は公衆の面前でとんでもない醜態を晒すことになりそうだ」

「でも……」

「それに、そんなに疲れた顔をしていてはヘレナ嬢に心配をかけてしまうぞ」

「そ、それはいけませんね……!」


 ヘレナ様は今日の主役なのだから、変なところで心配をかけるわけにはいかない。

 慌てて何度も頷くと、王子はくすりと笑った。


「少し休もう。何か飲み物でも――」

「こちらをどうぞ」


 その時、至近距離から声をかけられ私も王子も驚きに目を丸くしてしまった。

 慌てて声の主のほうへ視線を向けると、そこに立っていたのは……。


「ハイメ!?」

「よぉ、昨日ぶりだな」


 ……いつの間にやって来たのだろう。まったく気配なんて感じなかったのに。

 結婚式に合わせたのか洒落た礼服を身に纏うハイメは、驚く私を見てくつくつと笑った。


「……何者だ?」


 だが王子の固い声が聞こえ、私は焦ってしまった。

 そうですよ!

 私にとってハイメは知り合いだけど、王子からすればいきなり声をかけてきた不審者なんだから!


「あのっ、王子! こちらは私の知り合いの商人の――」

「ハイメ・バレンシアと申します、王子殿下。現在はクロコダイル商会の長を務めております」

「クロコダイル商会? 聞いたことがないな……」

「なにしろ新興の商会ですので、知名度という点では他に後れを取っておりますね。お恥ずかしい限りです」


 朗らかに笑うハイメに、王子もやっと警戒を解いたようだった。


「アデリーナとは昔からの知り合いなのか?」

「えぇ、昔から世話になっております。……まさか、彼女が王太子妃になるとは思いませんでしたが」


 ちょっとハイメ! そこは空気を読んでお世辞とか言ってもいいんじゃない!?

 確かに私は、とても王太子妃なんて器ではありませんが……。


 慌てる私を尻目に、ハイメは止まらない。


「彼女は昔から不憫な目に遭っていましたから、私としても心配だったんです。……王子殿下のもとで、重圧に押しつぶされてはいないかと」


 ハイメは相変わらず朗らかな笑みを浮かべている。

 だがその笑顔にどこか冷たいものを感じてしまって、私はハイメの不躾な態度を咎めることもできずに呆然としてしまった。


「北の海の魚を無理やり南の海に連れていけば、水が合わずに死んでしまいます。その逆も同じ。ましてや狭い水槽に閉じ込めて……幸せになんてなれるはずがない」

「ハイメ……?」


 何を言ってるのかよくわからないけど、間違いなく王子殿下の前でする話ではないだろう。


「……何が言いたい」


 王子もすっと目を細めて、鋭い視線をハイメに注いでいる。

 だが、ハイメは少しも怯むこともなく、話を止めようとはしない。


「あなたがもっと、何を犠牲にしてもこいつを守ってやれるような御方ならよかったのに。そうでないのなら――」

「ハイメ! 何を言ってるの!」


 相手は王子ですよ!?

 私みたいな一介の貴族の娘と同じように、軽口を叩いていいような相手ではないんですよ!?


 ハイメの横暴を止めようと、私は慌てて一歩彼に近づいた。

 だがその瞬間、腕を掴まれ逆にハイメの方へと引っ張られる。

 がくん、とバランスを崩したかと思うと……感じるのは急激な浮遊感。

 一瞬のうちに、私はハイメの肩にまるで荷物のように担ぎ上げられていたのだ。


「え……?」


 呆然とする私の耳に、更に信じられない言葉が飛び込んでくる。


「悪いな、王子様。こいつは貰ってくわ」


 そう言うやいなや、ハイメは私を担いだまま物凄いスピードで走り出したのだ!


書籍2巻の発売までに投稿間に合わない説が私の中で出てきたので、ちょっと更新頻度あげていこうと思います。

とりあえず明日も更新予定です!

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― 新着の感想 ―
[気になる点] いや、護衛は何をしているんだ!?
[一言] 本人の意思もお構いなしに連れ去るとか(゜ω゜)
[一言] おおっと、人妻(一応)泥棒だー!! ハイメさん、本人(アデリーナ)の許諾なしに盗っていっちゃあダメですよ。
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