第二十三話 矢巻の逆襲
「イケてるで」
前線基地建設について666さんとの打合せの後、個室ありの居酒屋でポルさんと宇宙船搬出に関して話している。
資料はお互いのタブレット端末で共有して、僕の計画をざっと説明する。
持ち掛けられた報酬の取り分10パーセントから、どこまで行けるかの勝負開始だ。
「マサムネくんなあ、ワシは嫌われとるようだけど中々見所あるで」
イタチ科の動物というのは地球でも神秘的な存在として扱われる事があったらしい。
「ワシらは河童扱いされとったし、鎌鼬やらムジナやら色々おるやろ」
魔法世界でも特殊な能力を身に着ける可能性は充分にあるという事だ。
「あの『ファイナルブラスト』とかいう必殺技なぁ。ワシも練習してみたけどさすがにあんなのは出せんわ」
ポルさんが何となく尻をモゾモゾさせ始めたので、僕は全力で止めた。
居酒屋でバイオテロなんて色々とシャレにならない。
「で、この計画なんですが、報酬の取り分を50:50(ごじゅうごじゅう)にしてもらいたいんですよ」
ポルさんは一瞬思案顔になったが、ほぼ即答した。
「ダメや」
「この話引っ張ってきたんもワシらでっしゃろ。畝傍の話も前から知っとったしな。どえりゃーできゃー邪神の話は本当だとしたら初耳やけど、畝傍の主砲が生きとりゃそれに魔法乗せて飛ばせば吹っ飛ばせるやろうしな」
ここまでは予想通りだ。
「アラクネの糸で網を作るちゅうのはおもろいけどな。しっかしありゃあごつう高いで」
それもわかっている。
元々対等の条件に持ち込めるとは思っちゃいない。
どこまで譲歩を引き出せるかが勝負だ。
「普通の曳航索を使って引っ張って、畝傍の主砲で邪神を撃つ。それで勝てるとは思えないんですよ。それに、魔素の圧縮と供給はどうせ僕任せでしょ?」
目の前のカワウソは飲んでいる酒が泥水に変わったような顔をした。
「わかったわかった。20:80(にじゅうのはちじゅう)でどや?」
もうひと押し。
「アラクネの糸、今は先物価格随分下がってるんですよね。ここで一気に買い付けて、その後市場に出回ってる現物を買い占め、作戦終了後に軌道エレベーター計画に絡めて色々宣伝仕掛けるなんてのもいいでしょうね。僕は今お金ないので乗れませんが」
つぶらな瞳がギラリと光る。
「エゲツない事考えよるなあ。先物市場なら価格操作もあんまり煩うないで、アリやな」
心の中で30:70くらいまで傾いた顔だ。
「あとは、白神も連れて行きます。どうやらコミュニケーションの可能性もあるようなので」
マサムネ様様だ。
畝傍の装甲がどんなもんかわからないし、魔導防壁がどこまで耐えられるのかも未知数な以上、戦闘以外の選択肢は用意しておきたい。
「山本はんでもええかもしれんがな。まあ、どっちにせよお宅持ちや」
これでまたこちらが有利になった。
そして、最後にダメ押しだ。
「今、密かに練習している魔法があるんですよ。実際にやるわけにいかないですからシミュレーションしている段階ですけどね。上手く行けば巨大な邪神が現れても確実に殺せますよ」
「上手くいかなかったら?」
「僕らはみんな海の底です」
カワウソはニヤリと笑った。肉食獣の笑みだ。ワニすらも噛み殺すという牙が剥き出しになる。
「気に入った。45:55(よんごーのごーごー)で手ぇ打とう。糸の手配と網の製造はこっちでやっとくさかい」
交渉成立だ。このカワウソ、実に金に汚いがその辺はキチンとしている。
「あんさん、随分と成長しはったなあ……」
差し出された肉球と水かきのある手を握り返す。
最高の気分だ。




