第十九話 ロボット探偵
帰路は特に問題なく、快適なドライブとなった。
土産に期限切れ間近な飲料や糧食を貰ってちょっとご機嫌だ。
事務所に着いてシャッターを開けてATVから降りると、顔に向かって何かが吹っ飛んできた。
思わず受け止めたが、ベットリとした嫌な感触だ。
見ればぐっしょりと湿った雑巾に、何やら小動物の糞尿のようなものが……。
「あ! ヤマキ?! クロ、お漏らししたの!!」
焦っているのか変身が不完全なのか、人の姿になっているのにマサムネの口調はイタチの姿と時と変わっていない。
僕の右手が! 僕の右手がぁ~!!
手を洗わないどころではなくなってしまった。
だが、最後の希望はある。帰路の道中でフランソワさんに連絡して、バイクを運んでくれたのはウサコさんだという確認が取れたのだ。
もちろん角が立たないように、「フランソワさんの体格だとサスペンションが柔らかくて大変だったでしょ?」なんて聞いてある。
これ以上大切な物を失わないように、僕は急いでバイクに駆け寄り、シートに頬擦りした。
ちょっとだけ舐めてみる。なんか苦じょっぱいしアンモニア臭もする。ウサコさんは意外とワイルドであんまりお風呂とか入らないのかもしれない。
だが、それがいい!!
「ヤマキ、そこ、汚いよ! クロ、そこで昼寝しててそのまま漏らしたの」
ブーッと噴き出して、僕は右手の雑巾で顔を拭こうとし、すんでのところで思い留まった。
「クロ! お尻にウンチ付いてるでしょ!」
「大丈夫だから! 大丈夫だから!」
マサムネとクロは追いかけっこを続けている。
「ク~ロ~」
マサムネに追い詰められつつあるクロの首根っこをむんずと掴んで、僕は事務所に備え付けられたキッチンに向かう。
足で踏んで開けるタイプのゴミ箱に雑巾を叩き込み、シンクの底にクロを押し付けると、蛇口を捻って水をぶっかけた。
「に゛~ぎゃ゛~っ゛」
悲鳴を上げるが容赦しない。
「マサムネ! 動物用シャンプー!!」
白髪の美少年がひょいとシャンプーのボトルを渡してくれる。
「だ~ず~げ~で~」
「目ぇつぶっとけ」
頭からシャンプーをぶっ掛けてワシワシと洗う。
流石に可哀想なのと汚れの落ちを考えて途中からぬるま湯にしてやった。
僕の腕に数カ所の引っ掻き傷を作りキッチンを水浸しにしてクロの入浴は終わった。
マサムネが差し出したタオルでくるんで全身をガシガシ拭いてやる。
「ひどい! 動物虐待だ! 人権侵害だ!!」
そう叫ぶとクロは部屋の隅に走って行って毛を逆立てた。
まだ濡れているので、中途半端なパンクスの崩れかけたモヒカン頭のようだ。
「いいや、僕も風呂入ってくるから」
後片付けはマサムネに任せて浴室に向かう。
シャワーだけで済ませようと思ったが、どっと疲れが出たから湯船に入ろう。
僕が浴室から戻ると、クロとマサムネが事務所の入口を見つめたまま固まっていた。
視線の先には、異形のロボットが山本さんと一緒に立っている。
漆黒のロボットは口を開いた。
いや、口を開いたというのはちょっと違う。
一発で機械音声だとわかる声で口も動かさずに言ったのだ。
「サイボーグ探偵白神、完全復活!!」




