第四話 地上50mの迎撃
『ゾンビの群れから逃げ切ったら百万圓』
『龍の村ふれあい体験引率者募集』
『ショイヨル住民の慰問と違反者処刑業務』
『ルルイエ強行偵察』
白神の遺品であるタブレットのロックを解除させ、受けようとしていた依頼を眺めて僕はしっぶーい表情を浮かべた。
「し~ら~か~み~」
幽霊状態の白神は消え入りそうな体で縮こまっている。
うちの探偵社から給料を貰いながら、何もせずに副業ばかりしていたのだから、多少キツく言ってもいいだろう。
「ゎぁ、ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさぃ」
許すも許さないも無いが、こっちの世界に連れて来てしまった責任は僕にある。
「今回だけだからな」
向こうで一回死なせたんだから、こっちで一回生き返らせてチャラだ。
「恩に着るよ。マジで」
山本さんに見せて貰った必要経費の明細を思い出してため息が出る。
輸送機とバード・オブ・プレイのレンドリース費用だけで、探偵社の通常業務二百年分の売上だ。
科学省に払うお金は思ったより少ないが、横棒の下の『プランB』の費用がべらぼうに高い。
プランAで終われば不要なのだろうが、物凄く不安になる。
しかもそこだけ明細ではなくバルクでごそっと乗せてあるのがとても怖い。
そもそもプランBは未定なんじゃなかったのか?
AB共通の『ネクロマンサー費』というのも謎だ。
美人姉妹に払う費用ではなさそうだし。
「矢巻はん、そろそろでっせ。ちょい試しにアレ撃ってみてくだせい」
ポルさんが窓の外を指差す。
ドアを開いてしゃがみ込み、ポルさんから受け取った銃を構える。寒い。
目の前には直立したイカの化け物みたいな奴がいた。
バード・オブ・プレイは相当高度を下げていて、標的までの距離は80メートル程度だろうか。
「百メーターでゼロインしてますんで、急所の眼と眼の間を撃ってくだせい。あ、眼は一番デカい眼で」
グロい。
体高20メートル程度。
基本的にイカの化け物だけど、胴体の部分にも吸盤のような円形が並んで、それが全部眼になっている。
刺し身で出てきても絶対に食いたくない。イカ焼きならなんとか。
ポルさんに渡された銃は、レミントンM870。
こっちの世界のコピー品か、元の地球から落ちてきた純正品かわからないけれど、長めの銃身で4倍のスコープが付いていた。
とりあえず、弾倉に6発装填しグリップを引いて装填し、イカの化け物に照準を合わせる。
標的はスコープ一杯に広がって見えているので、落ち着いて足の付根の一番でかい目玉二つの間に照準を合わせ、引き金を絞った。
もちろん、魔法による強化は銃と銃弾の両方に掛けてある。
火薬と魔力によって加速されたスラッグ弾が銃口から飛び出し、イカの化け物に飛んでゆく。
着弾!
かなり向こう側の雪原に……。
それでも超キモいイカの怪物はきのこ雲を吹き上げて蒸発した。
衝撃波でバード・オブ・プレイが揺れる。
「あかん、あかんわ矢巻はん」
ポルさんがため息をついて僕の手から銃を取り上げる。
「射撃が超下手なのはいいとして、あの威力じゃ白神はんの死体もこの世から消えてしまうねん。あ~、試しに撃たせといて良かった」
僕はうなだれて機内に転がった赤い空薬莢を拾いポケットに押し込んだ。




