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グールズバーグの春を愛す ~屍食鬼の街の魔法探偵事件簿~  作者: 吉冨☆凛
第二章 魔王の秘宝
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第三十七話 ネクロマンサー姉妹、殻を破る。

 マサムネとアルはドラゴンレースのノービスクラスで優勝したらしい。

 レギュレーションは違うが、上位クラスのコースレコードに並ぶ記録を叩き出したので世界戦への出場権が得られたらしいのだが、僕がダウンしている間にマサムネとアルがすっぱりと断ったという事だ。

 サジさんの所みたいな国家権力やジェイソンさんの所みたいな巨大企業のバックアップが無いと、全国を回ってレース出場するなんて無理だろうというとても賢明な判断。

 脳筋ドラゴンと臭いイタチなんてバカにしていて悪かった。

「お前ら意外と堅実なんだな」

 僕は肩の上のマサムネのぷにぷにしたお腹をつついて、耳の後ろを揉んでやる。

 きゅ~と気持ちよさそうな声を上げてからマサムネは答えた。

「うん。だからオモチャ買ってね」

 給料はちゃんと払っているのだが、どうやらオモチャやおやつといった(たぐい)は福利厚生に分類されるらしい。

 誰が決めたんだ?

 ドラゴンレースでの活躍と騒動のお陰で、依頼は引きも切らない状況だから、多少の出費くらいは構わないが。

 僕の警視庁の小池警部との対決もあり、我社が軍警寄りだと知れ渡ったのは良い宣伝になった。

 どこの世界でも一般市民を取り締まる立場の民警は不人気だ。犯罪を取り締まってくれているのだから、感謝すべき点もあるが、交通違反なんかで切符を切られれば誰だっていい気はしないのもどこの世界でも同じ。

 それに対してサジさん率いる首都警は一種の治安部隊なので、普段は一般市民とはあまり接点が無い。しかも軍の下部組織なので民衆の人気も高い。

 転移前の日本でも国民が一番信頼している組織は自衛隊だったのと同じだろう。もっともサジさんによると、彼がこっちに来た頃の日本では自衛隊は常にバッシングされていたそうだ。全く意味がわからない。

「自動式の猫じゃらし買ってやるから、クロと仲良く分け合って遊ぶんだぞ」

 マサムネは目を細めて嬉しそうな顔をする。凶悪なまでの可愛らしさだ。

 さて、仕事だ。

「「あの……矢巻様」」

 鈴を転がすような、という陳腐な表現がしっくり来る声が響く。

 しかも左右から、キッチリとハモって。

 子供の頃見た巨大な蛾の出てくる怪獣映画にこんなシーンがあったなあと思い出しながら横目で素早く左右を窺う。

 なるべく関わらないでおこうと思ったが、そろそろ限界のようだ。

 儚げな雰囲気の美少女二人。

 警視庁の小池氏が職権乱用で奴隷化しようとしていたネクロマンサー姉妹だ。

 僕と小池氏の対決を予想し、サジさんは隊員をこっそりと配置していたのだ。

 そして、マサムネが強烈な最後っ屁を放った瞬間に、僕と小池氏は昏倒。隷属の魔法を掛けられていた姉妹も当然よろめいて倒れた。

 よろめいた際、足を一歩踏み出した事を『逃走』と見做し、首都警が再逮捕したという流れだ。

 ほぼ、言い掛かりに近いが、小池氏を放し飼いにしていた責任を追求される事を恐れ、警視庁はだんまりを決め込んだ。

 マサムネも一応首都警に逮捕されたものの、綺麗に洗ってもらってから美味しいおやつを与えられ、毎日猫じゃらしで遊んでもらって一週間でしっかり太って帰ってきた。

 そして問題のネクロマンサー姉妹だが、保護観察処分だかなんだかで、一応監視下に置いておきたいという事らしい。

 そこまでは別に良い。

 マサムネを返しに来たサジさんは「民間委託だ」の一言で二人をウチの探偵社に押し付けたのだ。

 散々世話になっているから断れなかったけれど、この二人は絶対に僕の恥ずかしい場面を沢山見ているはずなのだ。

 更に正直に言えば、ネクロマンサー怖い。

 僕に直接術を掛けたネクロマンサー結社の首魁はまだ逃走中で、しばらくは現れないだろうという話だが、下っ端構成員でもやっぱり怖い。

「わたしたちは矢巻様を害するような事は決して致しません」

 リサだったかリムだったかどちらかわからないが、右側にいる方が話し始めた。

 これだから双子はややこしい。

「少しでもお役に立てればと思い、ジェイソン様からの依頼の調査報告を見せて頂きました」

 また頭の痛い話だ。

 決してサボっていたわけでは無いし、仮説を立てる所までは行ったんだけれど、決定的な証拠が無い。

「遺伝子の使われていない部分、イントロンでしたっけ、それとイースターエッグを結びつけた仮説ですね。多分、合っていると思います。高位のネクロマンサーは自己顕示欲からそういう悪戯をする人がいるんです」

 まさか僕も変な情報書き込まれてしまってる? さすがにそれはちょっと落ち込む。メチャクチャ汚された気分だ。

 ハードボイルドな探偵らしく気を取り直して、欠けているピースについてカッコ良く語るとしよう。

「でも、魔王の血を引く者のDNA情報をいくつか比較して、絶対に魔王の血族でない者の物との差異を抽出して、それで……。えーと……、えーと」

 全くカッコ良くならなかった。

 高校の頃生物をあまり真面目に勉強していなかったツケが回ってきたのだろうか。

 いや、きっと高校生物の範囲を超えているから考えても無駄だろう。

 その時、事務所のドアが乱暴に開かれた。

「話は聞かせてもらったぞ! 人類は滅亡する! じゃなくて、いいサンプルがあるから経費で落として! お願い!!」

 吉村さんだ。

「ここにファンクラブ特典でしかも抽選でしか購入権が得られない『魔王様がライブツアーで汗を拭いたハンカチ』がある!」

 物凄いドヤ顔だが、なんとなく無理しているようにも見える。

「お願い! 魔王様ファンクラブ入ってグッズを買いまくったら、給料が……貯金が……おちん○んが……」

 吉村さん、そんな下品なダジャレにもなっていないオヤジギャグを飛ばすような人だっただろうか? ひとまず、散財してお賃金が溶けて枯渇したのはよくわかった。しかも、取り繕っても繕い切れないくらい焦るレベルに。

「あとは、ジェイソンさんかなあ。多分、あの人も初代魔王の血族のはず」

 いや、魔王もジェイソンさんも人間じゃない種族の血が混じり合っているから、混じりっけ無しの人類のサンプルも必要だ。あとは、純血のドラゴン。

 異種族が交雑するための魔法が存在するこの世界じゃ、そんなもん入手困難だ。

「純血の人類のサンプルならここにたっぷりあるじゃん? ね」

 そうか。僕は転移者だし、吉村さんは転生者だ。ネクロマンサー姉妹もそのどちらかだろう。

 直接転移者であるライラちゃんの分があれば完璧だけど……。

 頼み辛い……。今まで散々誘いを掛けて断られ続けたのだ。絶対に変なロリコンだと思われている。「髪の毛が欲しい」なんて言ったら、今度は頚椎や脚だけでなく胴体を真っ二つにされそうだ。

 ドラゴンも問題だアルは六十四分の三くらい人間だって事だし、純血の龍なんてどこを探したらいいのやら。

「あるよ」

 マサムネが得意げに鼻をツンと上に向けて宣言した。

 部屋の隅に走って行き、キャビネットの裏に飛び込む。しばらくゴソゴソやっていたが、数本の金髪とカラフルな獣毛を咥えて出てきた。

「首都警に捕まってる時に抜け毛集めて作った巣。気に入ったから帰る時にお土産に貰ってきた」

 人語を解さないレッサードラゴンなら、まず間違い無く純血のドラゴンと言えるだろう。

 そして、ライラちゃんの髪。

 このイタチ、ぐう優秀。

 僕が手を伸ばすと、吉村さんがペチッと手首を叩いた。慌てて引っ込める。

「匂い嗅いだりしたらネットに晒すよ」

 いや、そんな事は……。

 キョドって左右を見回すと、今までずっと暗い顔をしていた姉妹が笑いをこらえている。

 いやあ、いい事をした。さすが異世界転移して人々を救うヒーローだな、僕は。

 笑顔を忘れた薄幸の美少女に笑いを取り戻させたんだ……。

 単に醜態晒して、めちゃくちゃ笑われてるだけだけど……。

 僕はため息をついてスマホに手を伸ばし、姫騎士陵辱オーク風天才科学者フランソワさんに電話を掛けた。

あと一話で第二章完結予定です。


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