第三十五話 日常、戻る
2020/08/27 18禁描写があると運営より警告があったため、一部改稿です。
「きいゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああ~あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛」
首都警の訓練場だ。
マサムネが悲鳴を上げている。
ドラゴンライダーとしては相当な腕前になったイタチだったが、アルは本格的に勝ちに行く方向で調整を始めたようだ。
いくら耐Gスーツ代わりの魔導防壁があるとはいえ、ジェット戦闘機並みの強烈なGをかき消すのは容易ではない。
こんな低空でも度々音速を突破するので、見守っているこちらもイヤーマフとゴーグルが必須だ。
「やっとるな、若者ども」
サジさんだ。
「済まなかった。この恩は必ず返す。まずは訓練場の使用料、この先十年は無料にしとく」
僕を囮にした一斉摘発について文句を言おうとしたが、先に謝られてしまった。
「民警にちょっと借りがあってなあ。フジヤマのケツで許してもらおうと思ったんだが、本人がケチでな」
「お尻は貸しませんよ。それに、警視総監にそんな場面見られた日にゃあ、僕と誰か可哀想な犠牲者の薄い本が国中に出回るんですからね。貞操どころの話じゃないですよ。実家のタコス屋が聖地なんて呼ばれて薄い本を持った貴腐人で埋まるなんて想像したくありません」
ラインハルトさんだ。
金髪碧眼、高身長。まさに貴公子としか形容しようがないが、実家はタコス屋らしい。
「警視総監の『ぴゅん』さん程の知名度無いので、私が描いてもいいでしょうか? 薄い本」
吉村さんが目をキラキラさせて顔の前で手を組んでクネクネしている。この腐女子め。
「描くのは勝手ですが、出禁にしますよ!」
まあ、これだけの美形で、アンタッチャブルでミステリアスな首都警なんて組織の幹部だと相当需要はあるのだろう。
知らんけど。
「それで、サジさん、小池警部なんですけど、あんな人が警察組織に居ていいんですか?」
サジさんはメチャクチャしっぶーい顔をした。
この人はこういう表情がとんでもなく絵になるんだよなあ。
「あいつは実は日本では俺の後輩だったんだ。仕事は出来る奴だった。でも、ある日とんでもない事をしでかしてなあ……」
サジさんが言うには、小池警部は日本にいた頃、自殺未遂をした隣人女性を助け、そのまま監禁しておぞましい実験に使ったのだという。
発見された時、女性は脳死状態だったみたいだが、医療器具無しでも一応『生きて』いる状態を保っていたという事だ。
そして、女性が発見された小池警部、いや小池氏の部屋に彼自身はいなかった。
どうやら、既に日本のある世界そのものから消えていたという事らしい。
「死体マニアだったんだよ。あいつは。ネクロフィリアっていうやつか」
サジさんは普通に誰でも知っている大学の建築学科を出てゼネコンに就職したという事だが、小池氏は何故か生物学科を卒業して就職してきたらしい。
「卒論は哺乳類の冬眠だかなんだかだとさ」
世界的に名の知れた大手ゼネコンの若手社員がそんな事件を起こしたとあっては、マスコミの好餌にしかならない。普段はそんな事に関わるのが嫌なサジさんも必死に火消しに奔走したらしい。
「こっちに来てみたら、ケロッとした顔で警察の幹部に食い込んでたんだぜ、あいつ。就職先のリストから真っ先に民警を消して、一番関わりを持たなくていい陸軍に入ったわけよ」
そして、ある日ガベージに落ちてきた数本のビデオテープ。そこから始まる首都警ケルベロス部隊創設秘話。
飽きる程聞いたからその話はもういいです。
って言うか、その話を暇な異世界ニート時代に散々せがんだのは僕たちでしたね、ごめんなさい。
「ネクロマンサーってのはこの世界にも少ない技能職の一つだ。だから、今回逮捕された奴らも更生したらある程度の監視付きで政府機関に囲われる可能性が高い。でも、小池なんかはある意味イレギュラーで、完全に死んだ死体をゾンビ処理をきっかけに本当に生き返らせちまうんだ。今回の事件対応に使うための死体が一二〇体くらいあったらしいんだが、九五体まで生き返って元の生活に戻れた。まさに奇跡としか言いようがない。だから、民警もあいつのルール違反を強く咎められないんだ」
胸糞が悪くなる話だ。そこで丁度マサムネとアルが戻ってきた。
「ボクたち勝てるよ! お肉を焼こう!! ボクは生肉がいいけど、バーベキューだ! パーティーだ!!」
僕の肩に跳び乗ってきたマサムネは興奮している。たしかに、例年のノービスクラスの映像見てたら、超音速での急降下から完全停止なんかする奴らはいなかった。
サジさんとかジェイソンさんたちが出るクラスだと、特撮としか思えない機動を生身の人間を乗せて平気でやっているけどな。
「あの~。バーベキューセット借りていいですか?」
僕は首都系の隊員が後片付けをサボったらしい機材を指差す。
「ああ、構わんよ。洗って返してくれればいい。肉は……そろそろライラが駆除を始める時間だ。獲物の回収を手伝ってやってくれ」
ライフルの銃声が響く。
僕は一瞬ビクッとしたが、自分が狙われているわけではないと思い直し、周囲を見回す。
「どうやら今日はイノシシがあるぞ。野生化した牛も最近うろついてるから牛と豚は確保だな。あと、鶏舎の鶏も二〇個までなら〆ていいぞ。な、フジヤマ。俺らも晩飯はそれで済ますか?」
ラインハルトさんが若干渋い顔で頷く。
「鶏は一五までにしてください。食糧自給計画に影響出したくないんで」
なんだか体よく誤魔化されたような気はするが、とりあえず僕たちの日常は戻ってきたようだ。




