第三十話 カワウソ、手伝う
「矢巻の旦那、見つけたぜ」
何やら変な機材を弄っていたカワウソが話し掛けてくる。
「あんた、スポッターなんでしょ? ライラの手伝いしないで何してんの?」
このヘンテコな生き物と話していると何だか頭がおかしくなりそうだ。
カワウソ人なんて自称しているけれど、”人”の要素が一切無い。
二足歩行する大きなイタチだ。
「これも手伝いでんがな。矢巻の魔法喰らったら俺ら粉々でしょ? そうなる前にちょいと仕掛けをしとく訳ですワ」
確かに2ブロックくらい先の高層ビルは、ほぼ全壊して瓦礫の山と化している。幸生の話では避難は済んでいるらしいが、とんでもない被害額だろう。
「先にヤマキを仕留めとく。乱戦になってから撃って殺したくない」
ビルの谷間を駆けてゆくヤマキの姿がチラチラと見える。足はそんなに速くないが、精密射撃には不向きな状況だ。
「なあ、あの神官のおっぱい、シリコン入りにしてもおかしな弾け方だったよな」
たしかにカワウソの言う通りだ。狙撃をしていると『手応え』を感じる事があるが、あの皮膚を突き破った時の感覚はまるで粘土でも撃ったような感じだった。
故郷の村で古い単発銃を使って畑を荒らす狐や野犬の耳を撃ち飛ばしていた頃を思い出す。
生き物の体には必ず自然な弾力があって、耳の端を撃ってやると皮膚が千切れると同時に何とも言えない『手応え』が帰ってきたものだ。
あの女の胸にはそれが無かった。
「首都警の連中が足止め始めるで」
黒い動甲冑の群れが垂直離着陸機からラペリングで降下していくのが見えた。ヤマキたちのパーティの300メートルくらい先だろうか。
動甲冑たちは着地寸前に路上に向けて機銃掃射を始める。
魔法で爆発力が付与されているのだろう。
着弾とともに地面のアスファルトが帯状に溶岩に変わっていく。
あたしは銃と銃弾に銃弾に魔法を掛けた。弾丸が爆発するわけでも、燃えるわけでもない。
ただ、薬室と銃身を魔導防壁で強化し、見えない銃身を継ぎ足して、無煙火薬の威力をあり得ないレベルまで高めただけだ。
普通の銃で撃てば薬室が弾けるか銃身が裂け、破片が射手であるあたしの顔面をズタズタに切り裂くだろう。
だけど、魔法が掛かったこの状態で撃てば極超音速の徹甲弾が相手の魔導防壁を貫通して肉体を破壊するだろう。
ヤマキまでの距離は約800。
首都警の部隊に応戦するヤマキの纏っている防壁は、前面が厚く、背面は薄い。
しっかりと足を踏ん張って強烈な攻撃魔法を連射しているヤマキの膝の裏に照準を合わせる。
通常弾を使って300でゼロインしているが、この状態の弾ならば、それ程ズレたりはしないだろう。
「ごめんね」
あたしはそっとトリガーを引き絞る。
タングステンの弾芯にメタルジャケットを纏った銃弾は、魔導防壁にぶち当たって派手に熱と光を撒き散らす。
あたしの予測通りなら、その奥で横転した弾芯が期待通りの仕事をしてくれたはずだ。




