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グールズバーグの春を愛す ~屍食鬼の街の魔法探偵事件簿~  作者: 吉冨☆凛
第二章 魔王の秘宝
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第二十話 ゾンビ、目覚める

主人公、ゾンビになりました。

『痛かったし、酷く熱かった。

 でも、それは過去の話だ。

 仲間に裏切られた? 恩人だと思っていた人に無視された?

 そんなのも全て関係ない。

 俺様は無敵だ』

 目覚めてすぐに思ったのはそんな事だった。

 いや、それは僕の思考じゃない。

 僕の外側に誰かがいて、”そいつ”が考えている事だ。


 廃ビルの一室のようなコンクリート打ちっ放しの殺風景な部屋。

 僕が横たわっているのは、安っぽいパイプベッド。

 耳障りな音を発する医療機器だけが、唯一金の掛かっていそうな設備だった。

 僕はベッドから身を起こし、体のあちこちに差し込まれている邪魔臭いチューブ類を全て抜き取る。

 いや、それも”そいつ”がやったことで、僕じゃない。

 本当の僕は、(そんな事したら痛いじゃないか! 点滴の針とか折れたらどうすんだ!!)と焦りまくっている。

 ボロボロのソファには僕の着ていた服が無造作に積み上げられていた。

 それで気付いたが、今、僕は全裸だ。

 メチャクチャ恥ずかしいが、”そいつ”は何も感じていないようだ。

 股間のモノをブラブラさせながらヨロヨロと窓に向かって歩いていく。

 ソファの前に置いてあるテーブルに思いっ切りスネをぶつけて、僕の口からは「いあ~~」という間抜けな声が出た。

 多分、『痛い』と言いたかったのだろう。

 バランスを崩しかけた”僕”は両手を前に突き出して、ぎこちなく歩き続ける。

 こんな調子で窓まで歩いていったら、きっとガラスを突き破って転落するんじゃないだろうか?

『無敵の俺様がこんなに不調なのは、きっと世間が悪いんだ。早く魔王と、その傀儡であるエルフの王による人類支配を終わらせねば』

 いや、僕、こんな事考えていませんから。

 そもそも、”俺様”なんて一人称、どこのエロゲの主人公ですか?

 そうこうしている間に、”僕”は窓際にたどり着いた。

 そのまま顔をガラスに押し付け、外に出ようとする。

 窓の外の光景を見て、僕は股間が縮み上がるような気持ちになったが、肉体感覚が伴っていない。

 この部屋はビルの五階くらいの高さにあるようだ。

 高所恐怖症というわけではないけれど、この高さから落ちたら無事では済まない。

 魔法で肉体強化しているならともかく、今の”僕”は完全に無防備だ。

 ガイドブックに書かれていた、『この世界の重力は地球と呼ばれる星の0.99倍です。日常生活ではほぼ誤差範囲なので、科学の発展時期に地球世界から導入した単位をそのまま使っています』という言葉を思い出した。

 つまり、落ちれば普通に危ない。

 ”僕”はバンバンと窓ガラスを平手で叩いている。

(危ないって! 割れたらそのまま地面に一直線だぞ)

 僕は”僕”に呼びかけるが、全く届いていないようだ。

『俺様を監禁しようとはいい度胸だ。これも魔王の眷属の罠か?』

 そんな思考が伝わってきたけれど、”僕”の肉体が口から発したのは「おえいあわあ~」という声だった。

 割れない窓が気に食わないのか、”僕”はガラスに頭を打ち付け始めた。

 やめてくれ! 痛みはわからないけど、この肉体は僕の物だ!

 そもそも、僕は事務所の一階にある冷蔵庫にビールを取りに行ったはずだった。

 そして、そこで誰かに『殺され』た。

 目覚めた後には”僕”と呼んで良いのかわからない『俺様』が意識を乗っ取っている。

 しかも、その『俺様』は僕の体を完全には制御できていないようで、これではまるで……。

”ゾンビ”だ!

 やっぱり死んだんだなと思うと悲しくなってきて、いつもの僕だったら目の奥がツーンとなる感覚を覚えるのだが、何せ視覚と聴覚以外の肉体感覚から切り離されている。

 死ぬ前に童貞は捨てておきたかった。いや、そうじゃない。

 生きているうちにもっと楽しい事を沢山したかったのに……。

 そんな事をウジウジと考えている間に、視界が赤くなってきた。

 随分と頑丈なガラスらしく、額が切れたか何かして、流れる血が窓を伝っているのだ。

「『意識』の移殖は上手く行ったか。しかし、まだ肉体との適合が不完全だな」

 後ろから響いた声に、”僕”はノロノロと振り向いた。

 室内だというのに、フードを目深に被ったローブ姿の人影が見えた。

 一人だけじゃない。

 さっきまで気付かなかった部屋のドアが開いていて、その入口に同じような姿の人物が数人立っている。

「眠れ」

 先程の声の人物が右手を僕に向けて突き出す。

 僕はまた意識を失った。

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