第十七話 社長、途方に暮れる
随分間が開いてしまいましたが、まだまだ続きます。
着信拒否。
誰に掛けても着信拒否だ。
完全に見限られたって事だろう。
もう一週間も誰にも連絡がつかない。
近所の商店で買い物をする気にもなれないし、何故か身分証カードの預金残高もガッツリ削られているので、最近は徒歩十分くらいのキングマートのコンビニ弁当だけで過ごしている。
預金残高が減っているのは本当に減ってしまったのか、何らかの制限が掛けられているのかはわからないが、普通に生活していたら一ヶ月も保たない金額だ。
キングマートの転生者優遇カードもあと三日で期限切れになってしまう。
僕は何度目になるかわからない大きなため息をついた。
視界の端に何か見たような気がして、事務室からガレージの入り口を眺める。
マサムネを巨大にしたような生き物がノソノソとこちらに向かって歩いてくるのが見えた。
厄介事だったら嫌だと思いながら僕は目を凝らす。
その生き物は左右をキョロキョロと見回してから、スックと立ち上がった。
背筋を伸ばしてトコトコと事務室に向かって来る。
僕は一瞬身構えたが、まただらーっと椅子の背凭れに体を預けた。
マサムネと喧嘩してもかなりの確率でこっちが流血するのに、あんなサイズの猛獣と戦って勝てるわけがない。
街中で攻撃魔法をぶっ放して正真正銘の犯罪者になりたいのなら話は別だが。
しかし、マサムネ、お前だけは信じていたのに簡単に裏切りやがって。
そんな事を考えていると、事務所の扉が雑にノックされた。
僕はぞんざいな返事を返す。
事務所の扉が開く。
そこに立っていたのは人と同じくらいのサイズのカワウソだった。
なんとなく既視感がある。誰だっけ?
「よう、少年。腐ってるな」
ええと、あの最低の独裁者みたいな名前の……。
「ヨシフさん?」
カワウソは猛烈にガッカリした表情を見せた。
「お前、そういう憶え方してたのな。ヨシフでもアドルフでもマオでもねーよ。ポルだ」
そうだった。カワウソ人のポルさん。
たしか民間軍事会社の社長さんだ。
「随分と景気がいいみたいだな。従業員も全員長期休暇ってか」
名前を間違えた事に対する意趣返しなのかもしれないが、今の僕にはヘビー級のパンチくらい効いた。
「マジでどうしたら良いのかわかんないんですよ。悪い冗談はやめてください」
ポルさんは水掻きのある手でピンと伸びたヒゲを引っ張ってちょっと考え込んでいる様子だ。
「俺もな、昔部下を全員失ったことがあってな。そりゃー辛かったわ」
この羽振りの良さそうなカワウソにもそんな事があったのか。
「無茶な依頼で俺以外全員死んでしまってなあ。その後しばらくは求人してもロクな奴が来なくて参った参った」
何か為になる話でも聞かせてくれるのかと思ったら、物凄くえげつない話でドン引きだよ。
「でもな、お前んとこの連中はみんな生きとるだろ。そしたらまた会える時も来るんでないか?」
ポルさんは机の上に投げ出してあった置き手紙を取り上げてさっと目を通した。
「日本語、わかるんですか?」
僕の問いに、一瞬馬鹿にするような視線を投げかけた後、ポルさんはこう言った。
「お前、愛されとるな。大丈夫だ。今さえ乗り越えりゃ全くの元通りだ。ホント、羨ましいわ」
そう言って、置き手紙にボールペンでピ~っと斜めに線を一本引く。
「心配して損したわ。後は死なんように気ぃ付けや。お前さんの役割はそれだけで充分だわ」
太い尻尾を床にビッタンビッタン叩き付けながらポルさんは出ていった。




