第十二話 ドワーフ、イースターエッグを語る
ドヤドヤとむくつけきドワーフどもが入ってきた。
オッサン成分でむせそうになる。
サジさんもオッサンではあるが、昭和の名優といった風情で、どこか味があるのだが、この人たちは完全にむさ苦しいだけだ。
「ええと、セントロニクス社の……」
「おう。技術チーム総出で来てやったぞ。診断キットはバッテリー駆動なのに充電するという知恵も働かん野蛮人はこの十五年で初めてだ」
滅茶苦茶な言われ様だ。
でもまあ、振ったり叩いたりしたのは事実だから否定のしようがない。
「なんだ、山本くんか。彼は働き者だからちょくちょくメンテナンスに来てたんだが、最近来ないと思ってたらこんなブラック企業に雇われていたのか。可哀想に」
はい、返す言葉もございません。
「お前が社長か? とんでもない奴だな。彼みたいな真面目でいいヤツを使い潰そうなんて、ふてえ野郎だ」
僕はもう、目の前で手をすり合わせる以外何もできなくなっていた。
The 謝り地蔵。
「おーい、親方、山本さんのパーツ、悪いとこ全部替えていいんだよな?」
全く見分けが付かないヒゲモジャのオッサンの一人が聞く。
「おう。社長との賭けに勝ったから修理代も全部タダだ。お前らにも特別ボーナス出るぞ」
お゛お゛ぉ~~という野太い歓声が上がる。
「ついでにパーツ全部最新型に替えとけ。揮発性メモリのコピーだけ忘れんなよ」
物凄い勢いで山本さんがバラバラ死体みたいになってゆく。
人間じゃないとはいえ、ちょっと目を背けたくなる光景だ。
「そうだ、おめえさんにも礼を言っとかなきゃな。ありがとよ」
全く話が見えない。「はあ、どうも」と頭を下げてみた。
「まあ、わかんねーよな。」
『親方』は勧めてもいないのに事務椅子にドッカと腰を下ろす。
「イースターエッグって知ってるか?」
僕は首を横に振る。なんか聞いた事がある気がするけれど、いまいちよくわからない。
「ロボット工学は機械技術の塊だが、それを制御してるのは電算機技術のだってのはわかるな」
「はい」
「コンピュータの技術者は、特殊な操作をした時だけお遊びのメッセージや特殊な隠しコマンドを呼び出せるようにする事があるんだ。ここまではいいか?」
僕は頷いた。なんか、スマホでどこかを押すとミニゲームが遊べるとか聞いた事があるが、そういう物の類らしい。
「で、七五式を出荷する前日に社長と賭けをしたんだ。仕込んだイースターエッグを最終出荷時から十五年隠し通せたら、最初に見付けたユーザの修理代は全部タダだし、俺たちにも特別ボーナスを出してくれってな」
どうやらメンテナンス用の診断キットを振ったり叩いたり息を吹き掛けたのが、イースターエッグ発現のトリガーだったらしい。
「振ったり叩いたりする順番や回数なんかもずっと極秘にしてたから誰も気付かなかったんだが、逆に十五年経ってみて誰も見付けられないまま七五式が全部廃棄されたり俺たちが退職したりするんじゃないか不安になってきたところだったんだ。いやいや、いいタイミングで見付けてくれたよ。昭和生まれでもないのに精密機械を叩いたり振ったりして直ると思うとは、なかなかのもんだ」
褒められているようでもあり馬鹿にされているようでもあり、礼を言われているはずなのに全然嬉しくない。
「ま、こっちじゃキリスト教は物凄く少数派だが、いい造語も無いから向こうと同じ『イースターエッグ』って呼んでるんだ」
転生者も別に改宗するわけでもないだろうし、神父や牧師も転生しているかも知れない。一定数いてもおかしくない。
「苦労したんだぜ。プログラムは基本的にこっちじゃオープンソースにする慣例だし、ソースコード隅から隅まで見られたら即バレだろ?」
ドワーフの親方が上機嫌なので、よくわからないが頷いておく。なんとなく、イースターエッグという考え方に興味も湧いてきて、もう少し話も聞きたい。
「それで、どうやって隠したんですか?」
「おうよ、それよ。診断キットのセンサがある特定の動作を記録した場合にはリレー式のスイッチがいつもと違った動作をするようにしておいたんだ。これがまず一個目」
だいぶ、話についていけなくなってきているが、わかっている風に頷いておく。技術系の人は自分の得意分野について聞いてもらうと機嫌が良くなるし饒舌になるのはどこの世界も同じらしい。
「同じセンサは常に動作に応じた数値をメモリに記録している。これが二つ目。最後に、記録されている通常の案内メッセージ音声の間に、無意味な空白や雑音に見せ掛けた音の断片を仕込んでおいた。そいつを記録された数値をキーにして並べ替えると、俺からのメッセージ音声になるってわけだ」
もうほとんど僕の理解を越えている話だ。助けを求めるようにライラちゃんに視線を向けると、全て理解して感心している様子だ。
「実は秘密がもう一つか二つあるでしょ? リレー式スイッチが動作するのは検査キットが低電圧状態の時に限った動作だっていうのと、イースターエッグが見付かった時はメンテナンス回線の接続先が変わってるんじゃないかな?」
天才か? そういやギフテッドがどうのこうのって言ってた気がする。
『親方』が二十世紀の少女漫画キャラのように目をキラキラさせながら椅子から立ち上がった。
感動のあまりライラちゃんに抱き着こうとしたようだが、サッとかわされる。
「いや、すごいぞ! 今日からウチで働かないか!? バイク駐輪場も完備だし、会社の備品で改造もし放題だぞ」
いや、それいいのか?
「魅力的だけど、やめとく。ライラはまだコドモだからこっちの世界でいっぱい出来る事探したい」
親方がガックリと肩を落とした。
「でも、もしかしたら何年後かにお世話になるかも」
社交辞令まで完璧とは恐ろしい子!
「ヤマキ、魔王の秘密だか秘宝だかってのもこういうのじゃないか?」
頭の中でモヤモヤしていた考えを一言でまとめてくれた。
そうだ。なんかこういう変わったパズルみたいな形で隠されているのかもしれないと思ったから、技術オタク(ギーク)オヤジの長い話を最後まで聞こうと思ったんだ。
そんな僕の思考は、目の前に現れた恐ろしいまでの美少女によって寸断された。
少女が桜の花びらのように可憐な唇を開く。
「山本です。この度はご心配お掛けしましたが、もう大丈夫です。なんなりとお申し付けください」
更新ペース遅くなっておりますが、ちゃんと続きます。
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