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グールズバーグの春を愛す ~屍食鬼の街の魔法探偵事件簿~  作者: 吉冨☆凛
第二章 魔王の秘宝
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第九話 龍の子、特訓する

「きいゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああ~あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛」

 マサムネが叫ぶ声がドップラー効果で通り過ぎてゆく。

 いいぞ、我が社の広告塔。

 先日即時採用した山本建子氏は超優秀。

 我が社の帳簿も設立まで遡ってあっという間に綺麗にしてくれたし、動物たちの作ったメチャクチャな報告書も人間が読んでわかるレベルまで直してくれた。

 しかも給料は他の社員の四分の一で良い。独創的な仕事をしたり、腹芸なんかは苦手だそうだけれど、そっちは自分らでなんとかするしかないだろう。

 とりあえず、アンドロイドのスーパー事務員が来てくれたお陰で、大幅に負荷は低減し、こうやってドラゴンレースの練習にも来られるようになった。

 ちなみに、ドラゴンに乗る時は通常耐Gスーツではなく、全身に"安定の魔法"を掛けるそうだ。

 哺乳類の身体構造では龍の機動についていけず、良くてブラックアウト、最悪の場合内臓破裂に至るらしい。

 マサムネも今、しっかりと魔法に守られて飛んでいる。

 とはいえ、体は無事でも音速近くから急停止するなんて動きは、少なくとも頭がついていかないだろう。

 僕は無線でアルとマサムネに呼び掛けた。

「一回戻ってこーい。ちょっと休憩だ」

 多分聞こえていない。

「おーい。ストップ! ストップ!」

 もう一度発信する。

「お……」「ねが……」「とま…」

 無線のスイッチをカチカチやる音とともに、途切れ途切れのマサムネの声がスピーカーから漏れた。

 頑張って返信しているのだろうが、アルには聞こえていないようだ。

 僕は信号拳銃を取り出して二つに折り、一二番口径の信号弾を装填した。

 銃口を空に向けて引き金を引く。

 パカーンという若干気の抜けた銃声とともに打ち上がった信号弾は七色に光りながらゆっくりと落ちてくる。

 銃砲店でワゴンに山積みされていた『ファンシー』という品名の弾を使ってみたが、ちっちゃな打ち上げ花火だろ、これ。

 信号弾としては、だいぶふざけている。

「どうしたの?」

 アルから無線が届く。どうしたの? じゃねえ。何度無線で呼び掛けても応答しないからワゴンセールとはいえそれなりにお高い信号弾を撃ったんだ。

 あんまりフザケた事言ってると、同じ一二番口径でもスラグ弾とかミニチュアグレネード水平射撃でブチ込むぞ。

 もっともアルの分厚い鱗相手では一八ミリ程度の鉛玉やグレネードじゃあ、かすり傷さえ付けられるかわからない。

 でも、本気のデコピンくらいには感じるんじゃないだろうか。

「一旦中止。戻って来て。ゆっくりな」

 頭に巻いた鞍に固定されたハーネスからぐったりした白いイタチをぶら下げながら、アルが悠然と羽ばたいて戻って来た。

 僕たちの前にそっと着地して、頭を地面につける。

 僕は駆け寄って、マサムネを固定していたハーネスのラッチを外して抱き上げる。

 失神してはいないが、めちゃくちゃ涙目でプルプル震えている。

「ももももも、漏れそう」

 ヤバい。そっと白いイタチを地面に置く。全員が安全な距離まで離れたのを確認し、"安定の魔法"を解除してやった。

「多分だいじょうぶ。くさいの出さない」

 ちょっと後ずさりしてからプリプリとウンチとオシッコを出して、マサムネは恍惚の表情を浮かべた。

 首都警の人たちに見つかる前に処分しておこうと、ビニール袋を手にはめてしゃがみ込んだ所に、後ろから声が掛かった。

「頑張ってるな。ちょっとそのフェレット貸してみろ」

 僕が手渡すまでもなく、マサムネはミルフィーユちゃんの尻尾の方から駆け上がり、サジさんの腕の中にスッポリと収まった。

 この人、滅茶苦茶コワモテだけど、動物と子供からは好かれるんだよなあ。

 アルは龍の姿のままミルフィーユちゃんを撫でている。いかにも爬虫類そのものの鱗に覆われたアルと対象的にミルフィーユちゃんは羽毛でモッフモフだ。

 サイズ的にはアルの半分程度だが、人間から見たら四階建てのビルの横にダンプカーが停まっているようなサイズ感だ。

「実家でも炎龍飼ってるんですよね。もう、可愛くて可愛くて」

 地響きのような声で嬉しそうにアルが言う。ミルフィーユちゃんはゴロゴロと喉を鳴らしているが、こっちはまるで遠雷のようだ。

「ちょっと模範演技見せてやるから参考にしろ。流石にアレじゃマサムネが可哀想だ。あと、フンはそのままでいいぞ、矢巻」

 炎龍が優雅に飛び立つ。砂埃もほとんど巻き上げないのは魔法の力を併用しているのだろう。

 加速自体はアルより鋭いにもかかわらず、サジさんの操る炎龍の飛行は優雅だった。

 地上の目印を元にジグザグに飛ぶ時も、急降下して停止する時も、乗り手に最低限のGしか掛けないようにしているのがよくわかる。

 これに比べたらアルはずっと衝突事故を起こし続けているようなもんだ。

「すごいよ! ボク大丈夫だった! アルも同じようにして!!」

 サジさんの制服の胸のあたりの何か装備品を付けるためのバックルに固定されたまま、マサムネが興奮気味に言う。

「う、うん。わかったよ。僕も頑張るよ」

 バカでかい赤龍が子供っぽい喋り方で応える。

「よし、特別にタダで教えてやる。アル、ミルフィーユの後ろを飛べ。マサムネ乗せるのは俺がOK出してからな」

 サジさんは人間相手よりも動物や龍のほうが相性が良いようだ。

 ライラちゃんも一応人間だけど、どちらかと言えばモンスターに近いし。

「ヤマキ、お久しぶりだ!」

 いえ、モンスターに近いなんて思ってません。ごめんなさいごめんなさい。

 恐る恐る振り向くと、ライラちゃんがセントバーナードくらいのサイズの龍を三頭引っ張って僕の後ろに立っていた。

 いや、正確には引っ張られてと言ったほうが正しいだろう。三頭合わせたらライラちゃんの十倍くらいのウェイトだ。

 小さな龍は模様がミルフィーユちゃんそっくりだ。子供だろうか?

 めちゃくちゃモフモフで一頭欲しくなる。

「ライラ、アルに乗るね」

 僕に綱を渡してライラはアルの頭によじ登った。雑に手綱を体に巻いて、何かの魔法を自分に掛けている。

 多分、"安定の魔法"と自分の周囲に風防代わりの魔導防壁を作ったのだろう。

「サジ! こっちはおっけー。アル! ライラを殺さないように飛んで!」

 二頭の龍が離昇する。魔法が苦手なアルだが、今回はダウンウォッシュで周囲を巻き込まないようにしているようだ。

 二人の化け物と二頭の巨龍による猛烈なチェイスが始まった。

若干ペースは落ちていますが、まだまだ続きます。

ブクマなどして頂けるとモチベーション上がります。

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