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グールズバーグの春を愛す ~屍食鬼の街の魔法探偵事件簿~  作者: 吉冨☆凛
第二章 魔王の秘宝
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第八話 探偵、秘書を雇う

「あーっ! もうダメだ!!」

 営業と経理と総務と現場担当の全てをこなすなんて無理ゲーだ。

 マサムネの出してきた身辺調査の報告書がメチャクチャで、注釈を入れるだけで完全に半日潰れてしまった。

 そもそも、僕を含めた全員が社会人経験が無いわけだし、それに加えて従業員の半分以上は人間ですら無い。

 言いたい事はわかるが、まったく報告書としての体を成していないマサムネの報告書を閉じる。

 清書していたら依頼者への報告が間に合わないのは目に見えているから、明日はマサムネとクロに任せて”可愛いは正義”で乗り切ろう。

 そもそも、クロは既に二〇歳越えたネコマタ候補だが、マサムネはまだ二、三歳だったはずだ。仕事させていいのか?

 どうせ、ネットで検索しても"転生者特例"とやらで、普通にOKとしか出てこないだろう。

 僕は椅子の背もたれを最大限倒し、うーんと大きく伸びをした。このままでは過労死して転生してしまう。

 かと言って、分業できる程会社規模も大きくないし、今はまだ資本にある程度余裕があるが、今後の事を考えたらバランスの良い人員配置が必要だ。

「そうだ! 目の前の箱があるじゃないか!」

 独り言が酷くなっている。疲れている証拠だ。しかし、目の前のパソコンを使って問題解決をするのは良い考えには違いない。

 こっちの世界のパソコンもだいたい日本で使っていたのと変わらない。三次元系のデザインなんかをする人はちょっと特殊なモニターやポインティングデバイスを使うけれど、普通の事務処理用ではありふれた液晶モニターにキーボードとマウスが標準だ。

 ただ、元の世界より優れているのが音声認識と曖昧検索機能だ。つまり、検索ツールを立ち上げて、今のお悩みをダラダラと垂れ流していけばそれなりに解決するはず。

 僕は早速検索エンジンの画面を開いて、マイクのアイコンをクリックする。

「えーと、小企業で未経験者が多くて分業が難しいし人を沢山入れる余裕は無いけど、どうしたらいいのかな? むしろ従業員には人じゃない奴らも沢山いるし、困った困った」

 もう、何も考えていない魂の独白だ。

 検索結果を待つ。

『ゴブリンやレッサードラゴンを使って経費削減』

『訴えられないリストラ方法、まずは弁護士に相談を』

『人員整理より会社整理。後腐れの無い計画倒産』

「だあああああああああっ! 違う違う違う!」

 いきなり超ブラックな香りのする検索結果が羅列されたのを見て、僕は頭を抱える。

 まあ、でも、そうなるな。起業したばかりだとかそういう情報が無ければ、相当ヤバい状態の零細企業に関する悩み相談だ。

「じゃあ、仕切り直し」

 とりあえず検索結果をリセットして、もう一度だ。

「起業したばっかりで、スタッフ部門のスペシャリストがいない。会社の規模も小さいから、全部門のスペシャリストを雇うのも難しい。解決方法よろしく!」

 今度は待つまでもなく一瞬で結果が表示された。

『秘書を雇いましょう』

 他に表示されている、ヒット率が低い結果も、ほぼ全てが『秘書を雇え』と出ている。

 これだ!

 秘書。

 なんて甘美な響きだ!

 社長秘書!

 高層オフィスの社長室でミニスカートの秘書と昼下がりどころか朝から情事だ!

 まあ、ウチは倉庫の一階だけど。そこはちょっとだけ夢を見させておいてくれ。

 今度は検索結果をそのままにして、絞り込み検索だ。

「給料が安くて、文句言わなくて、でもって綺麗だったりするといいな。もちろん有能で」

 物凄く長い検索一覧が表示された。どうやら求職中の秘書さんの情報らしい。

 ネットリとした視線で上から順に眺めてゆく。

『政治家の秘書を永年務めていましたが、先生が亡くなってから仕えるべき主を探しています。憂国の志ある雇用主を望みます。ちなみに真人類。亜人どもとの闘争に勝利しましょう! 魔王討伐賛成派!』

 却下!! 大却下だ!! 新しい世界で訳のわからない政争に巻き込まれたくない!!

『秘書アンドロイドですわ。もちろんセクサロイド機能も万全。刺激に飢えたシャチョーさん、ぜひ雇ってくれないかしら? 永久就職も歓迎よ』

 色々とツッコミどころ満載で却下。アンドロイドとの結婚は……、まあこの世界の事だから普通に許可されてるんだろうな。でも却下。メチャクチャお賃金高いんだもん。これだけ払うならマサムネに自律式の玩具を毎月買ってやれるだろ。

 僕は賃金順に並んでいると思われる検索結果をずいーっとスクロールした。だんだんトンデモナイ条件の応募が混ざってくる中、目を引く履歴書があった。

『永年務めていた企業が倒産し、今は野良アンドロイドとして日々の充電にも事欠く毎日です。一般的な企業の雑務全般こなせます。最低賃金でも構わないので雇って頂けたら幸いです』

 これだ! これだよ!

 僕は夢中でこのアンドロイドの詳細をクリックした。

『山本建子。セントロニクス社製七五式アンドロイド。庶務一般プログラム搭載。誠実にして謙虚がセールスポイントです。何でもします。買い取りも歓迎』

 その後に細かい雇用条件が並ぶ。月給にして人間の最低賃金の五分の一だ。

 ごめん、マサムネ。この人? 半年雇ってもお前の新しい玩具一個だ。

 セントロニクス社っていうのは魔法学校の庶務とか座学を担当していたミミさんなんかの会社だ。ちょっと年式は古いけど、それなりに美人だろう。ちょっと名前が古臭い日本人っぽいのが気になるけれど、全く問題無い。

 ブロンドでグラマーでエロい機能とかちゃんとあったらいいなとは思うけれど、過剰な期待はしないようにしよう。

「よーし! 決めたぞ! 建子ちゃん! 俺が大切にしてあげるからな!!」

 ポチッと求人のオファーを建子ちゃんに送る。今日はいい夢を見られそうだ。

 僕は端末をシャットダウンし、スキップしながら自分の部屋に戻った。


 ――翌日。

 事務室で僕は絶句していた。

 七三分けのオジサン。くたびれた焦げ茶色のスーツとヨレヨレのネクタイ。

 面接に来た山本建子ちゃん。

 吉村さんが爆笑している。苦しそうだけど、酸素ボンベの買い置きあっただろうか?

山本建子(ヤマモトケンシ)です。宜しくお願い致します。ご採用頂ければ、本日から業務改善に取り掛からせて頂きます」

 僕はガックリと肩を落としたが、白神は案外悪くないという顔をしている。

「採用」

 なんとか笑いを抑え込んだ吉村さんが一言で決めてしまった。

「では、宜しくお願い致します。山本建子、誠心誠意勤めさせて頂きます」

 僕はガックリと肩を落として秘書アンドロイドと握手する。

 意外な事に、その手はドッシリとして頼もしかった。

建子という名前は「雪の進軍」作詞・作曲者の永井建子から。

子供の頃、女の人だと思ってたんだもん……。

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