表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
グールズバーグの春を愛す ~屍食鬼の街の魔法探偵事件簿~  作者: 吉冨☆凛
第一章 グールズバーグへようこそ
3/107

第二話 異世界転移も楽じゃない

「状況終了。転生者を確保。男性二人に女性一人。抵抗の様子は無し。特殊能力は認められず。通常護送車にて搬送予定。以上」

 紅く光る眼のガスマスク越しに、若くはなさそうな男の声が聞こえた。抵抗の様子無し? 僕たちメチャクチャ抵抗したと思うんだけど。吉村さんの方を見ると、「状況」がどうしたとか、なんかブツブツ呟いている。

「あ~、済まないとは思うけれど、規則なんでね。クルマ回す間にいくつか質問いいかな? あっと、言葉はわかるよね?」

 ガスマスクとヘルメットをまとめて脱いだ責任者らしき中年男性が、腰のホルスターに差したゴツい鉄砲の銃把に手を掛けながら尋ねる。白神の方を振り向くと、おずおずと首を縦に振ったのが見えた。吉村さんは完全に固まっている。

「わかります。日本語ではないようですが、何故かわかるみたいです」

 僕の答えに中年男性は頷くと、銃把から手を離し、タブレット端末のような物をペンでつつき始めた。風貌はアジア系。昭和中期の俳優のような感じだ。古いヤクザ映画で長ドスを振り回しそうなタイプ。

「あ、『ニホン』ね。ヤクザ者でも猟師でも自衛隊でも警官でもなさそうだから、銃の所持は無し。で、いいよね? そっちの彼のカタナは預かったし……、スマホは持ってるみたいだけど、規格が違うんでここじゃ使えないから」

 頷くと、中年男性は「結構。結構」と言い、パッと手首を振って端末とペンを消去する。一体どこに隠したんだ?

「ようこそ、グールズバーグへ。君たちも『魔王討伐』で呼ばれたクチだよね?」

 そう言われてみると、女神と名乗る女性はそんな事を大真面目に言っていた。うつむいて「多分……」と答えると、中年男性は眉毛をハの字にしてため息をついた。

「追々状況は説明するけど、当代の『魔王』は彼なんで、あんまり変な気を起こさないように」

 親指を立てて後ろを指差した先には、ビルの壁面の大モニタ。白人か黒人かわからない、性別もイマイチ不明のスレンダーな美形が、体にぴっちりと張り付くような派手な衣装を着て、スプレーのような物を持って踊っていた。ちょっと前に亡くなったアメリカの有名なミュージシャンに面影が似ている。色とりどりの衣装を着た猫耳やウサ耳の獣人、尖り耳のエルフらしき美形の男女がバックダンサーをしていた。宣伝している内容は「この香りで世界の半分はキミの物!!」らしい。

「あとでパンフ渡すけど、この世界じゃ差別発言は絶対にNGね。別に命の危険は無いけど、下手したら訴訟沙汰で一生借金地獄になるから。ちなみにあのバックで踊ってるのは勇者候補のYKH47の候補生」

 情報量の多さに頭がついていかないところに、ブレーキを軋ませて、中古のハイエースにしか見えないクルマが到着した。そもそも候補の候補生ってなんだ?

「乗ったら手錠は外すから、おとなしくしててね。」

 促されるままにスライドドアから車に乗り込み、あちこち破れてスポンジがむき出しになったベンチシートに腰掛ける。めちゃくちゃボロいし、うっすらとだけれど体育会系のロッカー室みたいな臭いが籠もっている。剣と魔法のファンタジー世界でこれは無いんじゃないだろうか? 一列後ろには中年男性と、紅く光る眼のガスマスクを付けたまま巨大な機関銃を胸の前に抱えた隊員が座った。

「リリース」

 中年男性が囁くと、手錠のような物が消失し、両手が自由になる。

「自己紹介が遅れたが、首都警公安部のサジだ……、いやサジ・サモンです。あなた方とはしばらく付き合う事になりますので、以後よろしくおねがいします」

 中年男性――サジがえらく丁寧に挨拶する。急に丁寧な口調になったのは、何の理由があるのかわからないので、深くは考えないことにした。

「ええと、矢巻総一です。彼は白神将也。で、彼女は吉村美南」

 折角のイケメンが台無しな程青ざめて震えている白神と謎のジャパニーズスマイルを顔に貼り付けてフリーズしている吉村さんの代わりに答える。

 その時、ガタガタと揺れていた車が少し跳ね上がり、全く揺れなくなった。

「ああ、ホバーと言うかエアカーと言うか、そんなところです。バカ正直に公道を走るとちと遠いんで、しばらく未舗装路を行きますよ」

 事も無げに言うが、少なくとも二十一世紀の日本ではレトロフューチャー、来なかった未来の産物だ。

 五分も走ると、またタイヤでの走行に戻ったのか、僕たちの乗ったバンはガタガタと揺れ始めた。

「さて、愛しのホームスイートホームに到着。楽にしてください」

 車から降りると正面にはいかにも中世ヨーロッパ風、いや中世ヨーロッパ警察に言わせると「近世ヨーロッパ」風の宮殿があった。ため息が出るくらい美しい。宮殿の庭園の隅にえらくくたびれた昭和の役所のような建物が建っていたが、とりあえず気にしない事にした。

「ようこそ、首都警第一分署へ。もっとも首都警を名乗る組織の拠点はここだけだが」

 僕たちは黒尽くめのナチスの亡霊たちに促され、古びた宮殿へと入っていった。


まだまだなろうの仕様がよくわかっていないです。

2020/06/01 第二話が欠落して、第三話が二回上がっていたので再アップします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ