第二十七話 朝帰り
「皆の者よ! 私は必ず帰ってくる! それまで法を遵守し、真の勇者を目指すのだ!」
「「イエス! マイロード!」」
勇者村の住人たちが揃ってバラバラな形の敬礼をする。元々参考にしていたファンタジー作品が異なるせいだろう。
村の中で最強クラスのパーティをいくつも打ち破り、宿敵である治安警察と互角の戦いをしたと思われたせいで、この村の住人から最強の勇者と認定されたのだ。
ありがた迷惑な話ではあるが、サジさんとしては度々トラブルの火種となっていたこの村を上手く治める良い手段を得たと考えているらしい。
僕を勇者の王として君臨させて、傀儡として操ることで今まで野放しだった違法行為を止めさせる事が出来るという算段だろう。
事実、僕に倒された村の勇者たちもニコニコと嬉しそうにしている。大暴力を振るった僕が言うのも変だけれど、力だけが支配する怖ろしい村だ。
もっとも、重犯罪を犯していた勇者や魔法使いは何人か民警によって連行されていった。治癒魔法も掛けて貰っていないのか、担架に乗せられたまま護送車に積み込まれていく。逃走防止の為なのだろうけれど、結構えげつないやり方だ。
サジさんから渡されたカンペを読み終えたので、僕は足許に置かれた死体袋の中に横たわった。
ガスマスクの上からでは表情はわからないけれど何となく嫌そうにしている首都警の隊員がファスナーを閉めて密封する。窒息しないよな? これ。
外からは王の死を嘆く大仰な言葉が伝わってくる。死んでないって!
バード・オブ・プレイとかいう垂直離着陸機ではなく、どうやら日頃の足に使っているハイエース似のワンボックスの荷台に放り込まれたようだ。
いつもなら臭いと文句を言うところだが、完全に嗅覚が麻痺していて何も感じない。そもそも死体袋の中だ。そういえば、この死体袋って新品だよね?
隊員の誰かが治癒魔法を掛けてくれたようで、肋骨の痛みがスーッと引いていく。どうやら骨は繋がったようだ。
ガタガタと車に揺られているうちに僕は眠りについた。
無造作に地面に放り出された。ファスナーが開き青空が見える。いつの間にか朝になっていたようだ。
「出ろ」
ぶっきらぼうに命令されて僕はフラフラと死体袋から出る。首都警の裏の訓練場の片隅だ。
「服を脱げ」
さすがに突然脱げと言われても、はいそうですかと脱ぐわけにはいかない。
躊躇しているとモップのような物で小突かれた。
嫌々ながら着ている物を脱いでゆく。
「パンツも。全部だ」
首都警の装備は明るいところで見ると相当おっかないので、大人しく脱ぐことにした。衣類はだいぶボロボロになっているが、着替えも少ないので畳んで地面にそっと置く。
「そこから離れろ」
股間を手で隠しながら死体袋や衣類の山から離れる。
次の瞬間、隊員の手が閃き、衣類も死体袋も炎に包まれた。
「な!?」
酷い。慈悲の心は無いのだろうか?
「猛烈に臭いから洗っても着られないぞ。諦めろ」
僕の嗅覚は完全に麻痺しているので、元の臭気もも衣類が焼ける臭いも何も感じない。
「さあ、そこに立って目をつぶれ。いいと言うまで開けるなよ。失明するぞ」
僕が目をつぶると、ドロッとした液体が頭からぶっ掛けられる。三回ほど液体を掛けられた後、体中をガシガシと擦られ始めた。さっき僕を小突いたモップだろう。デッキブラシでない事に感謝しなければいけないのかもしれない。刺激の強い洗剤らしき液体のせいで頭皮や首のあたりがヒリヒリと痛んだ。
しばらく擦られ続けた後、今度はホースか何かで水を浴びせられた。ぬるま湯気味なのは多少の配慮なのだろう。
「よし、目を開けたらそっちの湯船に入れ」
いつの間にか地面に穴が穿たれ、ちょっとした露天風呂が出来ていた。これも魔法の力なのだろう。
ゆっくりと歩いて露天風呂に近づき周囲の様子を伺う。
吉村さんと目が合った。僕は慌てて風呂に飛び込む。
「矢巻くんお風呂入ってるねー。マサムネちゃんもちょっとくさいから一緒にお風呂入ろうね」
吉村さんは白いイタチを抱っこしている。
「ヤダ! お風呂キライ!」
なんという贅沢を! お前が入らないなら僕が一緒に吉村さんとお風呂入る!!
「新しいオモチャ買ってあげるし、一緒のベッドで寝ていいからね」
僕も吉村さんのオモチャになりたいし一緒のベッドで寝たい! いや、吉村さんとオモチャで遊びたい!
「わかった! でもライラも一緒がいい」
なんて贅沢過ぎるイタチ野郎だ! 二人と一緒にお風呂に入っている所を想像し、顔が上気してきた。
「矢巻、湯加減はどうだ? 頭までちゃんと浸かれよ」
サジさんの声だ。モップの柄で頭をつつかれ、僕は息を止めてお湯に潜る。
「ぷはっ! あの~……、僕の処罰とかどうなるんですかね……」
もう一度頭を小突かれ、またお湯に潜った。
「なーに、悪いようにはせんよ。民警にも充分恩は売ったし、科学省にも良いデータが提供できた。何よりもお前は蠱毒の村で勝ち残った蟲の王だ。精々利用させてもらうさ」
なんとなく納得が行かないが、投獄されたりしないのならばありがたい。
「まあ、記憶操作の弊害としてはよくある症状だ。情状酌量の余地もあるから安心しとけ。お祝いに魔法の入浴剤をプレゼントしてやる」
どう見ても量販店で売っている安っぽいパッケージの入浴剤が盛大に露天風呂の湯に投入された。
「臭いを抜くために半日はそのまま漬かってろ。ぬるくなってきたら湯加減は自分で調整しろよ」
なんだか昔懐かしいような色合いの入浴剤が溶けた湯の中で、僕は頷いた。
あと三話で第一部完となる見込みです。
ブクマなどして頂けると大変嬉しく思います。




