第二十六話 決戦
最初に感じたのは猛烈な衝撃だった。
次に来たのは爆風と熱線。
魔導防壁が砕けそうだ。
防壁を維持しているだけで、ガリガリと魔力を削られてゆく。
意識をこちらの世界に戻してみれば、目の前に立ち塞がっているのはサジさんたち首都警の軍団だ。
サジさんは大型の軍用拳銃をこちらに向けていた。銃口が火を吹く。
拳銃弾とは思えない、戦艦の艦砲射撃でも喰らったような衝撃が来た。魔導防壁が無ければ完全にバラバラ、いや蒸発していてもおかしくない威力だ。
魔力を銃弾に乗せて着弾時の威力を増し、更に弾丸を炸裂させているようだ。リンク先の地球にいる僕がこちら側に引き摺られるのがわかった。
だだでさえ強大な魔力と集中力を必要とする逆転移と時間遡行をしている最中に、こんな攻撃を喰らったらひとたまりもない。
僕はリンク先の地球にいる自分にファイアボールを撃つように指示した。
大型トラックに向けて、送り込んだ全ての魔力を使って火の玉を放つ。
――不発!
魔力の問題か、それとも向こう側との同期が取れなくなってしまったのかわからないが、ファイアボールはプチュンという情けない音を立てて手の中で弾けた。
こちら側に意識を集中していると、自ずと向こう側の僕の動きは鈍くなる。
大型トラックが僕に向かって突っ込んでくるのが見えた。
地面を転がってやっとの思いで避ける。
今度はこちら側だ。サジさんが次々と銃弾を撃ち込んでくる。最初の二発以外直撃は避けているが至近弾の爆風と熱線だけでも体力は削られ、ショートレンジの瞬間移動も連続して行えば魔力の消耗も早い。
サジさんが弾倉を交換しながら何か指示を出したのが見えた瞬間。無数の弾丸が僕を襲った。
チェーンソーのような音が絶え間なく響く。
盛大に弾丸がばら撒かれているので、瞬間移動で避けても避けた先に着弾する。
一発一発はサジさんが撃つ弾丸ほどの威力は無いが、隊員もそれぞれ魔法を込めているのか、逸れた弾丸が一抱えもあるような立木を一発で粉砕するのが見えた。
数十発の直撃弾を受け、さすがに体力も限界に近付いてきた。元の世界に飛ばしていた僕の分身が急速に引き戻されてくるのがわかる。ちくしょう! もう少しだったのに。
いつの間にか機関銃の掃射音は止んでいた。
サジさんがマシンピストルをこちらに向けるのが見えた。
衝撃と爆風と熱線。
魔導防壁ごと引き抜かれ吹き飛ばされる。
地面を転がり、何度もバウンドし、大樹をなぎ倒してやっと止まった。
僕はノロノロと立ち上がる。まだだ……。まだ諦めるわけにはいかない。
もう一度次元の壁をこじ開け始める。膨大な魔力が必要だが、今はとにかく体力が足りない。だけど、もう一度……。
「もうやめて!」
吉村さんの声だ。霞む視界の中、吉村さんがこちらに向かって小走りに駆けてくるのが見えた。
そのまま僕の胸の中に飛び込んでくる。マジで? ハグしてくれるの? いいの?
でも違った。ピトっとくっついたもののその両手は僕の肩の上に伸び、モフモフした塊を両頬に押し付けた。
クロとポンコだ。動物二匹を僕の肩に乗せると、吉村さんは僕の両手をとって猫と狸の背中を撫でるように促す。
とっても距離が近い。と言うかおっぱいが当たっている。
モフモフとおっぱい。Hカップを堪能。
目的意識がかなり削がれてゆくのがわかった。元の世界に戻るのが、わりとどうでも良くなる。
「俺たちゃ戻りたいなんて別に思っちゃいないからな」
白神が俺の脇腹を軽く小突く。胸に激痛が走った。肋骨が何本か折れているようだ。
「オニイチャン モウ クルシマナクテ イインダヨ あれ? これでいいんだっけ!?」
今度は背中に暖かくて少し柔らかい感触。ライラだ。幼女に片言で『おにいちゃん』なんて言われるとは、この世界も捨てたもんじゃないな。感無量だ。だいぶ棒読みっぽかったけど。
トドメとばかりにライラが背伸びして、僕の頭の上に三つ目のモフモフ攻撃を仕掛けた。目の前に白い尻尾が垂れ下がる。頭に乗っかったのはマサムネだな。
「じゃ、そういう事で」
三人と両肩の二匹がそそくさと足早に離れて行く。
なんだ? マサムネはズリズリとずり落ちてくる。顔にぷくぷくのお腹が当たって気持ちいい。
「魔法の最後っ屁! ファイナルブラスト!!」
マサムネのぷくぷく言う可愛い声とともに、僕は鼻っ柱をぶん殴られたような臭気で気を失う。
薄れゆく意識の中で、元の世界とのリンクが完全に消失したのを感じながら。
あと数話で第一部完です。




