第二十四話 パラドックス
「民警に場所を連絡した。あいつらにも手柄を分けてやって恩を売っとかないとな」
サジの言葉に、俺は反論しようとしたが、手で制される。
「別に矢巻を売ろうってわけじゃねえよ。この勢いだともうそろそろ終わりだしな」
勇者の村では炎や雷が飛び交っているが、だいぶ散発的になってきている。
「とにかく、今はあいつを止めるよりも、勇者どもが全滅するのを待ったほうがいい」
記憶の封印が解けた時の一時的な錯乱状態で、矢巻はとんでもない能力を覚醒させたようだ。
「科学省のフランソワから連絡があった。数時間前にガベージで大量の魔力放出と次元振動が検出されているらしい。どうやら逆転移と時間遡行をやろうとした奴がいるらしいってな」
時間遡行? 逆転移?
「ヤバいパターンだ。ヤツは因果律を超えようとしていやがる。多分、転生と転移の原因を時間を遡って消し去るつもりだったんだろう。少なくとも今まで成功した例は観測されていない。最悪、お前らも含めて両方の世界から消滅する上に、両方の世界に消えない傷跡を残すぞ」
それって過去に異世界召喚の神を産み出したレベルの魔法を個人で使おうとしてるって事では?
矢巻、俺はあの事故で死んで転生した事を恨んだりはしてないぞ。
吉村さんに同意を求める。彼女もウンウンと頷いている。息苦しい元の世界よりも、こっちの世界はずっと自由だ。元の世界じゃ使えなかった能力も使えるし、無限の可能性がある。だから、もう罪を重ねるのは止めて戻って来い、矢巻。
勇者村の交戦は収まったようだ。いかにもファンタジーっぽい衣装の連中がレミングスのように逃げてくるのが見えた。
「バード・オブ・プレイ一号機、二号機、空中待機。ケルベロス、突入準備」
サジが指示を出している。
「俺らは今から突入するけど、目処が付いたら連絡するから来てくれよ」
垂直離着陸機は俺たちを地上に残してホバリングを始めた。強烈なダウンウォッシュが吹き付ける。
数人の隊員を村の外に残し、サジたちは逃げ惑う村人を強引に押しのけ、時には威嚇射撃をしながら突っ込んでいく。
「矢巻はあの事故をやり直そうとしているって事だよな?」
吉村さんは頷くが、小首をかしげ考え込んでいる。
「あの事故が無かった事になったらそもそも私たちはここから消失するわけで、事故を止めようとする矢巻くんも存在しないから、そもそも何も起こらない。初歩的なタイムパラドックスだよね……」
俺は頷く。それくらいは理解できるのだ。
「でも、実際に事故を止めに行く矢巻くんは存在するわけだから、時間線がそこで分かれて、外部からの干渉を受けて私たちが死ななかった世界と今ここにある世界の二つになると考える方が理にかなってるよね?」
ええと、そうすると二つの世界にまたがるから四つの世界に分かれる事になって……。
「話が複雑になるから、この世界と元の世界はセットで考えてね。今と変わらないこっち側の私たちと、私たちがいないこっち側の世界に分かれる感じで」
理解できた気がする。つまり、矢巻がやっている事は全くの無駄骨だ。
「そう。でも、無駄骨だったらまだいいんだけど、もう一つの可能性が考えられるんじゃないかな? サジさんが『成功した例は観測されていない』って言ってたでしょ。時間線が分かれたとしても、一応は過去を変えるのに成功した事になるんじゃないかと考えると、それが起きない、観測されていないって事は……」
まさか? 嘘だと言ってくれ。
「過去の改変に成功するかどうかわからないけど、その結果、この時間線そのものが消滅する可能性があるんじゃない? 失敗してみんな生き残った時間線では『成功した例は観測されない』けど、成功したらこの時間線が消えて無くなるか、世界が滅んだりするとしたら辻褄が合うと思うの」
既にゲームやアニメの中の魔王以上にヤバい存在だ。
「それに、こっちの世界が消滅するくらいのインパクトがあるとしたら、過去改変に成功したとしても向こうの世界にも影響が無いとは思えないから」
焦燥に満ちた時間だけがジリジリと過ぎてゆく。
その時、村の中心の方から、しばらく収まっていた閃光と爆発音が響いた。
サジたちが矢巻と遭遇したようだ。




