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グールズバーグの春を愛す ~屍食鬼の街の魔法探偵事件簿~  作者: 吉冨☆凛
第一章 グールズバーグへようこそ
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第二十三話 あの日にかえりたい

「貴様! その力は魔王の眷属、いや魔王自身か!?」

 いかにもRPGやアニメに出てきそうな勇者御一行様が僕の前に立ち塞がった。さっき倒した奴らは少し離れた所に倒れている。いかにもモブっぽい奴が回復魔法を掛けて治療しているところを見ると死んではいないのだろう。

「知らねえよ。そんなもん。いいから持ってる魔石全部出せよ」

 とにかく、強大な魔力が必要だった。一箇所に凝縮された魔力が。

「おのれ! 魔族め! この世界は我々が絶対に守ってみせるぞ!」

 そういうのいいから、早く持ってる魔石だとかクリスタルだとか全部出してくれ。

「ばかじゃねーの。僕はただの人間だし、ちょっと大きな魔法使うのにお前らの持ってる魔法グッズが必要なだけだよ」

 侮蔑の籠もった眼差しを勇者代表らしい剣士に向けると、顔がみるみる朱に染まっていく。どうやら興奮しやすいタチらしい。

「対話は無意味ということか! 覚悟!」

 剣士は光る剣を振り回して迫って来た。斬撃が剣先から輝く刃となって飛来する。

 僕は記憶の封印が解け始めてから身に付けたショートレンジの瞬間移動で全て躱す。すれ違いざまに無造作に剣士の脇腹に雷撃魔法を叩き込んだ。金属製の鎧が衝撃で砕け、感電した剣士は体をくの字型に折って吹っ飛んだ。地面に転がり痙攣している。

「よくもヒロユキを!」

 ベタベタなセリフを吐いて女魔法使いが様々な攻撃魔法を連射してくるが、全て軽く躱してゆく。馬に乗っていなくても騎士というのだろうか? 槍を構えて突っ込んでくる鎧姿の女を炎で焼いて、魔法使いを魔導防壁ごと衝撃波で吹き飛ばす。魔法使いは数回バウンドして動かなくなったが、騎士は悲鳴を上げて転げ回っているので水魔法で水流を召喚し消火する。

「魔石と魔力は貰ってゆくぞ」

 剣士の剣や魔法使いの杖を叩き壊し、魔石やクリスタルを回収する。ついでに体に手を当てて残存している魔力を全て吸い取ってゆく。殺すのは簡単だが、殺さないのはこのためだ。しかし、まだまだ足りない。新たな標的を探さねば。

「お待ちなさい!」

 振り向くとそこにいたのは女騎士を先頭にした数十人のパーティーだ。吉村さんが好きなロシアンジョークに『カリフォルニアではあなたはいつもパーティーを見付けることが出来る。ソビエトロシアではパーティーがあなたを見付ける』というのがあるけれど、見つけなくても向こうから来てくれるって事はここはソビエトロシアなのだろう。

 声を掛けずに不意打ちを掛けていれば万に一つくらいは勝機があったかもしれないが、騎士だけに正々堂々の騎士道精神なのだろう。そもそも、騎士は君主に仕えているはずだが、その君主はどこにいる?

 僕は火炎魔法と水魔法を同時に撃ち出し、馬に乗った女騎士の手前で派手に爆発させた。パニックを起こした馬が乗り手たちを振り落とす。そのタイミングで手を着いて、目の前の地面を液状化させる。騎士たちは皆、ズブズブと地面に沈み込んで行く。身動きが取れないことを確認し、今度は地面を硬化させた。これで誰一人動けまい。

 まだ闘志を失っていない魔導士が攻撃魔法を撃った。巨大な火の玉は、僕が彼らの頭上三十センチの所に展開しておいた魔導防壁に打ち返され、バラバラになってパーティーメンバーに降り注ぐ。地獄絵図だ。

 殺すと魔力の回収が出来ないため、適度に弱ったところで消火してやる。魔道具を全て壊し、人体から魔力を吸収する。まるで体の中に臨界を迎えた原子炉があるみたいだ。あと少しで届く。あと少しで……あの日に。


 ――あの日。

「矢巻くんって意外と運転上手いんだね」

 吉村さんが後部座席から身を乗り出して言う。

「初心者おだてて調子に乗らせんなよ。車庫入れでガリッとやって凹むの目に見えてんだから」

 白神もごきげんだ。

 全面休校で卒業式もなし、世間じゃ自粛ムードも漂ってるけど、受験も済んだしちょっとくらい遊びに行ったってバチは当たらないだろう。

「あと三十分くらいで着くから、着いたらちょっと駐車場で運転させてやるよ」

 僕も久しぶりの外出で気分がいい。

「もっと飛ばしてもいいんじゃねーか」

 白神が煽ってくるが、僕は一応安全運転を貫く。

「初心者だからね」

 対向車のヘッドライトが見えた。僕はそっとアクセルを緩める。

「おいおい、マジかよ」

 大型トラックが、蛇行しながらこっちの車線に突っ込んで来た。僕は思い切り右にハンドルを切る。でも間に合わない。

 衝撃。

 浮遊感。

 衝撃。


 ――衝撃。

 いつの間にか正面まで歩み寄って来ていた戦士が僕の肩にバスタードソードを振り下ろしていた。自動展開される魔導防壁が受け止めてくれたが、ガードしなければ体が真っ二つになっていただろう。

「よそ見してんじゃねーよ。ナメてんのか?」

 筋骨隆々のいかにも戦士タイプだ。暑苦しい。肉体強化の魔法は予め掛けてある。僕は無造作に腕を振って戦士を殴る。何の技も無い素人のパンチだ。だが、殴られた側はグリズリーにでも張り倒されたように感じただろう。

 暑苦しい戦士は手足をあり得ない向きに曲げて転がった。

 風切り音とともに飛来した数本の矢を投げ返すと悲鳴が上がり、何かが樹から転げ落ちる音がした。間髪入れずにサムライと格闘家が突っ込んでくるが、防壁を瞬時に展開し、見えない壁で殴り付ける。二人は物も言わず悶絶する。あとは後衛からのつまらない攻撃の繰り返しで、僕は雑に攻撃魔法を叩き込んで黙らせた。

やっと主人公無双です。

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