第二十二話 夜の翼
昨日から矢巻くんが帰ってきません。
昨夜のうちにサジさんには状況を話して、民警の方に捜索願を出して貰っています。行方不明者の捜索は民警の仕事なのだそうです。こちらの世界では一般の警察機構は警察省という専門のお役所の下に作られているそうですが、首都警は内務省管轄の治安警察なので、あまり仲が良くないのだそうです。むしろ、国防省に属する軍警の方が、普段からテロ対策なんかを一緒にやっている絡みで連携しやすいらしいのですが、民間人相手なので今回は民警に頭を下げたそうです。もちろん、転移者絡みなので、首都警も動いているのですが、一向に行方が掴めません。もう失踪から丸一日が経とうとしています。
「魔法が急成長してたって言ってたな? 実はあんまり良くない傾向なんだ」
通常の転移者はそれまで横ばいだった能力が、記憶の封印が解けた時点から徐々に成長を始めるというのが多いらしく、急に伸びるのは精神的にマズい状態である可能性が高いとか。
「街中の監視カメラで追ってるんだが、どうも攻撃魔法以外にも色々な技が使えるようになったみたいで、意識してかしないでかわからねえが上手い事逃れてやがる」
パターン認識で首都全域の監視カメラ映像から矢巻くんの容姿を抽出して探しているらしいのですが、どうにも発見場所が飛び飛びになっているらしくて、足取りがいまいちわからないようです。AIがある程度候補を絞ってくれるので、なんとか大まかな方向だけはわかりそうですが、まだ場所の確定には至らないみたいです。
「透明化やら迷彩やら使っているならまだいいんだが、存在自体がブレ始めてると厄介だな」
なんだか面倒な量子力学的な何かに入ってしまう事があって、最悪この世から消失するらしいです。怖いです。
「そんなのは今までに二人しか確認されてないから、まず大丈夫だとは思うんだが、一応念の為に科学省の方にも連絡入れておく」
姫騎士飼育係のフランソワさんでしょう。
「ひとまず、機を回したから乗ってくれ。アルはミルフィーユと一緒に飛んで探してくれ」
ミルフィーユっていうのは、サジさんのペットのドラゴンです。ドラゴンと言っても、人間以上の知能を持っている種もいれば、犬猫くらいの頭の種もいるようで、アルくんから見たら、ミルフィーユちゃんは犬みたいなものだと思います。もしかしたら鼻が良かったりするのかもしれません。
「オスプレイ?」
裏の訓練場に着地したティルトローター機は、何故か反対運動が起きる垂直離着陸機にそっくりです。
「バード・オブ・プレイだ」
なんだか凶悪な戦闘民族が乗っていそうな名前ですが、きっとまた商標とかなんかに関わるのでしょう。
猛烈なダウンウォッシュを吹き付けて離陸したティルトローター機は意外と良い乗り心地でした。
「さて、郊外の方に向かったのはほぼ確実なんだが、ガベージか、勇者の村か……」
窓から外を眺めながらサジさんはどこから捜索するか迷っているようでした。
ガベージであれば普段はほぼ無人なので、見付けやすいのですが、上空に異世界とのゲートが開いたりするので、飛行機で探すのは危険が伴うそうです。
一方、勇者の村に関しても、首都警とは色々因縁があるので、簡単に踏み込むわけにいかない場所だそうです。
「記憶の封印が解けかかってる状態ってのは精神的にも危ないんだが、マナを滅茶苦茶に溜め込んで、勝手に内側から弾けたり、万能感から無茶な魔法を使ったりしてそっちも危険なんだ」
事件が起こってからでは遅いと言いながら、派手に動いてくれないと居場所が特定できないというジレンマから、かなり焦っているのがわかります。
「いっそドカーンとデカい魔法でも使ってくれれば楽なんだが……」
言った途端に地上で火柱が上がるのが見えました。数秒後に爆風が吹き付けてきます。
「マズいな。勇者の村だ。あそこは別名蠱毒の村なんて呼ばれてて、余程酷い違法行為が無い限り警察も近寄らないような場所なんだ」
パイロットに勇者の村へ向かうように告げ、サジさんはいつもの甲冑とヘルメット、ガスマスクを手早く身に着けます。
「勇者の村の外に下ろすから、お前らは呼ばれるまでそこで待機していてくれ」
バード・オブ・プレイは滑るように夜空を飛んで、勇者の村の外れへと降下して行きます。




