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グールズバーグの春を愛す ~屍食鬼の街の魔法探偵事件簿~  作者: 吉冨☆凛
第一章 グールズバーグへようこそ
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第二十一話 矢巻が消えた(後編)

 腹もふくれたので、少し早いが訓練場に向かう。ちょっとした陸上競技場くらいの広さはありそうだ。バスケットボールコートであれば八面分くらい取れそうに見える。

 四階と呼ばれているが、八階くらいまでぶち抜きになっているのだろう。天井が高い。

 床も壁も補強されているようで、魔導防壁の存在も感じられた。サジみたいに一撃で建物ごと消し飛ばす常識外れならともかく、俺たちの魔法では傷一つ付けられそうにない。

 動物たちが大喜びで駆け回っている。街中だとなかなか自由に走り回れる所無いもんな。

 アルが一つ大きく伸びをして、ドラゴン形態になった。ドラゴンとしてはまだまだ子供らしいが、年齢は俺たちと同じ一八歳らしい。まったく見た目だけでは長命種の歳はよくわからない。

 午後の授業開始を告げる放送が鳴った。


「まずは、みんなの得意な魔法を使ってみてくださいね。攻撃系は標的立てるんでそちらに撃ってください」

 メガネを掛けたナミさんが部屋に入ってきて、特に前置きもなくそう言った。

 最初は俺だ。縦に並んだ人型の標的に向かって木剣を振るう。衝撃波が飛んで手前から三つまでの標的をバラバラにした。

「はい、よくできました。次はアルくんでいいかな?」

 ドラゴンの姿のまま、アルが炎を吐く。壊れた標的はいちばん手前の一つだけだ。しかもバラバラに壊れたわけじゃなく、なんか中途半端に折れてグラグラしている。二つ目にもちょっとだけ煤がついているが、これくらいだったら拭き掃除できれいになるだろう。巨体だがとんだ見掛け倒しだな。

 次はマサムネだ。白くて赤い目のイタチが後ろ足で立ち上がって前足を掲げる姿は、テレビの懐かしアニメ特集か何かで見た、ネズミがイタチと戦うアニメの悪役みたいだ。もっとも、人間から見たら随分ちっこいので、なんかぬいぐるみが頑張って悪役を演じてるみたいにしか見えない。

 シューッっという声とともに、俺のよりも速い衝撃波が放たれる。標的の人型は最後の一個を残して刀で斬ったように滑らかな切り口を見せて崩れ落ちてゆく。

 拍手が響いた。ネコミミ付けた執事っぽい服装のイケオジと狸耳の少女が手を叩いている。あの二匹は変身魔法が得意という事か。

 最後は吉村さんだ。魔導防壁を展開している。それを見たナミさんが連続で電気を帯びた球を撃ち出す。球雷というのだろうか。見ているこちらの髪の毛や動物たちの毛が逆立ってくる。ナミさんは徐々に威力を強めて連続で撃ちながら、吉村さんが少し苦しそうな表情を浮かべたのを見て止める。

「はい、だいたいわかりました。これからの実技では、全員に防御魔法を身に付けて頂くとともに、得意な技も現代魔法を使って発動させられるようにして頂きますね。あら、矢巻さん、もう大丈夫なんですか?」

 振り向くと青白い顔をした矢巻がいた。

「大丈夫です。僕にもちょっとやらせてもらえませんか?」

 標的を指差した矢巻にナミさんは頷く。

 矢巻は特に予備動作もなく、並んだ標的に向かって炎の球を撃ち出す。駆け抜けた炎は最後列の標的まで灰にして、壁際に展開されている魔導防壁に突き刺さった。速度を減じた火の玉はゆっくりと防壁に包み込まれるように小さくなって姿を消した。

 今までとは威力が桁違いだった。矢巻を見ると、薄っすらと汗を浮かべながら笑っている。何か嫌なものを感じさせる笑いだ。

「見学のつもりだったんですけど、カウンセリングの予約が早まったんで、今日は早退します」

 ナミさんに軽く頭を下げ、俺たちに手を振って矢巻は早々に訓練場を出ていってしまった。

「大丈夫かな? あいつ」

 俺の言葉に、吉村さんも心配そうな表情を浮かべる。

「授業終わったら電話してみよ」

 すぐに追い掛けていれば大事にならずに済んだと後悔するのだが、まだその時は何もわかっていなかった。


「さて、今日の授業はこれで終わりです。もっと練習したい人は付き合いますが、どうですか?」

 俺たちは息も絶え絶えだった。メインは大気中のマナを感じ取ってそれをそのまま流すだけの訓練だったが、これがまるでツルツルの箸で油を塗ったBB弾でも仕分けさせられているかのようにもどかしく、滅茶苦茶イライラする上にかなり体力を消耗する。

 イライラが溜まってきた所で伝統魔法を使った攻撃系の魔法をぶっ放してスッキリするのだが、またすぐにイライラする訓練が始まるのだ。

「ここではの授業過程に体育はありませんが、魔法は体力です。体力は魔法を裏切りません。もっとも、効率良くマナを使えるようになれば体力の消耗も抑えられるようになるので、とにかく日々鍛錬してください」

 脳筋のような事を言い出すナミさんに頭を下げ、俺たちはヘロヘロ状態でエレベーターに乗った。

「そろそろ矢巻のカウンセリングも終わった頃かな?」

 スマホを取り出すが、筋肉の使い過ぎで指先がプルプル震えて上手く操作できない。

 アルが代わりに矢巻の番号に掛けてくれた。さすがトカゲの化け物だ。魔法は見掛け倒しだが、無限の体力がある。

 何度掛け直しても電源が切れているというメッセージが流れるだけだ。

 今度はカウンセラーだ。コール二回で相手が出る。

 矢巻の友人だと告げて、もうカウンセリングが終わったかどうかの確認をお願いしたが、相手は即答で来ていないと答えた。

 首都警にも掛けてラインハルトさんに繋いでもらうが、帰ってきていないそうだ。

「矢巻の野郎……」


 結局、翌日になっても矢巻は戻って来なかった。

第一部完! まであと少しです。

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