第二十話 矢巻が消えた(前編)
今日は魔法学校の授業初日だ。俺はラインハルトさんに頼んで軽めの木剣を貰った。初日はほとんど座学だが、その後にちょっとした実習もあるらしいので、そこで使うのだ。
動物やら龍の子供の事は、昨日サジに話したが、『別に構わんぞ』の一言で片付いた。
アルは早速サジになついていた。ライラも含めた凶悪魔獣同士で仲良くやってくれ。
「おはよー」
矢巻、お前だけはずっと俺の親友だぞ。永遠にそのボケキャラでいてくれ。ただ、ロリコンは治しとかないといつか手が後ろに回るぞ。シャツのボタンを掛け違えたまま部屋から出てきた矢巻を見て、俺はウンウンと頷く。
「なんだ白神、何をニヤニヤしてんだよ」
シャツの件を指摘すると、矢巻はボタンを全部外したまま、嵌め直そうともしない。下にTシャツ着ているし、そんなに寒くもないからこれでいいのだそうだ。
動物とドラゴンを連れて魔法学校に向かった。
「おはようございます」
学校に着くとミミさんが迎えてくれる。
「今日は三階の六号教室ですよ」
アンドロイド同士はデータの共有をしているので、引き継ぎは完璧。もっとも、ナミ先生は同じ姿形をしていても人間なので、そこんとこよろしくだそうだ。
座学は魔法史と魔法理論がメインだ。教材は魔王城で貰ったようなVRっぽい没入型の体験映像魔法媒体を多く使っているので、初心者にもわかりやすいし退屈しないで済んだ。むしろ退屈どころか毎日来ても良いくらい面白い。
午前中の授業はあっという間に終わった。
昼休みを告げる放送が流れて始めてすぐに、矢巻が叫び声を上げて立ち上がり、そのまま昏倒した。
痙攣しながら俺と吉村さんの名前を呼んでいる。昨日の発作の続きか!?
ナミ先生はすぐに矢巻に駆け寄り、頭に手をあてがっている。治癒系の魔法で診察しているのだろうか。
「すぐに医務室に運んで! 投与は鎮静剤だけで、魔法治療は厳禁だから!」
教室に駆け付けた自分と同じ顔のアンドロイドに次々と指示を出してゆく。矢巻はストレッチャーに乗せられて、ミミさんと名前のわからないアンドロイドに運ばれて行った。
「命に別条は無いですが、しばらく安静にしていたほうがいいので午後は休んでいてもらいます。みなさんはそのままお昼ごはんを食べて、午後は四階の訓練場に来てください」
心配なので、一応医務室の場所を聞いたが、病人以外は立入禁止だそうだ。鎮静剤が切れて落ち着いたら訓練場で見学させるという事なので、ひとまず俺たちは昼食を食べに食堂に向かった。
食堂には雑多な生き物がごった返していた。クロたちのような純粋な動物は少ないが、多種多様な獣人、エルフ、ドワーフ、オーガといった伝説上の種族、果ては妙に賢そうな顔のゴブリンまでいる。
「代金は身分証カードで支払えますからね」
案内してくれたナナさんが言う。この世界の身分証カードはマジで便利なんだが、落としたりしたら人生詰むんじゃないかと聞いてみたところ、DNA情報含めた複数生体認証を行っているので、本人以外は基本的に使えないし、紛失しても最寄りの公的機関で即時再発行可能だそうだ。
「クラウドにユーザ情報とセーブデータ保存しているようなものですよ。でも、命はセーブできないので死なないようにしてくださいね」
なんか最後に怖い事をさらっと言って、ナナさんは去って行った。
空いている席に座って、教えられたようにタブレットからメニューを開く。まずは動物たちのご飯を選んでやってから、俺はカツ丼、吉村さんはざるそば定食を注文した。アルは何だかわからないデカい肉の塊だ。さすがトカゲの化け物。
「矢巻くん、大丈夫かなあ」
吉村さんが気のない感じで言う。転移者の記憶封印とか言われても、俺たち転生者にはピンと来ないのだ。
ドローンが運んできた料理を受け取って、身分証カードをかざして支払いを終える。これだけ混雑していると、店員が運んで来たりカウンターに取りに行ったりしていては回転が悪すぎるから、なかなか賢い仕組みだ。
たしかに動物だけだと、こういう注文や支払いもスムーズに行かないだろう。クロたちが付いて来たがったのも納得できる。
マサムネが皿からカリカリを出してテーブルに並べ始めた。並べ終わると満足そうに眺めて端から順に食べていく。なんか意味があるのか?
「まあ、よくわからんけど、転移者は必ず一回なるものって事だから、そんなに酷い事にもならないだろ」
マサムネの動きに惹き付けられている俺の返事もいい加減だ。
カツ丼は美味い。炭水化物で炭水化物を食うのは嫌だと思っていたが、吉村さんのざるそば定食には結構な量の天ぷらが付いてきている。エビ天もでかいのが二尾だ。次はあれにしよう。アルはマンガ肉状の物にかぶり付いている。食い方が完全にワニとかトラとかの猛獣で、見てる方としては完全にドン引きだ。
後編は明日上げたいと思います。




