第十九話 家族がふえるよ!
「では、帰りましょうか」
ドラゴン幼児の座っていた席にいる少年が立ち上がって声を掛けてきた。怪訝な顔をしているのがわかったのか、少年は自分の手を顔の前に掲げてみて、納得が行ったようにポンと一つ手を打った。ポフッという音とともに、少年が元の幼児の姿に変わる。
「失礼しました。彼を運ぶのに元の姿ではちょっと都合が悪かったので。自己紹介が遅れました。赤龍のアルケタスです。アルと呼んでください」
ちっちゃな手を差し出してきた。僕はアルとそっと握手する。柔らかくてすべすべむにむにした手だ。ヤバい。変な方向に目覚めそうだ。
アルの手を握ったままぼんやりしていると、白神に小突かれた。
「吉村さんが車呼んだから帰るぞ。なんか知らんが、こいつらみんなついて来る事になった」
僕たちも未だ居候みたいなものなのに、勝手に住民を増やして良いのだろうかと疑問に思ったが、気を失った後しばらく周りの状況に気を配る余裕が無かったので反論はしないでおく。
「パパ死んだ。転生できるのに、ボクたちに力与えてって神様に言って、成仏した」
神様の所で成仏というのなんとなく違和感だが、フェレットくんが涙目でぷきゅぷきゅと言うには、飼い主のお爺さんと彼らは火事で死んで、転生を司る神の所に導かれたそうだ。
「まぁ、爺ぃは自分は歳だから新しい環境でやっていける自信も無ぇし、俺らが一緒に死んだ事に責任感じててなぁ。俺らに人並みの知能とコミュニケーション能力を与えて、プラスアルファで自分が受け取るはずだった能力を分配してくれって神さんに頼んで消ぇて行っちまったぁ。」
猫の方は随分とべらんめえ口調だ。全身真っ黒だけれど、手足には白い靴下を履いた毛並みだ。
「何度も説明、めんどくさい。動物だけだとナメられる。仲間に入れろ」
狸の方は随分と無愛想だ。でも、豪華なモフモフ毛皮だ。見た目の誘惑に負けてちょこっと撫でてみたら、見た目に反して結構しっかりした毛の感触だ。ゴワゴワとフワフワの密集具合がヤバい。
「僕もご一緒したいんですよね。この格好だと補導されちゃう事もあるし、龍の姿だとエネルギー効率が悪い上に、そもそも入れてくれない飲食店も多いですから」
龍の姿で鹿とか猪を取って食べてもいいけど、骨が喉に引っかかるし、毛が口の中でモシャモシャするしであまり好みじゃないらしい。人間で例えるとイワシとかサンマを踊り食いにするようなものだとか。
「わざわざ人間の魔法学校に来たのも、細かい魔法が得意じゃないからなんですよ。猪の丸焼き作ろうとして消し炭にしちゃうし、この姿でやると生焼けになるしで」
普通にその姿でイワシでも焼いておけば良いんじゃないだろうか? ボロアパートで一人イワシ焼いて食べてる幼児とか物凄くマズい構図だけど。
動物三匹は『クロ』『マサムネ』『ポンコ』と名乗った。
自動運転タクシーの中、クロは吉村さん、マサムネはアル、そしてポンコは僕の膝の上だ。白神はまあ……、股間の染みは乾いてるけど、動物としてはやっぱり臭いと感じるんだろうな。ご愁傷さまだ。
「あたしは子供の頃、山で怪我してるところを猟師に拾われた。猟師は怪我の手当まではしてくれたけど、家に犬がいるから飼えないって言って、あたしを隣の家の爺さんに託したんだ」
ポンコは落石に挟まれてぴーぴー泣いているところを鹿猟のハンターに助けられたらしい。
「俺ぁ捨てられてた……みてぇだ。何も憶えちゃいねぇがな。物心ついた時には爺ぃと一緒だった。もっともまだその頃は爺ぃと呼ぶにゃぁ若かったがな」
クロは最期を迎えた時には猫又になる寸前くらいの歳だったという事だ。
「ボクは最初のパパとママが別れて、ママに引き取られた。でも、ママ新しい男の人と一緒になったらボク要らないって言われた……。新しいパパお爺さんだったけど優しかった」
殺処分したり、その辺に捨てないだけマシだけれど、飼い主の身勝手さに腹が立つ。涙目になってるマサムネの背中をアルがそっと撫でてやっている。
「まぁ、なんだ。爺ぃの命と引換えに自活できる力を付与しては貰ったけど、やっぱしこの世界ってなぁ人間様中心に出来てんで、保護者がいた方が何かと便利でなぁ。一つよろしく頼まぁ」
よろしく頼まれてしまった。吉村さんは返事をする代わりに耳の後ろを掻いてやっている。クロが目を細めてあくびをした。
僕は眠ってしまったポンコの頭にタブレットを立て掛けて、カウンセラーの予約をする。『転移者専門』とのことで、転移に伴う記憶操作の副作用を専門に扱っているらしい。たしかに、あんな光景が頻繁にフラッシュバックするのでは日常生活にも支障が出そうで困る。
これも身分証カードの番号を入力するだけだ。種族やら元の世界やら転移した年を選択し自分の名前を入力すると、長い番号の上の方の桁が自動的に埋まるので、それほど手間ではない。『今年地球から転移した人類の矢巻総一』が一万人いるとは思えないのに、四桁も枠が取られているのは不思議な気はしたが、とにかく予約は完了した。きっとシステム屋特有の妙な慎重さが原因だろう。
窓の外を見れば、すっかり日が落ちていた。きらびやかなグールズバーグの街灯りを眺めながら、僕はポンコの背中をそっと撫でた。
今日は勤務開始前に上げてしまいます。
不穏なサブタイトルですが、内容はそれほど不穏ではありません。




