第十五話 伝統魔法と現代魔法
宮殿のような首都警の建物の裏口から出ると、だだっ広い土地が広がっていた。
東京ドーム何個分と言うより、成田空港何個分みたいな場所だ。地平線は流石に見えないが、遠くの方はぼんやりと霞んでいる。
ぽつぽつと人型の標的みたいな物や塹壕、小高い丘の側面にダンジョンの入口みたいな洞窟があるが、とにかく広い。
ズラリと並んだ黒い甲冑の隊員は機動隊の使うような透明な盾を構えている。
「じゃあ、まず俺の体のどこでもいいから触ってみろ。男に触られるのは好きじゃないが、この際仕方ない」
僕はサジさんの二の腕の辺りに触れた。体内にマナが渦巻いているのがわかる。物凄い量でもないし、圧縮されている感じもしない。ライラちゃんは小首を傾げてサジさんの腰の辺りをペタペタ触っている。多分マナを検知する能力は無いのだろう。でも可愛い。
吉村さん、背中に胸を押し付けるのはちょっとやり過ぎでしょう。さすがのデカさにサジさんはちょっと照れてるし、白神は露骨に不機嫌そうになって手首のあたりを指先でつついた後、そっぽ向いているし。
「じゃあ、お前ら離れてろ。魔導防壁展開!」
「展開よし!」
黒い甲冑が揃って声を上げる。
「行くぞ」
サジさんが掌を突き出し、ダンジョン入り口みたいな洞窟に照準を合わせる。ファイアボールみたいだが、僕の撃つのとは温度がまるで違うのか、オレンジ色ではなく青く輝く球形が掌の前に形作られていく。しかも巨大だ。サジさんの身長より大きいから、だいたい二メートル程度だろうか?
打ち出された青いファイアボールは狙い違わず洞窟に吸い込まれて行った。
「バックブラスト備え!」
甲冑たちのうち、手前の方に居た十数人が、僕たちを守るように洞窟に向かって盾を構える。
洞窟の奥にファイアボールが消えたと思ったら、数秒後に猛烈な吹返しが来た。魔導防壁と盾があっても吹き荒れる風は最大級の台風みたいだった。サジさんは背を向けて体でライラを包み込むように守っている。僕らと扱いが違いすぎませんかね?
風が収まって、洞窟の入り口を見ると、溶岩が垂れ落ちていた。これって、一撃でダンジョンの最終階層までの全生物を殲滅しちゃうんじゃないかな?
「まあ、こんなもんだな。これが伝統魔法だ」
こんなもんだな、じゃないでしょう。もう一回俺に触れてみろと言われて、サジさんの体に触れると完全にマナが枯渇していた。
「わかったか?」
僕たちが頷くより前に、ライラちゃんが声を上げた。
「ワカッタ! ウニョウニョ ナクナッタ!」
魔法の使い方を伝授されなかったはずなのに、ライラちゃんは既にサジさんのマナが枯渇したのを感じ取れたらしい。恐ろしい子。
「ライラは凄い子だな。おめえらもちゃんと感じ取れたな?」
僕たちは頷く。やっぱり、なんか扱いが違いすぎないだろうか。
「じゃあ、次行くぞ」
サジさんはもう一回ダンジョンに掌を向け……さっきよりずっと巨大な青い炎の弾を洞窟に向けて連射した。体感で0.1秒。六発までは数えたがそれ以上かもしれない。見た目は極太のパルスレーザー砲だ。キノコ雲を上げながら、洞窟の入口があった丘自体が消失、溶岩の沼に変わっている。完全に吹き飛んで吹返しも来ないからバックブラストを防ぐ隊員も要らないようだ。
「こんなもんか」
ちょっとだけ疲れた様子でサジさんが言う。
溶岩流が流れ出しそうな丘の残骸に向けて白っぽいビームのような魔法を無造作に撃つと、バキンバキンゴリゴリという物凄い音を立てて溶岩が固まってゆく。
「冷凍光線!」
吉村さんが興奮している。彼女はなんかそういうのが好きみたいだ。
「これが現代魔法だ。世界に偏在するマナを捉え、体力が続く限り撃ち続けられる。前にロケットエンジンとジェットエンジンの違いだって言ったのはそういう事だ」
確かに前にそんな事言われた気がするけど、こんなものほぼ核兵器だろ。魔王と戦って勝てるだけのことはある。
「魔王は強いぞ。途轍もなくケタ外れだ。伝統魔法でこれと変わらない事が出来るからな」
戦って勝ったのじゃないかと聞くと、エキシビションマッチだから、魔王側は伝統魔法だけ使うという制限があったらしい。
「最近は物分りがいい若者ばかりで楽だったんだが、ライラも来た事だし、無茶しそうなお前らにはちゃんと伝えたほうがいいと思ってな」
機関銃の速度で核兵器やら冷凍光線やら撃ち出す掌をひらひらとこっちに向けないで欲しいと僕は思ったけれど、口には出さなかった。
明日から職場的には自宅勤務の命令ですが、プロジェクト的には明日まで都内勤務です。
嫌だなあ……。




