第十四話 てんせいのひみつ
「ライラちゃん、か~わい~な~」
矢巻の奴が緩み切った顔で言う。こいつは真性のロリコンか!? たしかに五年後、十年後が楽しみな美少女ではあるが、少なくとも今の時点では、俺の恋愛対象範囲外だ。十四歳と言っているが、どう見ても十二歳くらいにしか見えない体格だ。完全なまな板。脱がしてみればちょっとだけ膨らんでいるのかもしれないけれど、大きいのが正義な俺としては、隠れHカップの吉村さんの方が断然上だな。
そもそも、こいつはライラに殺され掛けたのに、何を色ボケしてやがんだ。
ヌーリスターンっていうのはアフガニスタンの辺境の一地方って事だが、ライラはそこから更に奥地に引っ込んだ未開の村の出身らしい。主な産業は農業とちょっとだけ牧畜、あとは狩猟採取。
正確には元々カーフィリスターンって呼ばれていた土地の一部が、教化から取り残されて忘れ去られたままになったみたいな話をサジとラインハルトさんがしていたが、とにかく地の果てのド辺境から来たのは間違いない。
サジの弟って奴は、いわゆるバックパッカーで、世界の秘境を回るうちにライラの村に居着いたという事だ。名前も付いていない古流武術の継承者だったそいつは、まだガキだったライラの素質に惚れ込んで、戦国時代から伝わる殺人術を全て教え込んだ。
その結果出来上がったのが、米兵十数人を相手に素手で立ち回れる、少女と言うより幼女に近い見た目のモンスターだ。
『スデ モンダイ ナイ アイテ ブキ タクサン モッテル ベンリ』だそうだ。わけがわからない。完全武装した相手をただの武器庫としか見ていないという感覚は俺の理解を越えていた。
「デモ センセイ トオクノ ヤマカラ ウタレタ ウゴケナイ センセイ タクサンデ コロシタ キタナイ ケド ソレモ タタカイ タタカイニ ズルイ ヒツヨウ」
スナイパーにやられた所に突撃されたのだろう。サジの弟という事は相当に強かったはずだ。そしてその弟子もこの通り。悔しいが今の俺じゃこんなガキにも敵わない。
せっかく異世界転生でチート能力を貰ったと思ったのに、魔法は『伝統魔法』だとか言われてバカにされるし、体術じゃまるで勝てないし。
「じゃあ、ちょっくら職安行って住民登録だの何だのしてくらあ」
サジがニヤニヤしながら、ライラの手を引いて出ていく。こいつもロリコンか!
ラインハルトさんがお茶を運んできた。この人は相当偉いはずなのに、いつも腰が低い。茶菓子は羊羹か。くるしゅうない。
「弟さんの件は残念だったけど、元の世界との繋がりが持てたのはそれなりに嬉しいのでしょう。あ、創業四百年、ライオン屋の羊羹です」
羊羹を一口食べて、優雅な仕草で湯呑の煎茶をすすると、穏やかな口調でそう言った。こんなのが絵になる男はラインハルトさんくらいしかいないだろう。
「サジ……大佐も転生者だったんですね?」
わかり切った事だが聞いてみた。
「いえ、彼は転移者です。そこの矢巻さんと同じで」
え? 俺ら全員転生者じゃないの? 怪訝な表情に気付いたのか、ラインハルトさんがしまったという表情になる。
「あ、今のは忘れて……というわけにはいきませんね。失言でした。ああ、大佐に怒られるなあ……」
矢巻の方を見ると、なんかポカンとしている。まあ、こういう奴だ。
「白神さんと吉村さんは転生者です。死んだ時の事しっかり憶えているでしょう?」
あまりいい記憶ではないけれど、乗っていた車がガードレールを突き破り、物凄い衝撃とともに意識が一瞬吹っ飛んで、次に気が付いた時には変な空間に居た事はちゃんと憶えている。
「矢巻さんは、転移前の記憶がまだ曖昧なはずです。いずれ戻りますが、里心が起きないように、こちらの世界に馴染むまでは部分的に記憶が封印されてしまっているのです」
そうか。あの事故で矢巻は死ななかったんだな。俺と吉村さんは死んでしまったけれど。そう言えば、血塗れの車内で呻いている矢巻と首が折れて体が捻じ曲がった自分の姿を、意識が体を離れる瞬間に見た記憶がある。
いや、あれは女神に見せられたん映像なんだっけ?
「こっちの世界とあなた方が元いた世界では、放射性同位元素の量が違うんですよ。バーコードリーダーみたいな機械向けられましたよね。あれでわかるんです。転生なら完全に体を再構成するから、基本的にこっち側と同じ。転移だと元の体を持ってくるから、向こうの世界とこっちのミックスみたいになるんですよ」
つまり、俺と吉村さんの死体は元の日本に残ったまま、矢巻は行方不明って事か。
矢巻が俺たち二人殺害の容疑者になっていないといいな。
「転生しちゃった方が何かと能力付与に便利らしいんで、転生者の方がチート級の能力持っている事が多いんですが、皆さんの場合はそれほど差が無いようですね。多分、矢巻さんの体も相当酷い損傷を負ったのだと推測されます」
怪我ばっかりしてんな、矢巻。あの事故は矢巻のせいじゃないから責任感じるなよ。
矢巻の記憶が戻った時には少しケアが必要かもしれないと思って、吉村さんに目配せする。そっと頷き返された。
「大佐の場合は、死にかけていたとは言っても、栄養失調と脱水症状が原因だったので、彼は転移・転生管理者……つまりあなた方が会った、神もしくは女神からの恩恵をほとんど受けていないんです。精神的にはかなりボロボロだったみたいですが、転移寸前の記憶を一時的に封印された事で正気を保てたみたいですね」
恩恵を受けずに転移して、今はあのモンスターっぷりか。元々何かの武術の継承者だったとはいえ、日本じゃ魔法は使えない。気に食わないオヤジだが、努力だけは認めてやろう。
「更に、龍の里に転移して、半年もピックアップして貰えなかったんです。酷い話でしょう。でも、そのお陰であのよくわからない物を消したり出したりする魔法が使えるようになったらしいので、怪我の功名ってところでしょうか。あれは龍族が人の姿を取る時に、元の体を収納しておく為の物らしいんですが、大佐の場合はボストンバッグ一個分くらいの容量みたいですね」
ただの手品じゃなかったのかと感心したが、実用性を考えたらそれほど便利そうでもない。大抵のラノベの主人公は無限に収納出来たりするものだ。所詮見掛け倒しで子供騙しだ。
「まあ、遠からず矢巻さんが記憶を取り戻す時が来ると思いますが、その時はあなた方がケアしてあげてください。私たちもサポートはしますが」
わかったよ、ラインハルトさん。わりとボケててボンクラな矢巻だが、俺にとっちゃ親友だ。責任を感じないようにちゃんと支えてやる。
当の矢巻は理解が及ばないという顔をしてポケッとしているが。
俺はだいぶ冷めてしまったお茶を一気に飲んだ。吉村さんはおかわりを要求している。このクールさがたまらなく好きだ。そろそろ友達じゃなくて男として意識してくれたら良いのに。
「おい、練兵場に行くぞ。手の空いている奴らを集めてくれ」
ライラの手を引いて戻って来たサジがラインハルトさんに命じた。やっぱりこいつは好きになれない。
ヒロインの乳のサイズが判明しました。




