第十三話 継承者たち
また首都警の事務所です。どうせ私たちはここに住んでいるようなものなので、別にいいのです。
今日はお昼にカツ丼を出してくれました。容疑者でもないのに。
一応、昨日のクエストは完了という事で、規定の日当は払ってもらったのですが、空から落ちて来た凶暴な女の子の扱いに関して、内務省と科学省で揉めているので、せっかくレア物を見付けたのにその分のボーナスは無しになるかもしれません。サジさんは大好きですが、内務省の組織である首都警が女の子を持って行ってしまうと、科学省からのボーナスは出なくなります。
姫騎士を飼っているに違いないオークのフランソワさんは科学省の職員です。矢巻くんの治療も手早くやってくれました。流石に死ぬ寸前まで陵辱した姫騎士を魔法で治して、感度何千倍の薬を与えたりするだけあって腕利きです。
アホの矢巻ですが、いなくなるのはちょっと寂しいので、フランソワさんには感謝です。
なんかゴニョゴニョして健康保険の適用範囲内にしたという事なので、千圓だけ払ってきました。今は一圓がだいたい三十五円くらいの価値らしいので、頚椎骨折と右腕の開放骨折の治療費としては激安です。
でも、一割負担とか言ってたので、一回の治療費としてはそれなりに高額なのかもしれません。
そもそもが労災らしいのですが、お役所の人がこぞってゴニョゴニョしろと言ったわけなので、私たちも口裏を合わせてゴニョゴニョしておきます。
払った千圓も後でサジさんが返してくれるという事なので、懐は痛まないから別にいいのです。
そんなわけで、矢巻くんは業務時間外にフラフラ遊んでいて、ゴミの山から落ちたという事になりました。
こちらのお役所も相当な隠蔽体質ですね。さすが魔王の支配力が衰えていないだけあります。
「準備出来たんで来てくれ」
ドラマなんかでよく出てくる取調室の横にあるマジックミラーの裏側の部屋に通されました。取調室には机があって、机の前の椅子には昨日の女の子が手枷足枷を掛けられたまま、動けないように椅子にベルトで縛られて座らされています。色々と人権問題になりそうですが、あんなに凶暴な子なので仕方無いのでしょう。
取調室にはラインハルトさんと姫騎士陵辱のオークであるフランソワさんがいます。フランソワさんは、なんだかよくわからない計測器を持っていますが、そういう道具を使うプレイもお好きなのでしょう。
「まず、名前を教えてくれ」
女の子が攻撃的な口調で何か言い返しますが、全くわかりません。サジさんによれば通常の転生と違って次元回廊で直接転移して来た人たちは、こっちの世界の言葉を理解できるような能力を付与されていないらしいのです。
ラインハルトさんはいくつか地球の言語らしい言葉で語り掛けますが、やはり通じないようです。女の子はますます激高して、縛めを解こうと暴れ始めます。
「ちょっと行ってくるわ」
サジさんが親子丼を手に一旦廊下に出て行きました。容疑者にはカツ丼でしょうと思うのですが、昨日、もしかしたら中東系かもしれないみたいな事を言っていたので、タブーに配慮しているのでしょうか。あの辺の宗教事情を考えると、たしかに牛と豚と鰻は避けたほうが良いですね。やっぱり出来る男は違います。
「苦戦してんな」
サジさんがドアを開けて取調室に入った瞬間、女の子が目を大きく見開き、叫びました。
「センセイ!」
なんと! 日本語です!! しかもサジさんの事を先生と呼びましたよ。二人の間に一体どんな関係が? これは嫉妬案件かもしれません。いきなりのライバル登場です。
日本に生きていた頃はそれなりに清楚系でウケが良かった私ですが、あんな彫りの深いくっきりした目鼻立ちの美少女と勝負するとなると、ちょっと不利です。
もっともサジさんも高○健さんみたいな感じのアジア系っぽい顔立ちなので、そういう意味では私もまだまだ有利かもしれません。
両手の自由がきかないので、流れる涙を拭うことも出来ないまま、少女は続けます。
「センセイ シンダハズ……ムラカラ ワタシタチ ニガシテ ヘイタイニ ウタレタ アタマ カラダ メチャクチャ ナッタ」
そして転生したのがサジさんなのでしょうか? サジさんも転生者というのなら、あのデタラメな強さも納得が行きます。
「そうか……、幸雄のやつ、死んじまったのか……」
サジさん、天井を見上げてます。なんとなく目が潤んでいるように見えます。
「って事は、キミがウチの流派の最後の継承者だな……」
少女はキョトンとしています。
「幸雄は俺の双子の弟だ。俺は兄の幸生。双子の意味はわかるか?」
少女は頷きます。『サジ』というのはこっちの人が発音しやすいように変えたのですね、左門幸生さん。
「センセイノ オニイサン?」
小首を傾げる姿が愛らしいです。女の私もキュンとしちゃうくらいです。でも、そこにいるのは素手でフル装備の米兵を何人も殺傷した殺人マシーンです。油断してはいけません。
「そうだ。ところで、名前と歳と出身地を教えてくれるか? ついでに宗教なんかもわかると助かる」
なんだかすっかり心を許した感じの少女が、元気に答えます。
「ライラ! ジュウヨンサイ ヌーリスターン チカク チイサイ ムラ スンデタ シゼン カミサマ ムスリムト チガウ」
サジさんが親子丼を持っていた手をサッと振ると、丼のデザインが変わりました。
「グールズバーグへようこそ! 赤龍亭の特製カツ丼だ。熱いうちに食ってくれ」
毎度思うのですが、あれはどういう魔法なのでしょうか。いつの間にか少女の手枷も消えています。
「イタダキマス!」
ライラが物凄い勢いでカツ丼をかっ込みます。箸の使い方が上手なのは、『センセイ』に教わったのでしょう。
そんなライラをサジさんがなんか愛おしそうに見つめています。いつの間にか湯呑に入ったお茶まで用意しています。ピンチです!
お仕事がちょっと落ち着いて来たので、だいぶ推敲に時間を取れるようになりました。
今まで投稿した部分もぼちぼち見直すか、続きを進めるかで迷います。




