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グールズバーグの春を愛す ~屍食鬼の街の魔法探偵事件簿~  作者: 吉冨☆凛
第一章 グールズバーグへようこそ
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第十二話 怪物(モンスター)

 矢巻が死んだ!?

 空から落ちて来た少女をお姫様抱っこで受け止めようとして、何故かとんでもない技を食らって倒れた矢巻はピクリとも動かない。

 俺は折り畳みスコップを伸ばして、剣のように構えた。転生時に教えられた魔法の剣技を発動させるべく、体内のマナを練り上げていく。重力を感じさせない動きで矢巻の死体の脇に降り立った少女は吉村さんに狙いを定めたようだ。足場の悪いゴミだらけの地面を蹴って、たった三歩で五メートルほどの距離を詰める。吉村さんは棒立ちのままだ。

 少女は膝を曲げてしゃがんだ姿勢を取ると、一気にジャンプして吉村さんの頸めがけて膝蹴りを放った。ギャーンという金属音に近い音が鳴り響く。魔法障壁を展開して蹴りを防いだのだ。

 俺は剣に見立てたスコップを振り下ろし、衝撃波の刃を放った。少女はこちらを見もしないまま、襲い掛かる衝撃波を次々と避けていく。今のメインターゲットは十数メートル離れている俺よりも、すぐ近くの吉村さんのようだ。地面を転がり、飛び跳ね、遮蔽物を使って魔法を避けながらも、少女の視線は吉村さんの方を向いたままだ。体内のマナもそろそろ尽きそうなので、そろそろ大技を使わせてもらおう。残り全てのマナを折り畳みスコップの刃先に込めて、全力で振り切る……寸前に柄から手を離した。

 衝撃波の魔法によって加速されたスコップが猛烈な回転をしながら少女に向かって飛んでゆく。直撃しなくとも、周囲のゴミを吹き飛ばせば破片で動きくらいは止められるだろう。

 ――誤算だった。少女の狙いは全く別の所にあったのだ。衝撃波を載せた折り畳みスコップは少女が投げ付けた陸軍兵士の死体をボディーアーマーごと一部蒸発させてバラバラに砕いたが、その時には彼女は着弾地点から数メートル離れた所に立っていた。手には自動小銃を構えている。兵士の死体と一緒に落ちて来た物だろう。そしてそこから後はスローモーションに見えた。トリガに掛かった指が小さく動く。俺も矢巻の後を追うんだな、と覚悟を決めた瞬間に、まるでトラックに跳ねられたような衝撃が襲っった。

 ゴミに埋もれて視界ゼロだが、銃声とともにカカカカカンという軽快な音が響く。体のダメージを確認しながら身を起こすと、どこかで見たような黒い外骨格が、鎧で小銃弾を受け止めている。犬か狼みたいなエンブレムが着いているところを見るとサジとかいうオッサンの部隊だろう。トラックに跳ねられたのではなく、あいつに突き飛ばされたんだ。ますます嫌いになったが、その後の展開を見て、完全にそんな事は頭から吹っ飛んでしまった。ついでに防護服の頭部もどこかに吹っ飛んでしまっている。

 首都警の連中の重武装っぷりからすると、あんな凶暴な少女は機関銃か何かで蜂の巣にして一気に方を付けるのだと思っていた。だが、鈍重そうな外見と裏腹に外骨格の男はライトフライ級ボクサーのような足さばきで、後ずさる少女との距離を詰めていく。

 傍迷惑な跳弾を撒き散らしながら、ついに凶悪なデザインの外骨格と少女は、ほんの数歩の間隔で向き合った。マガジンを交換し、尚も撃ち続けようとする少女に、滑るように前に出た黒い外骨格は、残像も見えない右フックを叩き込んだ、……ように見えた。一瞬の間があって、銃声ではなく破裂音が響き、沈黙。

 銃身が炸裂した自動小銃を放り出し、一気に数メートル飛び退った少女は、拳銃を取り出して機関銃のような速さで全弾撃ち尽くす。拳銃弾を弾き飛ばしながら前に出た男は、少女の前に立ち、その頭に優しく掌を置いた。全身の力が抜け、くたっと崩れ落ちる少女。外骨格の男は少女の細い体をひょいと肩に担ぎ上げる。

「サジ……さん?」

 何事も無かったかのように歩いてくる外骨格に、俺は声を掛けた。

「お前らか。災難だったな」

 地面に転がるガラクタを蹴って地均しし、人一人分くらいのスペースを開けると、サジは担いでいた少女を無造作に転がした。

「召喚術絡みじゃない転移や転生は予測が付かないことが多いんだが、今回は事前にフランソワから妙な計測値が検出されたって連絡来ててな」

 親指で指す方向には、ガベージの入り口で事務処理と説明をしていたオークの姿があった。えらく心配そうにオロオロしている。それにしても、オークがフランソワ?

「人種的に中東辺りだな。多分だが、非イスラムの少数民族ってとこだろう。んで、こっちは……、あ~あ……、アメリカ軍だ。しかし、この殺され方は……」

 原形を留めている兵士の死体を調べながらサジが首を傾げる。バラバラになった方について何か言われるかと思ったが、特にお咎めは無いようだ。

「まあいい。米兵にはとくに恩も恨みも無いしな。何が起きてるのかは、こいつに聞いてみるとしよう」

 少女は意識が戻りつつあるのか、小さな呻き声をあげている。

「矢巻といったっけ、お友達は生きてるから安心しろ。もっとも、地球だったら全治半年ってところだけど、こっちにゃ便利な治癒魔法なんてのもあるから、来週あたりには元気に走り回ってるだろ。フランソワはあんなナリだが治療師としても優秀だ。つーかお前ら、魔法使う前に魔法学校行けってパンフにも書いてあっただろ」

 いろいろと五月蝿いオッサンだが、確かに貰ったパンフレットにはそんな事も書いてあった気がするので渋々頷く。

「さっき魔法使った時、体力はまだあるのに、マナが尽きて撃てなくなっただろ? そいつが伝統魔法の欠点だ。この世界じゃほぼ廃れたし、それで戦おうなんて思ったら即死コースだぞ」

 まさに言われた通りで反論できない俺の髪をサジはワシャワシャとかき回した。ウザい。

「生意気なガキは嫌いじゃないが、死んじまうヤツは嫌いだ」


怪物同士の戦いです。

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