第三十一話 九頭竜の呼び声(2)
「あ……ぐ、……7……2」
とにかく歯が痛い。向こうの地球で治療した奥歯だ。見えない場所だから銀歯になっている。
「な……ろ……」
アナログ?
「アナログラジオだろ。荷物の中にあったはずだ」
老ゴブリンが砲塔に取り付いて戦車の中に潜り込むと、すぐに古臭い”ラジカセ”を手に降りてきた。
「周波数はこれでいいかな」
ゴブリンがパチパチとスイッチやダイヤルを操作するとモノラルスピーカーから声が流れ始め、それと同時に歯の痛みはピタリと止んだ。
――助けてください。
第一声はそれだった。
――この惑星で邪神と呼ばれる存在に侵食されています。長年抵抗してきましたががががががが……
なんだか相当ヤバそうな雰囲気だ。
――自力ではもう勝てそうにありません。乗組員も既に全滅して、自動修復以外に方法が無いのですが、融合炉まで侵食されてしまいエネルギー供給がががががががが……それで、強い力を持った方に助けていただきたいのですすすすすすすす……
視線を感じて振り返ると傭兵たちやネクロマンサー姉、宙に浮かぶ妖精までが僕を見つめている。
確かに魔力だけなら一番強いだろうけれど、宇宙船の修理なんかした事は無い。
――もう時間がありません。ブートアップ用の小型原子炉が破壊されるとこの辺り一帯が汚染され、私もだいたい修復不可能になります。
視線の圧が強くなる。コボルトがメガホンタイプの拡声器を手渡してくる。しかし、”だいたい”修復不可能ってなんだ?
『あーテステス。マイクのテスト中。理解した。了解した。そちらに向かうので乗り込む方法を教えてくれ』
その言葉に呼応するように船体後部で赤い光が点滅する。
――今光ったランプの二メートル下。そこから更に四メートルは何も無い空間になっているから。本来なら転送装置を使えばいいんだけど今は出力が足りない。
テレポートしろって事らしい。もしくはRPGで大穴開けて乗り込むか? いや、それは多分ダメだろうな。
『了解した。呼吸可能な大気で満たされている事を要望する。ダメなら外気導入しといてくれ』
――問題ありません。すぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐ……。
すぐに対応するのかすぐに来てほしいのかわからないし、時間が無いというのも二十年もこんな場所で転がっていて平気な宇宙船の時間感覚もわからないが、放置しておいても碌な事にならないという事は理解出来た。
『今すぐに行くから内部のセキュリティ設備があるなら切っておいてくれ』
明滅する赤い光を見つめ、座標を頭の中に思い描く。
そして僕は”跳んだ”




