第二十七話 再びルルイエに(4)
2022/11/03 26話が2つあったのでタイトルだけ修正です。
二十メートル近く落下して甲板に着地する。サイボーグボディだから何ともないが、生身だったら無事では済まないだろう。
そして頭の上でズゴーッという噴射音。マナが尽きかけたアルがロケット補助推進離陸(RATO)を使って上昇していく。赤い竜がロケット噴射で飛んでいく姿はなかなかシュールだ。
時間停滞の魔法とともに乗員の精神衛生に配慮したらしい何らかの障壁でアルの姿はあっという間に見えなくなった。艦の舷側から氷原を見ても数十メートル先から何も見えない。見えていたら物凄い勢いで季節が移り変わったりペンギンが時速1万キロですっ飛んでいったりするはずなので、この配慮は正解だ。乗組員がフラフラと氷原に迷い出て凍死したり邪神に食われたりする事を防ぐ防壁も兼ねているらしい。もっとも魔力をぶつけたりサイボーグボディでぶち破ればすぐに抜けられるようだ。
事前に展開していたマップを元に時間停滞オーブの位置を確認していると、軍服を着た偉そうな軍人がやってきた。日本人だ。事前情報によると日本人は左官以上は乗っていないはずなので、リー少尉の袖章に気付けば素直に従ってくれるはず……だが、どう見ても男装だしコスプレにしか見えない。信じてもらえると良いのだが。
「きさん! 竜に乗って来たと!?」
まずそこかい。
「竜崎中佐殿! 自分は先に怪異の源を探すのであります! 説明については宜しくお願いしますです!」
軍人っぽい喋り方をしてみたが、いまいち自信が無い。こうしている間にも外ではどんどん時間が流れていっているはずだ。頭の中で時計を呼び出す。時間停滞フィールドの中に入ってしまっては実測のしようが無いので、フィールド外の時間経過は推定値だが突入からの秒数が表示される。フィールド内でのリアル時間は十五秒経過。外部の時間は……二十五時間?!
「かそくそーち!」
俺はかなり禁断の技に頼る事にした。サイボーグボディだから出来る超加速だ。技名を叫ぶ意味は無いのだが、必殺技は口に出した方が締まる。
意識がすっと消える。
次の瞬間、俺は機関室に設置されていた時間停滞フィールドのオーブを粉々に打ち砕いていた。
時計とログを確認する。加速状態に入ってから2秒。直線移動距離七〇メートル。実移動距離一四六メートル。ボディ損傷無し。人的損害無し。
艦全体を重苦しく覆っていた何かが消え去っていくように感じたが、きっと気の所為か、もしくは高感度なセンサーが捉えたサイボーグならではの感覚だろう。
一息ついていると、加速状態の記憶が生身の脳に書き戻されてくる。
この世界のサイボーグの加速装置は、特に生身の脳を持つ場合には加速状態に入ると同時に電子頭脳に肉体の全ての制御を譲り渡し、キャッシュに溜め込んだその間の記憶を後から書き戻す形を取っている。
つまり、加速状態にに入ったが最後、完全に機械制御で人間の脳が介入する隙は無いのだ。
プロセスとしては、まず生身の脳が条件設定をして、電子頭脳に制御を引き渡す。
例えば、「時間停滞フィールド発生源を特定して破壊。人命最優先。施設の破壊は最小限。可能であれば解錠も非破壊的に実行」などと考えつつ加速状態に入る。
制御の制限が無くなった機械の体は目標達成まで前提条件を守りつつ最適なルートで持てるパワーをフルに発揮し、任務遂行する。
任務遂行後は生身の脳に制御を引き渡し、加速状態にあった間の出来事を脳がアイドル状態の時に書き込むというものだ。
条件設定をしないで加速すれば一瞬で停滞フィールドの発生源を破壊できただろうが、残るのは数千トンの鉄屑とかつて人間だった血泥の塊だ。
記憶の書き戻しは、古い思い出がなにかの切っ掛けで鮮明に蘇るような、泥酔して失った記憶がなにかのキーワードでフラッシュバックするようなそんな感覚だ。
と、その時猛烈な衝撃が船を揺らした。
「白神! 氷が蒸発する!!」
頭の中に響いたリー少尉の声に積層されたデータを電子頭脳に食わせた。
『時間停滞フィールドによって五千分の一になっていた原子の振動が魔法効果の外縁部で急激に通常時間での振動に戻った事が原因で大量の熱が発生しています。フィールドの中心部ではゆっくりと時間の進行が戻るので内部にいる限り被害を受ける可能性は限りなく低いと推測されます。警戒態勢は継続してください』
俺はリー少尉に破壊したオーブ周辺での魔力変動状況データを送信して、ひとまず落ち着くように伝える。
これは逆に儲けものかもしれない。
「畝傍組、任務完了。畝傍周辺の氷塊は停滞時空開放の作用により全て融解の見込み。スター・デストロイヤー捕獲班は進捗状況報告せよ!」
あとは八巻が上手くやってくれるだろう。




