第九話 傭兵団から来た男
色々と説明を受けて、クエストが掲示されている大画面タッチパネルの所まで行きます。イタチかカワウソっぽいオジサンはまだ隣のタッチパネルの所にいて、自分のスマホにひょいひょいと求人募集を取り込んでいるようです。家に帰ってゆっくり見るのでしょうか?面白そうなので、私もスマホを出して、液晶画面に表示された求人票に指先でタッチしてひょいっと自分の方に引っ張ってみました。あ、なんか通知領域に猫の手のアイコンが出ました。面白いので内容も見ずにひょいひょいひょいひょいとやってしまいます。隣りにいるオジサンも単に楽しんでるだけかもしれません。あっという間に通知領域は猫の手で埋まります。
「なあ、嬢ちゃん。ホスト募集の求人ばっかり落としてどうすんだ? そっちの垢抜けねえボウズ二人を働かせて左団扇って計画か?」
垢抜けねえボウズどもはなんかポカンと呆けています。垢抜けない上にボンクラですね。
「そっちの掲示板は男向けの夜のお仕事中心だ。んで、こっちはちょっとした荒事」
自分の前のパネルをつつきながら言います。
「嬢ちゃんたちみたいなのは、ネット通販の倉庫とか、スライムの調査とか、『薬草』の探索とかがいいんじゃないのかな」
よくあるラノベやRPGだと、『スライム退治』とか『薬草の採取』とかのような気がします。何か違うのでしょうか?
「ああ、転生してすぐの連中は違和感あるだろな。今やスライムは絶滅危惧種。薬草は、まあ、なんだ気持ち良くなる草の隠語で、大抵民警からの依頼だな。スライムは自然保護省なんでちょびっと日当がいい」
ヒゲをピクピクさせながら得意げです。男性的魅力は全然無いけど、ちょっと可愛いかも。
「あの~、ゴブリン退治とかオーガ討伐とか無いんですか?」
ボンクラ二号の白神が言います。こいつ、中途半端にイケメンぶってるくせに、どうやらラノベヲタかRPG好きです。
「まーた、そんな事言ってえ! ゴブリンも天然記念物だし、オーガ討伐なんて、あの受付のお姉さんに聞かれたら何されるか……」
あ、あのお姉さんオーガでしたか。虎縞ビキニを着せて記念撮影はハードルが高そうですね。似合いそうなのに、残念。
「そもそも、理由も無く誰かを傷付けるなんて、しちゃいけねーの。例外はあるけどね」
例外は気になりますが、文明国としては当たり前の事でしょうね。
「ま、信用スコア落とさないように気を付けてな。あ、俺はこういうもんなんで、何かあったら宜しく」
腰をかがめて名刺を渡してくれます。どうやらポルさんというらしいです。まるで恐怖の独裁者のような名前です。
『民間警備会社~やわらかい水掻き 代表取締役社長』、『水棲昆虫料理評論家』、『河童会副代表』、『純血獣人の会 書記長』なんて肩書が並んでいます。幸い、『メガネっ娘撲滅委員会』とかルージュがどうだかとは書かれていないようなので、ちょっと安心しました。
「うちの会社は水まわり専門なんで、陸棲の方々には合わないんだけど、横の繋がりもあるからさ、困ったら連絡してよ」
オジサンはなんか水道屋さんみたいな事を言って、トコトコと短い足で歩いてギルドを出て行ってしまいました。太いしっぽをペタペタと地面に打ち付けながら去っていく様子が、微妙なおかしさと哀愁を漂わせています。
ポルさん、カワウソ人とかなのでしょうけれど、ただの巨大なカワウソが二足歩行しているようにしか見えませんでした。魔王城の猫娘さんがただのネコミミ着けたコスプレーヤーにしか見えなかったのとは対照的ですね。猫娘さんにはこっそり耳の匂い嗅がせて貰ったんだけど、ちゃんと臭かったです。
「民間警備会社って傭兵団とか探偵社とかそういうんだよな?」
ボンクラ一号、よくできました。日本だとセ○ムとか興信所止まりだけど、大抵の国で警備会社=傭兵です。治安自体は良さそうだけれど、治安警察のサジさんが陸軍の予備役将校だったり、そもそも治安警察自体が猛烈な重武装な時点で、ここグールズバーグでも民間の警備会社というのは傭兵団ですね。探偵だとしてもシャーロック・ホームズみたいなのではなくて、ピンカートン探偵社でしょう。
「傭兵になる技量も無いし、素直にゴブリン調査の仕事でも探しましょ。この世界じゃニッポニア・ニッポンみたいなもんらしいしね」
ボンクラ一号と二号、とってもウンザリした顔をしています。私だって、日本で身近にいるタガメやゲンゴロウの数を数える仕事とか、地味過ぎて暇過ぎて無視マニアじゃない限り嫌になるでしょうから。あ、『コボルトへの狂犬病予防接種啓蒙活動』ってちょっと面白そうじゃないですか? ボンクラどもが猛烈な勢いで首を横に振りました。自然大好きで反ワクチン派が多いコボルトさんたちに、ちゃんと予防接種の効能を教育するだけの簡単なお仕事ですよ?
じゃあ、こっちの『山賊(勇者)退治』っていうのは……、却下です。やめときましょう。異常な報酬額ですが、出てくるキーワードが危なすぎます。
――『討伐対象(正):転生し、かつては勇者として君臨する運命だった者』、『討伐対象(副):選ばれし血脈のこの世界の最後の希望だった成れの果て』、『場所:蠱毒の村』、『注:信用スコアが0を上回っている勇者を殺害した際には、相応のペナルティがあります。(あなたには黙秘権があり、供述は、法廷であなたに不利な証拠として用いられる事がある。あなたは弁護士の立会いを求める権利があるが、もし自分で弁護士に依頼する経済力がなければ、公選弁護人を付けてもらう権利がある)』――
絶対にこんなの受ける人いないでしょ?事実、依頼の掲示から五年も経ってます。めんどくさいことこの上なしです。そう言えばサジさん、私たちを捕縛した時にこんな事は一切言ってなかったですが、準軍事組織の治安警察なのできっと何か違うのでしょう。イケオジ&イケボだから許す! キャッ!!
「じゃあ、北の果てで針葉樹の数を数える仕事でも申し込んどくから、ちょっと付き合ってね」
ボンクラどもも、あまりにイヤンな仕事の依頼を見た後なので素直に頷いてくれます。教養が無いヤツはここでバカウケしないので反応に困ります。まったく。
そして私は、こっそり見付けたちょっとだけ面白そうな依頼を受けることにしたのでした。
年度末に炎上案件が重なって、ここ数日終電帰宅続きで忍耐も話のストックも尽きそうです。
家に帰ってバイクが無いのに気付いてびっくりしたけど、実は会社に置いたまま電車で帰って来ちゃったとか、そういう体たらくです。
2020/04/02 ちょっと本文更新しました。
相変わらず仕事は炎上中なので、ついさっき帰宅で、夕方にはまた出なければいけませんが、余裕があれば十話目をアップします。
昨日から今日の朝に掛けては、客先行っていたので会社に置いてるバイクはまだ回収できていません。




