第2幕「気が付くと僕は地雷原を両足で踏み込んでいた」③
魔力についてです。
「で、この烏たちはどうするんだ?」
俺は逆さまに浮かされた少女の方を指さす
「そうですね…襲われたのは旦那様の方なので、処分は旦那様の指示にお任せします。」
「しょ、処分!?」
俺に、この泣いている少女を殺すよう命令しろってのか
なんていうか…残酷だな…
それに、よく見たら結構可愛いし
まあ、俺にそっちの趣味はないがな
でも、ワンワン泣いてる女の子を殺すのは良心がいたたまれる…
「なあ、お前…俺を殺そうとしてたのか?」
俺は少女の方へ向き直って、尋ねた
「まさか!とんでもないわよ!私はただ貴方の魔力をすこーしつまみ食いしようかなって思っただけなんだから!」
「…魔力?つまみ食い?…どういう意味だ?エアリー。」
エアリーに尋ねると、コホンと一息ついてから話し始めた
「生きとし生けるもの、全てに魔力というものは存在します。勿論、魔法の存在や魔法を使う方法を知らなければ、使うことも知ることもありませんが。特に魔力量が多く、魔法を使うことに長けているのが私達、魔法使いなのです。」
「…まあ、そこらへんは一般人がよく持ってそうなイメージと同じだな。」
「その通りです。魔力とは活動エネルギーとは別に存在する力。魔法を使用するためだけに存在するエネルギーでございます。また、魔力には人格と同様に『個性』というものがあり、人によって属性や形、質や魔法適性など様々なものがあります。その中でも、旦那様の魔力は非常に綺麗で質が良い。この私でさえ惚れ惚れしてしまいそうな程です。」
「そんなに凄いのか…。」
ん…?まてよ…?
俺の頭の中に一つの興味が沸いた
「なあ、さっき『適正』って言ってたよな?お前らはどんな感じなんだ?」
「私は基本的に風属性に長けております。特に風による造形術が得意で、先ほどの魔法も風に適性があり、風を器用に操ることができるからこそ出来た代物でございます。」
「私も風に長けているわ!得意とするのは召喚術!クリーは私専用の召喚獣なの!」
エアリーに続き、少女も自分の魔法適正を話し始める
「なるほどなー。そういえば君、名前なんていうんだっけ?俺はチャールズ。」
「私はメルル!メルル・クロウよ!周りからは『影の魔女』と呼ばれているわ!」
逆さまのまま、腰に手を当て偉そうに胸を張る
「あらあら、自称『影の魔女』、じゃないではありませんか。」
「うっ、うるさいわね!私が本気を出していれば、貴方なんか一捻りだったんだからああああ!?」
メルルが話している最中に、エアリーが指をクイっと曲げ、メルルをその場でぐるぐると回転させる
「たーすーけーてー!!」
「エ、エアリー、その辺で…。」
エアリーは指をパチンと鳴らし、メルルを地に降ろした
「ひいい…た、助かったわ…。そこの貴方!」
メルルがふらふらになりながら、俺を指さす
「お、俺?」
「…助けてくれて、ありがとう。感謝するわ。」
メルルが恥ずかしそうに顔を俯かせて、ボソッと伝えてきた
「…ははっ、どういたしまして、でいいのかな?」
「ええ、大変素晴らしいと思います。」
ふとエアリーの方を見ると、にこやかな表情でこちらを見つめていた
そのせいか目と目が合ってしまい、少し恥ずかしくなった
「そういえば、メルルは何で魔力をつまみ食いしようとしたんだ?」
「そ、それは…。」
メルルはバツが悪そうに顔を背ける
俺はつい気になって、こう言ってしまった
「…何か困っているのか?」
言ってから、言わなきゃよかったって後悔した
突然俺を狙ってくるような奴だ
きっととんでもないことを言ってくるに違いない
「その…実は、『影の魔女』を名乗って威張り散らかしてたら…。」
「自称ってのは認めるのか。」
「う、うるさいわね。そしたら、とある魔法使い達から決闘を挑まれたのよ。それでクリーをもっと強化してあげようと思って。で、強化するために質の良い魔力を探してたら、貴方を見つけたってわけ。」
「な、なるほど…。なあ、エアリー。魔力を分け与えたらどうなるんだ?」
「与える量にもよりますが、旦那様の魔力であれば一時的にふらっとなるくらいで十分かと。それに、寝るなどの休息をとれば回復もしますし。」
「ふーむ…よしわかった。そんなもんでいいなら、分けてやるよ。」
「本当!?やったー!ありがとう、チャールズ!」
メルルは年相応って感じにピョンピョンと跳ねて、喜びを見せた
「…で、どうやって分けるんだ?」
「そうですね…肌と肌を触れ合わせるのが一番最適かと。今回なら、握手でも十分でしょう。」
「わかった、ほれ。」
俺はメルルに向かって手を差し出した
メルルは嬉しそうに俺の手を握ってきた
すると、何かが吸い取られ行く感覚とともに、ちょっとした立ち眩みが起こった
「おっとっと…。」
倒れそうになったところを、メルルに支えてもらう
「チャールズ、大丈夫?…ありがとう、凄い魔力だわ。質といい量といい…貴方何者なの?」
「そんなに凄いのか?俺にはよくわかんないよ。」
俺の方が知りたいくらいだ
「まあ、とにかくこれでクリーをより強くできそうだわ。」
そう言うと、メルルは烏の人形に向かって唱え始めた
あとがきのひとこと…メルル・クロウは『影の魔女』を名乗るだけあって、大烏の召喚以外にも多少の影を操る魔法が使える。