第2幕「気が付くと僕は地雷原を両足で踏み込んでいた」②
盗人でございます。
「この程度でくたばるなんて…情けないですね、旦那様。」
気が付くと俺は、四つん這いのポーズで宙に浮いていた
身体全体を押し上げてくるかのような、弱い風を感じる
浮いたまま顔を上げると、そこにはエアリーともう一人少女が立っていた
「お怪我はありませんか?旦那様。」
「あ、ああ…それよりこの女の子は?」
ゆっくりと地上に降ろされた俺はエアリーに尋ねる
エアリーは少女の方を指さし、こう言い放った
「…盗人、でございます。」
「うふふ、なーんか美味しそうな魔力の匂いがすると思ったら…よもや、あの『風の魔女』にマーキングされていたなんて!これは余程のお宝と見たわ!」
小学生ほどに見える少女は、目を輝かせながら、たなびく黒の長髪をかき上げた
そして、左腕に抱えていた可愛くデフォルメされた烏の人形を宙へ放り投げ、こう言った
「我、メルル・クロウの名において、顕現せよ、『大空の使者・大烏』!」
突如、放り投げられた人形が赤色に光り始め、次の瞬間、目の前に通常の烏より、とても大きな烏が現れた
「あの男を連れ去るわよ、クリー!」
「キエエエェェェ!!!」
大烏がけたたましく叫ぶと、辺りにあったガラスが一斉に割れた
鼓膜が破れそうな程の音量に、思わず両手で耳を塞ぎ、目を閉じる
俺が怯んだのを見計らうかのように、大烏が俺の胴元を足で掴み、ガラスの割れた窓を通って空中へと連れ去った
本日二度目となる、突然の浮遊感に思わず吐きそうになる
「ぐおおぉぉ!?た、助けてえええ!?」
遊園地でレクリエーションとしてバンジージャンプをするのとは、わけが違う
高速で空中を移動させられるし、おまけに身体に爪先が食い込んで痛い
後方を見ると、先ほどの少女が箒に跨って、跡をついてきている
それを追いかける形で、エアリーもまた箒に跨っている
「いいわよ、クリー!その調子でエアリーから距離を離すわよ!」
「キエエエェェェ!!!」
先程よりも近くで叫ばれたためか、耳に壮絶な痛みが走る
あれ…?俺これ死ぬんじゃね…?
そう感じ始めたとき、後ろから緑色の光が差し込んできた
ふと後方を見ると、エアリーの後ろに幾つもの緑色に輝く魔法陣のようなものが作り出されていた
「げっ…!?エアリーのやつ、本気で仕掛けてきやがった!?」
少女は後方の魔法陣を見て、驚きを隠せない様子だった
「クリー!全速力で逃げるわよ!」
「キ、キエエエェェェ!!!」
「逃がしませんよ。」
エアリーが指をパチンと鳴らすと、後方にあった魔法陣が一斉に移動し始め、大烏と少女を取り囲んだ
…勿論、俺も含めて
「私の旦那様に手を出して…生きて帰れると思わないことです。」
待て待て、これ俺も何かしら巻き込まれるんじゃないか?
嫌な予感に、連れ去られている恐怖より、巻き添えの恐怖の方が勝ってきた
「猛き逆風、監獄の如し、閉じ込めし者を永遠の時へと誘え。」
「ちょっと待て!俺がまだここにい」
「『サイクロン』!!」
エアリーが言い放つと、魔法陣から一斉に竜巻のようなものが生み出され、俺もろとも大烏と少女を包み込んだ
俺は目の前が真っ暗になった…
どれほどの時間がたったのだろうか…
俺は冷たい道路に横たわっていた
辺りは夕焼けに赤く染め上げられ
少し離れたところで、先ほどの少女と元の人形の姿に戻った烏が泣きながら逆さまに浮かされていた
「ごめんなさい!美味しそうな魔力の匂いがして、お腹もすいていたから、ついやっちゃたんです!許してくださいー!!」
逆さまに浮かされているため、烏のプリントがついたパンツが丸見えになってしまっている
…何とも滑稽な…
まあ、地面に横たわってる俺が言えたことではないが
「あら、旦那様。お目覚めですか。気分は如何ですか?」
エアリーがこちらを向いて手を差し伸べてきた
夕焼けと相まって、エアリーがまるで聖母のようにとても美しく見えた
実際、烏から助けてもらったわけだし…
「…ああ、最悪の目覚めだよ、全く…。」
俺はこの女が好きなのかもしれない
理由はわからないけど、この女のことをもっと知りたい…かもしれない
…かもしれない、ばっかりだな、俺
ついクスリと笑うと、エアリーが不思議そうにこちらの顔を覗き込んできた
「…何かいいことでもございましたか?」
「…いや、なんでも。」
今、俺の考えていることは最低なのかもしれない
なんたって、これは俗にいう『浮気』というやつに他ならない
それでも俺は…
愚か者の俺は運命を感じているのだ
「…ハッ!?まさか、あの少女の烏マークの下着を見て勃起が抑えられなくなっている、ということですか!?まさか旦那様にそんなご趣味があっただなんて…。ご安心ください、不肖エアリー、そういった趣向にも多少の理解はございます故。旦那様のためなら熊さんパンツを履くこともやぶさかではございません。さあ!私を性欲の捌け口にお使いください!!」
…やっぱ、嫌いかもしれん
あとがきのひとこと…ナタリオの得意料理は肉系。