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第1幕「愛というそれを真剣に考えてみたりした」④

お邪魔いたします。

店のドアがチリンチリンと音を立てて開いた


「いらっしゃいま…」


マスターが来客への挨拶をし終えようとしたところで、口が開いたまま停止してしまった


一瞬の間に違和感を覚えた俺は、つい扉の方を見てしまった

そこにいた女性の姿を見て、俺は驚愕した


「こんにちは、旦那様。喜びなさいませ、貴方のお嫁さんがお迎えに上がりましたよ。」


青い艶やかなロングの髪に、頭には大きな黒いリボン

雪のように白い肌は彼女の青い目をくっきりと目立たせている

服は青を基調としたダッフルコートで、下から見える黒いストッキングと革靴がとてもよく似合っている


そう、夢の中に出てきたあの女、エアリーだ

多少格好や雰囲気は違うものの、どことなく感じるオーラや声から彼女だとわかる


「え、エアリー!?な…なんで…ここに…!?」


俺は驚きで頭がいっぱいになりながら、席を立ちエアリーの方を指さす

きっと俺は酷く間抜けな顔をしていただろう、もしここに鏡があったとしたら恥ずかしい


「なんでって…言ったじゃありませんか、興味が沸いた、って。」


人差し指を口元に当て、小悪魔のように悪戯っぽく笑う


「で、でも…あれは夢で…でも目の前に本人がいて…!?」


落ち着きが取り戻せないせいか、震える己の両手を見つめてしまう


「…ねえ、チャールズ?その方はお知り合い…?」


ハッとなってアリエルの方を見ると、彼女もまた状況が読み込めないといったような困惑を顔いっぱいに表していた


「アリエル…実は…」


いや、待て俺

ついさっき夢の中で出会った女が現実で目の前に現れた

なんて馬鹿げた話、誰が信じる…?

アリエルは昔からお化けとかUMAといった超常現象的なものは信じない口だ

それなのに夢から魔女が出てきた、なんて

俺自身ですら信じられない話、信じてもらえるわけない

この場を乗り切るには…

どうする…?どうする俺!?


「実は…何よ?」


「…ストーカー。」


「…へ?」


「…ストーカーなんだよ、俺の。そう!こいつはストーカーなんだ!」


…我ながら酷い嘘だ

けれどこの場面を乗り切るには、こう言うしかなかった…はず…


「あらあら、うふふ…。その通りでございます、私は彼をこよなく愛するストーカー。名はエアリーと申します。以後、お見知り置きを。」


「…ストーカー?チャールズ、貴方ストーカーに付きまとわれていたの?」


「あ、ああ…少し前から変に魅入られちまってなあ…あはは…。」


嘘は言っていない

顔は体裁を保っているが、足は大分ガクブルだ

地震でも起きているんじゃないかってくらい震えている


俺の思考は今二つの問題を天秤にかけて揺れ動いていた

長年付き添ってくれているアリエルとの関係を守るか

突然現れた俺の理解者に希望を見出すか


…答えは出ているな


まあ、エアリーをストーカー呼ばわりした時点で気づいてはいたが

なんやかんや言って、俺はアリエルのことが大事なんだろう

確かに心のどこかでは俺の愚かさを理解されたかったのかもしれない

でも、それに気づいたのはフワフワしたような夢の中の話だったわけで

俺にとって重要なのは、理解されることではなく、安定した人生だ

…そう、安定こそ全てだ


俺は思考を巡らせ、冷めきったコーヒーを飲むことである程度落ち着きを取り戻し、こう言った


「…まあ、とりあえず帰ってくれるか?今はアリエルとゆっくり過ごす時間なんだ。」


「…申し訳ございません。そういうわけにはいかないのです。」


…は?


「…は?」


思わず思考と発言がシンクロしてしまった


「ちょっと!チャールズが困っているじゃない!貴方…エアリーだっけ?迷惑だから早くどっかにいきなさいよ!」


いつになく真剣にアリエルが怒りをあらわにする


「申し訳ございません。ですが、本日彼の元に参ったのは他でもない理由がございます。」


「理由…?何よ。」


アリエルの問いかけに、クスリと笑みを浮かべた彼女はこう言い放った


「彼の家に下着を忘れてきてしまったのです。なので、取りに行かせていただきたいというお話だったのですが…。」


し た ぎ ?

待て待て待て、こいつが俺の家に来たことなんかないだろ

だって、さっき夢の中であったばかりの関係なはず

そもそも俺はこいつのことを、名前と占いができる魔女ってことしか知らないし

そもそもそれが本当なのかどうかもわからないわけで

そもそも人生の中でアリエル以外の女の人を家に上げたことがないっていうか

そもそも…そもそも…


「ちょっと!チャールズ、どういうことなの…!?」


ああ、アリエルの怒りの矛先が俺に向いているのがわかる…

席を立ったアリエルに、顔がぶつかるんじゃないかってくらい距離を詰められる


何なんだ…この状況は…?

そうか…わかったぞ


「これは…夢だ!」


「夢なわけないでしょ!!」


視界が思いっきり右へと傾く

頬に走る鋭い痛み

目の前には、鬼のような形相で右の手のひらを俺の頬へとクリーンヒットさせてきたアリエル

遠くには、今にも吹き出しそうなほど笑いをこらえているエアリーの姿が見える


嗚呼、さらば我が平穏の人生。

もし、俺がネットの相談掲示板に今の状況を書き込むとしたら…


『愚か者の俺(34)が魔女に付きまとわれて世界一の修羅場に陥った件について。』


…こんなとこかな


オープニングテーマ?ねぇよ、ンなもん

あとがきのひとこと…第1幕の終わり。全ての始まり。

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