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第1幕「愛というそれを真剣に考えてみたりした」②

邂逅、出会いでございます。

「…ここは…どこだ…?」


気がつくと、そこはつい先程までいた心地の良いカフェではなく、どこか不思議な雰囲気を思わせる部屋へと変わっていた


自分が座っていたはずの木製の椅子も、何処かへと消え去り、俺は地べたに伏していた


高級感のある青いソファーや、王宮にでもありそうな刺繍が施された青いカーペット、壁には青い炎が点いた燭台が飾られていた


俺がこの部屋の異様なまでの青さに気付くのに、数秒もかからなかった


唯一、青色を持たない黒塗り皮の立派なビジネスチェアーにも、青いローブを着て、フードを深く被った女性らしき人が座っているため、結果全てが青く見える


俺は困惑と焦りからか、ついその女性に話しかけてしまった


「あの…此処は一体…?というか、貴方は…」


「黙らっしゃい、Mr.ポンコツ。」


チャールズが尋ねる間もなく、ローブの女は軽く罵倒した


「なっ…!?Mr.ポンコツ!?」


突然の罵倒に、憤慨なんて感情が入る隙間は無いという位驚きと困惑でいっぱいになった


「私は魔女。この部屋で占いを担当する者でございます。」


「は…?魔女?な、何を言ってるんだ?キミは。」


確かに、一見魔女に見えなくもない格好をしてはいるが、やはり状況が読み込めない


「言った通りのままです。鈍感ニブチン系主人公は現在募集しておりませんので、悪しからず。」


透き通るような声と、丁寧なのか罵倒しているのかよく分からない口調から、俺はこいつを頭のおかしい人として認識することにした

そうでもしなければ、こっちまで頭がおかしくなってしまいそうだからだ


「えーと…で、俺は何で、その、占い部屋?にいるわけ?」


とりあえず立って話をしようと、俺はゆっくりと立ち上がりながら、ローブの女にそう問いかけた


「この部屋は運命に導かれ辿り着くもの。つまり、この部屋に来たことは無意味では無いということでございます。」


「…どういう意味だ?」


「今現在この部屋にいるのは、占い師である私と、冴えない料理スタッフの貴方、二人だけ。ならば、私が貴方を占い、貴方が私に美味しい料理を振る舞うことに意味があるかと。」


「そう…なのか?」


「ですが残念。この部屋は占い道具はあっても、フライパンやお鍋、食材は持ち合わせておりません。なので貴方の料理を食べるのは別の機会にすると致しましょう。」


実に自由奔放だ、この女…

分かった、これは夢だ

あまりの仕事の疲れに、アリエルの前で寝てしまったんだ

まったく…俺としたことが…

俺はため息を一つついて、この女の占いとやらに付き合うことにした

そうすれば夢からも覚めるだろう


「んで、占ってくれんの?えーと…」


「私のことは魔女エアリーとお呼びください。」


「エアリーね、了解。んじゃ、占って頂戴。」


「かしこまりました。では、こちらへどうぞ。」


そう言うと、エアリーは青いソファーの方へと俺を誘導した

ソファーに腰掛けると、目の前に設置されたテーブルの端の方に、カードが積まれていることに気づいた


「そのカードは?」


「よくぞ聞いてくださいました、てやんでい。これこそが占いに使用する道具『タロットカード』でございます。」


エアリーが指をパチンと鳴らすと、カードが空中に浮き、自動で点を切っていく

その光景に俺は前のめりになり、少し見入ってしまった


「今回は簡単に、1枚で占っていきましょう。」


そう言うと、カードの束から三枚のカードが伏せた状態で、ふわふわと目の前のテーブルに横並びに降りて行った


「1枚のカードで、何が占えるんだ?」


「いい質問ですね、ゴブリン顔。このカードは貴方の悩んでいることに対する解決策をを占うことができます。」


もう割と慣れてきたから、馬頭はスルーすることにした


「ふーん、あんまりそういうのは信じない方だけど、カードが空中に浮く場面を見せられたら、若干信じてしまいそうだな。」


「信じるか信じないかは貴方次第…。ご安心ください、私の占いはよく当たると言われています。」


「んで、占い結果はどんな感じよ?」


「それは貴方様次第…カードをめくるのは貴方、私はその結果をお伝えするだけです。」


「えーっと、とりあえずめくればいいんだな?」


待てよ…?

カードに触れるまであとわずか、といったところで俺はふと疑問に思った

俺の悩んでいること、ってエアリーは言ったよな?

でも…俺の悩みって、一体何だ?


「…悩みがわからない、そんな顔をされてらっしゃいますね。」


一瞬、心臓が止まったかのような感覚に陥った


「…わかるんですか?」


「ええ、貴方のようなお方は非常にわかりやすい。故に珍しい。」


「…珍しい?」


「人は誰しも心の仮面『ペルソナ』を幾つか所持しています。親に対して子供である自分の姿や、後輩に対して良き先輩である姿など…。ですが貴方は…」


「俺は?」


つい食い気味に聞いてしまった

エアリーは言葉を紡ぐのを止め、机に伏せられたカードを指さした

俺は期待に胸を膨らませながら、そのカードを捲った


そこに描かれていた絵柄を見たエアリーの口元がニヤリと傾くのが見えた


「…愚者ワイルドの正位置ですね。」


愚者、愚か者という言葉に俺はこう思ってしまった


嗚呼、遂に俺の理解者が現れてくれた、と

あとがきのひとこと…アリエルは料理が得意ではない。

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