第1幕「愛というそれを真剣に考えてみたりした」①
第1幕、開演でございます。
都内にある少しこじゃれたカフェ_
店内には心地よいクラシック音楽が流れ、店のマスターと客が最近の情勢について語り合ったり、
大学生がパソコンと必死ににらめっこしていたり、三十代の男女が真剣に結婚について考えようとしていたり…
「…ねえ、チャールズ?」
突然、アリエルから声をかけられた俺は驚いて、飲んでいたコーヒーを器官に詰まらせてしまった
「ぐえっ!?ゴホッゴホッ!!」
「チャールズ、大丈夫?」
アリエルはむせている俺を見て、空いたコップに水を注いでくれた
俺はその水をグイっと飲みほして、大きくため息をついた
「はぁーっ…ありがとう、アリエル。で、何?」
先程呼んだ理由を問うと、アリエルは少し顔を俯かせてこう言った
「…あのさ、昔『結婚なんて面倒くさいからしない!』って言ったこと…あったじゃない?」
「え、ああ…成人式の時だっけ?懐かしいなぁ。」
そうだ、あの時は確か酔った勢いで、二人で結婚なんてするもんか!って啖呵きって…
気づいたら、そのまま二人で朝を迎えてたっけか…
あの時が、俺もアリエルも初めてだったんだよなぁ…
「…ちょっと、何回想に浸ってるのよ。…こっちは真剣なんだから。」
「え?ああ、ごめん。それで?」
「だからね…あの時はああ言ったけどさ…ほら!親とかから急かされるじゃない?私たちも三十路になったわけだしさ…。」
「あー、まあ…言われるっちゃ…言われるけど…。」
「でしょ?それに、私だって…その…子供に興味がないわけじゃあ…ないし?」
おいおい、可愛いかよ
昔から、アリエルは残念美人として有名だった
気の強い性格と、ズバっと言っちゃうとこ
でも、時たま見せる可愛いところとか、甘えてくるところが最高なんだわ、これが
今だって、昔言ってたことと間反対の主張をするのが、恥ずかしいんだろうなぁ
珍しく強気じゃないアリエルは最高に可愛い
こういう時は、話を合わせてあげると喜ぶわけだ
だから、俺はこう返した
「…いいよな、赤ちゃん。指を握り返してくるの…モロー反射だったっけ?」
「把握反射ね。モロー反射は音の方。」
「そうそうそれそれ!実は結構憧れだったりして。」
そう言うと、彼女の表情はたちまち明るいものへと変化した
…計画通り、ってね
俺は今の関係に十分満足している
こんな冴えない男と一緒にいるのに、楽しそうに話してくれるアリエル
たまーに険悪になる時もあるけど、カップルにとってそういうのは付き物、ってやつだろ?
だから、俺は基本的にアリエルの意見に合わせることで、お互いにとって楽しい雰囲気を作り出すってわけさ
これぞ良きカップルの秘訣!…なんてね
だから俺は…
「でもさ…アリエル。」
「何?」
「子供が出来るってことは、それなりの責任を負うことになるわけじゃない?…俺たち、その…多分だけど、まだ赤ちゃんが出来る、ということに対して何の理解も得られてないと思うんだ。」
軌道修正をすることにした
こう見えても普段彼女は子供に対して否定的なんだ
『衝動的な行為は身を滅ぼす』
アリエルがよく言う言葉だ
今回もたぶん動画サイトかSNSで、可愛い赤ちゃんの動画でも見たんだろう
どうせ、次の日には「やっぱり昨日の無し!」とか言うに違いない
そこで、俺の役目ってわけだ
基本的には彼女の意見に乗るけれど、時折間違えそうな時には軌道修正をする
そんな役目を担って早…早…何年目だっけ?
まあいいか、そんなこと
「何だっけ…家庭内暴力?とまでは行かないけど、何処と無く気分が憂鬱になる、みたいな?勿論、楽しいこともあるだろうさ。けど、楽しいことも辛いことも全て背負う覚悟って…やっぱりいるんじゃないかなって…俺は思う。」
「…確かにそうね、私ももう少し考えてみるわ。」
はい、軌道修正完了っ…と
「いや、俺もアリエルに言われる前からもっと考えておけばよかったよ、ホントにごめん。」
「いいのよ、チャールズが真剣に考えてくれてるってのこともわかったし、ね?ありがとう、チャールズ。」
会話が一段落したところで、俺はコーヒーを楽しむ時間を得た
店内のクラシック音楽はいつの間にか別の曲へと変わっていた
大学生は相変わらずパソコンに向かって項垂れているし、マスターは何処か楽しそうに90年代のロックバンドの曲をワンフレーズ口ずさんでいた
心地よい店内の雰囲気に、思わずウトウトし始めてしまった俺は、ヤバいと思って頬を叩き目を覚まそうとする
次の瞬間
「…ここは…どこだ…?」
あとがきのひとこと…チャールズの得意料理は魚系