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⑤ わたくしの一存だけで動かせるものではないのです

 入院生活。もとい保護観察生活1ヶ月目。


 この日も博士は定時キッカリに問診をはじめ、淡々とこなして帰っていった。

 問診は出勤後と退勤前の2回。

 俺と博士がはなすのは退勤前に限られていた。


 博士がかえると実に退屈だった。

 奇跡的に背骨に別状はないけれど、それ以外で――ヒビ程度の骨折もふくめれば――骨折していない箇所のない俺にできることといえば、1つしかない。


 天井を見上げるとガラリ戸が薄まっていく。

 20秒、か。

 

 俺は首だけをうごかし、壁一面のガラスの奥を見破ろうと懸命ににらみつけた。

 この鏡はマジックミラーである。

 奥には博士いわく、4人1組のアマゾネスが3部隊、8時間おきに当番制で監視しているらしい。



 今も俺の挙動を監視してるんだろ?

 勝手にやってろ。

 俺はお前らを出し抜いてやる。

 


 リハビリ解禁までのこり2か月、ボウっとしている暇はない。

 肉体が本調子に戻った時、いつでも脱走できるよう鍛錬をかさねなくてはならない。

 そこで、いざという時のためにスキル鍛錬をかさねている。


 ドア作り。

 なんとも地味な能力だ。

 もともと非戦闘的なほのぼのとした暮らしを所望したがゆえのスキル。

 ただモノは使いよう。

 うまく活用してみせる。

 

 手始めにバレなさそうな天井に折り紙サイズのトビラをつくってみた。

 色は天井と同じクリーム色でカモフラージュさせる。

 使用回数。出現と消失で生じるラグをカウントしてみる。


 初日は10回が限度。

 1分もかかった。

 同時並行でいくつ作れるかも試してみたが、1個が限度。

 博士とろくに口がきけないくらいクタクタに疲れ果てた。


 翌日、翌々日にはサイズを変えて回数の増減をチェック。

 次の日にはドアのデザインに工夫をこらしてみる。


 くりかえしてくりかえして1か月。

 20秒まで縮めることができた。

 自分サイズなら15回、デザインもシンプルなものからロココ調のゴテゴテした意匠まで再現可能だ。


 俺は目をとじる。

 まぶたの裏にうす明るい闇がおりる。

 そうして目をあける。

 まばゆい照明。

 目が慣れると人影がうつる。

 博士が俺の起きるまで問診を引き延ばして読書している。



 ☆


 

「なあ博士」


「お加減に問題が?」


「昨日の件だけど」


 ああ、と博士は包帯をかえるためにうつむいた。


「答えは同じです。わたくしの一存だけで動かせるものではないのです、はい」


「けど承諾書を提出するのは博士だろ」


「あくまでキッカケにすぎません。『本体』がどう判断するかまで保証はできかねるのです」


 博士は24である。

 しかし体はどこからどうみても13にしかみえない。

 胸部がうすいのもあるが、肌の具合や肉づきの不完全さが間違えさせる。


「あなたが急くのも理解できます。はやくここから抜け出したいと思うのも無理はありません」


 今日もまた俺は素っ裸にひっぺがされて、なま温かい布巾で体を丹念にぬぐわれ、衣服とともに包帯をまかれていく。

 せっせこせっせこ右に行ったり左に行ったり、上半身の包帯を巻くのに苦労している。


「しかしわたくしにはどうすることもできないのです。いいえ、できないポジションに進んで籍をおいているのです、はい」


 細心の注意を払いながらひざをベッドにのせる。

 胸が近づくとこっちが気恥ずかしくなって顔をそらす。

 その際、あまいバニラの香りがほんのりと香るのだ。


「ただ」


 と言ったきり押し黙った。

 俺は不思議に思った。

 どうしたのだろうと博士を見上げてみる。

 博士はベッドの上で膝立ちのままじっと俺を見下ろす。

 その瞳には奇妙な光がやどっていた。


(もし本当に即時性の治療を望むのならば)


 心の中でその声はひびいた。


(極秘裏に開発した新薬の被験者になる覚悟がありますか?)


 声の残響が消えるやいなや、そそくさと博士は出ていこうとする。


 俺に迷いはなかった。

 

「博士!」


 俺は叫んだ。

 戸口に手をかけたまま、背をむけた博士が立ち止まる。


「どうかよろしくお願いします」


 博士はなにも言わず、ドアは静かにしまった。

 ただ遠ざかっていく足音だけが、さわがしく病室にこだました。


 


 

 






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