④ 祭壇
彼はどうしてもエメラルドの塊をもちかえりたく、抱きかかえてみたがビクともしなかった。
何度も何度もくりかえしても結果は同じだった。
どころか重みが増している気がする。
ファティマは戻ってくるよううながした。
銀髪の男が差し迫っている。
ついに国民の最後の1人が剣に斬られて道のわきに伏した。
生き残りは自分たちしかいない。
ルッツォは思い悩んだすえに舌打ちした。
駆け足で階段を降りようとした。
次の瞬間、地面が目の前にある。
石の床に両手をついている。
困惑のあとで自分が倒れこんだことに気づく。
急いで立ち上がろうとした。
ガクリと膝から崩れた。
体を上手に使いこなせない。
「早く上がってきなよ!!」
ファティマは急かす。
ルッツォもまた急いている。
生まれてから今までの25年間、当然のように肉体を使役してきた。
ところがそれが途絶えてしまった。
どうやって関節を動かしていたか。
どのように地面をふみしめ、まっすぐ立っていたのか。
すっかりわからない。
「早く!! ルッツォ!!」
手の甲から緑色のコードがうねりながら抜けていく。
それは背後にある祭壇に、いや、エメラルドの中に吸い込まれている。
さながら低酸素状態のように視界がかすみ、意識がもうろうとして、現実が遠のいていく。
ファティマの叫びむなしく、ルッツォは気絶してしまった。