① 我が国に不法入国した不届き者の男に対し、どういった罰を与えましょうか
「やるしかねえ」
「とはいってもよぉ、ルッツォ」
ドン!
ルッツォはあぐらをかくファティマの腕を小突いた。
「いいか。タイムリミットは明後日。それまでにエメラルドを盗めなけりゃ、俺らのシマはそっくりキプリング一族に盗られちまう」
「無理だよルッツォ」
「馬鹿野郎」
バン!
「尻込みすんじゃねえ」
「しかしよー」
4mもあるファティマは外をゆびさした。
「どうやってこの状況をやり過ごすのさ」
砂埃がまう中。
男たちは鉄格子に軟禁されていた。
ここは闘技場。
観客席をアマゾネスがうめつくし、煽り立てている。
「さてみなさん」
アナウンサーがしゃべりだす。
「我が国に不法入国した不届き者の男に対し、どういった罰を与えましょうか」
観客は死刑を叫んだ。
「なるほど、ではこうしましょう」
その声にあわせて男たちの遠いむかい側の壁に、深緑の炎がともった。
炎のかげで獣が目を光らせている。
「あちらに控えるは3頭のアマゾニアタイガー。皆さんご存知、気性の荒い獣です。これから3頭を順次放ち、無事、生還したあかつきにはしばらくの生活に必要なだけの金と食事と衣服を彼らにさしあげようと思います。いかがでしょうか」
賛同の声。
「では」
パン!!!
破裂音がとどろき、歓声がわきおこる。
空腹の虎が疾走する。
見すえるは男たち。
「ルッツォ!」
鉄格子はドロドロと溶けてしまい、真っ平らな地面には登れる場所も隠れる場所もない。
丸腰。
おまけに――
「魔法が使えねえ」
出鼻をくじかれた男たちにアマゾニアタイガーがせまる。
振り上げた鋭利な爪。
まい上がる砂ぼこり。
観客たちの歓声と興奮が最高潮に達する。
ところが転がり出たルッツォは外傷もなく、麻の上下をベージュ色によごしただけだった。
かんぱつ入れずファティマが獣が放り投げる。
壁に叩きつけられた衝撃からすぐには起き上がれそうもない。
2人は合図もなく同時に駆け出した。
トドメをさしちまおうという算段だ。
方法はなんだっていい。
あとは牙を抜き取って武器にできれば文句ない。
怒り狂う場内と合図をおくるアナウンサー。
すぐさま2頭目、3頭目が解き放たれる。
1頭目もヨロヨロと起き上がった。
ルッツォはすぐさま立ち止まった。
あやうく蹴り飛ばしそうになるファティマ。
「ああ、糞ったれ。1頭しとめそこなった。おまけにお仲間のお出ましときた」
いくら巨体のファティマといえど、1頭を無傷でいなしたのだって奇跡なのだ。
まして2頭もくわわれば窮地も窮地。
武器も魔法もないなら生まれつきのスペックと知恵の力がたよりだ。
さて、どうしたものか。
3頭が円状に囲みながら、ジリジリと距離をつめてくる。
ルッツォは服をよじのぼり、巨大におぶさる。
ファティマはこぶしをにぎる。
諦めかけたその時。
1頭が吹き飛んだ。
砂埃がひいた後には亡骸が横たわっていた。
ルッツォもファティマも、アナウンサーや観客すらキョトンと放心した数秒間。
アマゾニアタイガーの元いた空間に、光の線が縦に2本、横に2本、きざまれていく。
長方形。
中から黄金のかがやきが濁流のごとくあふれ出した。