本性
「白木悠 26歳。ピアノ演奏者でしたが手のケガでプロになるのを諦めました。えりなちゃんの事は妹のように思ってお世話をさせていただきます。」
深々と頭を下げて自己紹介をすると握手を求めてきた。
大きくて長い指…って騙されるもんですか!握手を拒むと部屋に駆け足で戻った。
「ふっざけんな!誰よ!あたしがどうなってもいいわけ?あんな男の餌食になったらママもパパもどーするのよ!何考えてんの!1人でも十分生活出来るんだから!」
手元にあったクッションを思いっきりドアに投げつけた。妹のようにー?はあー?いらないよ!なんなのあの男!怪しすぎるでしょ!怒りは収まらない。
今度は枕を思いっきり投げつけたその時
「ぶっ」
あの男が顔面で受け止めていた。
「ちょっと!勝手に入って来ないでよ!あたしは許可しないからね!さっさと帰っ…」
どんどんと足を鳴らして近付いたあたしの手首を男は掴んだ。ニコッと笑うと枕を拾い上げて渡すと
「大丈夫。クソガキには微塵も興味ないから。」
………え?いま、なんて言った?クソガキ?あたしが?こんな可愛い高校生捕まえてクソガキ?
「なに…あの男…」
階段を足早に降りてママの所へ行くと優雅に3人でコーヒーを飲みながらデザートを食べていた。
「ママ!聞いて!この男!さっきあたしのことクソガキって言ったのよ?こんな男信用出来ない!さっさと追い出して!」
飲みかけたコーヒーをゆっくりとテーブルに置くとママは大きな溜め息をついた。
「えりな?失礼なこと言わないの。悠君がクソガキなんて汚い言葉使うわけないでしょ?謝りなさい。」
……なんであたしが謝らなきゃいけないのよ。
「美咲さん、大丈夫ですよ。僕は気にしません。それにえりなさんもいきなりこんな正体の分からない男が家に来るとなれば不安になるものですよ。ね?えりなさん」
柔らかく微笑みながらこっちを見ている。しかもママの事…名前で呼ぶなんて…気持ち悪い。
「えりな?そうだぞ?悠君はうちの公演でのスタッフをしてくれていた人でとても気もきく優しい子なんだ。演者から文句1つどころか褒められてるのしか聞いたことないぞ?」
パパまでこいつのことを褒めちぎっている。騙されてるのも知らないで…。