知らない男
「悠君だわ!」
足早に玄関に向かうママをわけもわからず見ていた。ドアの開く音が聞こえると嬉しそうに笑うママの声の他に男の人の声が聞こえてくる。
「パパ?誰か来たけど」
コーヒーを手渡しながら、うんと頷くと玄関先に向かった。あたしも気になって向かうとそこには背の高い若い男が立っていた。見たことも無い男の人。顔は…まぁまぁね。少し茶色いやわらかそうな髪が風で揺れている。
「あ!えりな!紹介するわね!悠君!」
ママの機嫌が最高にいいのがわかる。確かにママのタイプだわ。悠君とやらは優しく笑うと軽く頭を下げた。あたしもつられて頭を下げるとパパが、ぽんぽんも頭を撫でる。
「……それでその人は次の公演に連れていく人?」
やだぁ!そんなのじゃないわよ!とママは大きな声で笑った。パパも連れて行けるなら行って欲しいくらいだよと付け足した。
……じゃあ、だれ?
「この人はえりなの家庭教師兼お手伝いさん!」
「は?」
多分、ものすごく間抜けな顔をしたと思う。ママが言ったことを理解するのに数秒はかかった。家庭教師…家政婦…?
この人が?なんで?
「ちょっと待って!そんな話聞いてないし!いらないよ!」
「聞いてないって…いま、言ったんだもの。えりなの事だから最初に言えば絶対に断るでしょ?」
……当たり前じゃない。なんで年頃の娘をこんな得体の知れない男に任せようと思えるのよ!
「あたし17歳だよ?可愛い高校生!そんなの知らない男から見たらいつでも!…いつでも…」
3人がポカーンとした顔してこっちを見ている。
可愛い高校生は言いすぎたのかもしれない!でも!やっぱり無理!