第一話
倭国大乱演武の第一話になります。アクションと言っているもののまだそれっぽいシーンは書いておりません。ゆっくりと、けれどしっかり描いていきたいと思っております。次回は多少は描くと思うので楽しみにしていてくださいね。では!第一話をお楽しみに!
1
果たしてそれを眠りと一言にまとめてもいいのかどうかという点で彼女―――――、沙耶≪さや≫は疑問に思ってしまった。
目の前で横になっている四十代後半の男性は寝息を立てていない上に、違和感が残るぐらいに身動き一つしていない。まるで周囲に警戒心を放っているようである。
だから沙耶は一瞬だけだが近づくことにためらいを持ってしまった。
『この人は寝ているのだろうか?』
そんな疑問を心の奥に抱き、どうしたらいいのかどうか一分ほど悩んだ後―――――歩き出した。
一歩一歩、歩いていくうちにその姿が少しずつ拡大していく。突っ張った口ひげを蓄え、見たことこそないが深緑の簡易的な服は腕や胸元などに装飾品が付いている。
そして、服の上からでも分かるほど盛り上がった筋肉。見た目からして四十代後半ぐらいだと思われたその人物は、近づいてもまるで起きる気配がしない。
しかし、近づけば近づくほどに沙耶は体の端々に感じ取ることができるほど感じてしまう、気持ち―――――いうなれば『敵意』と言ってもいいのかもしれない。
そんな現代の言葉で例えれば『オーラ』と言ってもいいほどの気配をビンビンに感じ取る。
しかし、そんなことで臆病になる彼女ではない。
もとより彼女は村の人から反対を受けることを承知でここまで来たのだ。
彼女は物腰柔らかく、大人しく、優しい女性である。長い髪をストレートに伸ばしている。本来であれば貫頭衣を切るのが風習であるが、邪馬台国が侵略をきっかけに服装の自由が各地で起きるようになった。
それは結果としていろいろな服を創造出来るようになった。
その為、沙耶は薄い赤い色に染めており、腰の所で紐を縛っている。その為にスタイルがいいという事がよく分かる。
彼女の村では村長である『和義』が大らかであるため、基本こだわりがない。その為、和義と呼ばれる村長は簡素な服をきている。
そんな彼女は右手に山菜を入れた木の籠を持っており、それを持っているためだろうか、歩き方が多少ぎこちない。
彼の真横に近づいてそのまま座り込み、起こそうと空いていた左手を伸ばした。
「誰だ?お前」
そんな低い声と共に彼女の左手をつかんでしまう。そこまで強く触っているわけではないが、その声の低さはいまだに彼女に微かな恐怖を与えてくれる。
しかし、彼女は優しい微笑みを絶やさないように声をかけた。
「こんな所で寝ていると風邪を引いてしまいますよ」
整ってふんわりした声が彼の耳に届き、彼は思考を整えた後に左手を握っている右手を離した。
体を起こしてそのままもう一度彼女を下から上へと視線を上がっていく。まるで舌鼓をうつかのように品定めをしているような視線を放っている。
多少引き締まった腰、彼からすれば小さすぎず大きすぎない胸、細い手足が彼女のスタイルの良さを響かせている。
「わたくしの体に何かついているでしょうか?」
「いや、いい体をしているなっと」
本心がただ漏れ状態であるが、そこは年の功である。特に慌てるわけではなくむしろ悪乗りをしていく。
「しかし、体つきがいいというのは良い事だ。何せ見ていてこうまで眼福的な気分にさせられてしまう」
冗談に冗談を重ねることにより、罪悪感を誤魔化そうとする男性は目を瞑って『うんうん』とうなずく。
この時、彼はむしろ殴られるぐらいは覚悟していたし、むしろそれぐらいはされるだろうという事は覚悟していた。しかし、何も行動を起こさない彼女に疑問を抱き、うっすらをと目を開けると―――、そこには頬を赤くして照れていた沙耶がいた。
「うぉい!何真に受けてんだお前は!!」
咄嗟に叫んでしまう彼は驚きと共に体を多少浮かせ両ひざと両腕ついて正座に近い形で叫んでしまう。
「え?いえ……そういうわけでは無いのですが」
「違うわけねぇだろ!お前どういう意味だと思ったんだよ!?」
「いえ……それはきっと………綺麗という事ですよね?」
言葉を失うという意味を彼は初めて知ったのかもしれない。唖然、呆然自失である。
ここまで素直に受け取り、そのうえで返答に困ることを言われたのは初めてだからだ。
『どういう性格なんだ?こいつ?』
経験を積んできた彼からすればこんなにも真に受けられ、その上でキチンと理解しているのは初めてだったからだ。
「お前……すげぇな」
彼は心からそう思えた。
しかし、同時に感じる世界の広さと自分が見てきた視界の狭さを痛感させられてしまう。彼は四十年以上生きてきたが、こんな人間は初めて出会った。
むしろ、そんな世界を求めていた節が彼にはあった。
自分を知らない世界、自分が知らない世界を求めた。
辿り着いたこの場所はやはり自分の知らない世界だった、―――――という事を理解できたことに多少なり嬉しさを彼は感じていた。
だから、―――――彼は笑ってしまった。
馬鹿馬鹿しく思ってしまい、難しく考えようとしていた自分がアホらしく思えた。
「どうして笑うのですか?」
心底不思議そうな表情を浮かべ、どこがおかしい話なのか真剣に考えてしまう。
『新しい世界を楽しんでみるか』
彼は立ち上がり沙耶に向かって手を伸ばす。少しだけ間を開けて、考えて、そして自身の名を明かす。
「俺は大成≪たいせい≫だ。お前は?」
沙耶は伸ばされた手を右手で受け取りながら答えた。少しだけ照れくさそうにしながら。
「わたくしは沙耶です。大成様」
『大成様』という言葉の響きに大成はむずかゆさを感じてしまう。
彼女の体を起こしつつ、彼女に問いかける。
「沙耶だっけか?お前はどこから来たんだ?」
南側の谷間の方を指をさし「あちらです」っと答えた。
『あちら?確かそっちの方にそこそこ大きな村があったな。あそこのことか?』
大成はこちらに来た際にこの辺りは一通り歩いたことがあった。その際に、一つ村があることは気が付いていた。
大成はあえて近づかないようにと心掛けていた。しかし、ふと大成は上空を眺めると、既に太陽は傾き始めている。今から村の方に移動したならきっと夕方になるだろう。
『本来ならあまり近づかないようにするんだが………、でもこいつをほったらかしにしたらいけねぇんだろうな』
明らかに呆けているような彼女の存在は、大成にとっては不安材料でしかなかった。ほったらかしにしていたら獣の巣に突っ込んでいきそうだったからだ。
「案内してくれ、近くまで守ってやるよ。その辺の獣はある程度狩るか山の向こう側に追い返したんだが、不安だからな」
沙耶は多少驚きつつ再び笑顔で「ありがとうございます」と丁寧に返した。
暗くなりつつある中、沙耶は態勢と共に村に向かうことになった。
2
谷間を一つ越えた先にその村はある。大成はそれを知っていた。
何度か見たことがあるという旨を彼女、―――――沙耶に伝える。すると彼女は微笑みながら「何もない村ですが」っと答えて見せた。
『自分で何もないと言えるか……どうなんだろうな?そこを深く突っ込むべきか、避けるべきか悩んじまうな』
大成は知りたいという願いが心にはあった。
倭国と呼ばれているこの土地の事を、この周辺の事を知りたいと考えていた。
多少悩んでから尋ね―――――ようとした所でまるで愚痴を漏らすように話し始めた。
「この辺は歩きましたか?」
「ああ、多少はな?狩をする過程で色々と歩いた。村がある痕跡や国があった痕跡は見つけた」
大成はだからこそ気になってしまった。
この一帯を狩りをする過程でそれなりに大きな村や国の名残を見付けたが、どれもが酷く荒れており、人が住んでいるような気配だけは感じ取れなかった。
それ以外にもあちらこちらに戦いが起きた痕跡も見つけたが、同時に不思議に感じ取れることがあった。
もし、国同士の争いごとがあったのなら、どうして肝心の国が存在しないのだろうっと。
いくら国同士が争ったとしても、勝った国が残っているはずだ。そう考えた疑問の答えは沙耶があっさりと答えてくれた。
「この周辺………というよりは島々では多くの国が存在していました。あの日………邪馬台国と名乗る人達が海の向こう側からやってくるまでは」
『やまたいこく?聞いたことが無いな。なら……半島のほうか?』
大成には邪馬台国と呼んだ国の名前に聞き覚えが無かった。少なくとも自分が住んでいた一帯ではそんな名前の国や土地は存在しなかったはずだと考えた。
もちろん、大成は自身の記憶に絶対の自信があるわけでは無い。しかし、そんな変わった名前なら聞いたのなら忘れないだろうと考えた。
「その国が現れてから様々な国が破れて……消えていきました。勝てないと悟った国は邪馬台国に隷属されることを選び、邪馬台国は他の島へと渡っていきました。そして、残ったのは山賊に成り下がった国の元兵士達と残った二つの国でした」
「二つの国……か。その二つが隷属した国ってことか?」
「いいえ。南の方に存在する国『臥国』はこの島の中でも規模が最も大きく、いまだ邪馬台国の隷属していません」
いまだ隷属していないという言葉がグサリと心に突き刺さった。それは数多い国を滅ぼすことができた国がそうできなかったっという事だ。しかし、そういうわけでは無いという事を思い知る。
「邪馬台国は最後の国を亡ぼすことは結果からありませんでした。私達は後に隷属となった覇国から聞いた話では、滅ぼすことができたはずだっと。それだけ実力があったはずだっと」
『ならそうしなかった理由はなんだ?』
暗くなってきた中、足元を気を付けながら彼女の手を取り歩き続ける。
サラの足元を気を付けながら歩いていく大成は頭の端の方でそう考えていた。
多くの国相手に戦うことができるそうな国がそうしなかった理由。
サラの表情を窺う大成だったが、サラはその先を離せずにいた。それも当然だ、彼女は知らないのだから。
『まあ、今考えても仕方のない事か。俺には関係なさそうだしな』
と割り切り、落ち込んでいた空気を盛り返すために話を切り替えることにした。
「俺はな……逃げてきたんだ」
それは言い訳のようにも聞こえた。
いや、言い訳だったのかもしれない。「逃げてきた」という言葉が自然と沙耶の心をひきつけた。
「逃げてきた……ですか?どこから?」
沙耶からすれば体制がどこかの戦士なのかもしれないという事は安易に想像できた。
鍛え抜かれた筋肉、所々見え隠れしている傷痕。そして、先ほどから気になっていた腰に下げている細長い得物。
一見整えられた木の棒にしか見えないが、よく見ると上から三分の一の所辺りで切れ目が入っているのが視認できるからだ。
大成は決して目を沙耶に見せないようにしながら、まるで逃げるように視線をあえて正面に向ける。
「この海の向こう側から逃げてきた。まあ、理由は言いたくないんだが………期待に応えるのが怖くなったんだな。多分」
まるで他人事のように話すその姿はまるで未だに受け止めきれていないかのようだ。
きっと未だに受け止めきれていないのだろう。
「それが良い事なのだろうか今でも分からないんだ。まあ、悪い事なんだろうな。ま割けない……みっともない………」
沙耶は「でも」っと口を開く、その言葉は大成の心を多少は癒してくれる。
「時に逃げる事も大切だと思います。きっと大成様に必要だったのは逃げることだったのでは?」
もし、それができていればっと思う一方で、大成はそれができなかった自分の弱さを恨むことしかできない。
お互いに黙ってしまう中、彼らの正面に村の明かりが見えてきた。
沙耶の表情が明るくなり、村の門番の前に走っていく。門番は沙耶を探しに行くべきかどうかで揉めていた。
そんな状況下で沙耶が帰って来たのだから胸をなでおろしていた。しかし、その後ろに見慣れない大きな男がいるのだから面食らうだろう。実際、その男の方を見ながら慌てていると、沙耶は「松明をください」と頼み込んだ。
門番達は沙耶に火が点いた松明を渡し、沙耶はそのまま大成に渡してしまう。
「今から暗くなってしまいます。お気をつけて帰ってください」
大成は松明をもらいながらどこかぎこちない笑顔を作る。しかし、沙耶はどこかまだ申し訳なさそうにしていた。
「本当は村に止まってほしいのですが、長老たちは嫌がるので………本当にお気をつけて」
大成は心から微笑むことができた。きっと沙耶は本当に驚いてしまった。
「ありがとな。久しぶりに優しさに触れた気がする。あんがとよ。ありがたくもらっていくぜ」
そう言って大成は森の奥へと消えていく。
この村にはまだ力は無い――――――、けれどそれも時間の問題なのかもしれなかった。
どうだったでしょうか?大成というおっさんを主人公にしたかというと、今までの主人公ではありけない主人公像を求めたいという気持ちと、ある意味最強系を目指すうえで現実的な存在としてという二つの意味があります。ここである程度ネタバレを覚悟でしてしまうと大成の正体は多分知っている人は知っていると思います。まあ、これ以上は書きませんが。
次回は二人追加で登場することになります。女だけにならないよう、男だけにならないように頑張りますので応援よろしくお願いします!!




